どんな部隊に配属:潜水艦の乗員救出が任務の潜水艦救難艦に配属
飽和潜水訓練において、水深100メートル以上の深海で作業をする飽和潜水員
海上自衛隊には、遭難して海中から浮上できなくなった潜水艦の乗員を救出する潜水艦救難艦として『ちよだ』と『ちはや』があり、潜水艦の乗員を乗せるための小型の潜水艇や、深海での潜水を可能にする装置などを搭載している。飽和潜水員の主な配属先はこの2艦となる。
任務の内容:水深100メートル以上の危険な領域での人命救助
潜水訓練のため、専用の器材に乗り海に入る飽和潜水員。波や潮流にも対応できるよう訓練を重ねる
遭難した潜水艦は、海底に沈んだときに岩などに挟まれたりすることもある。その場合、救助作業の障害になるものを除去しなければならないのだが、潜水艦内にある酸素は限りがあるので作業中に給排気ができるようにホースなどを取り付けることが必要だ。
しかし深度2000メートルまで潜航でき遠隔で操作する無人探査装置などでは、その作業が困難な状況も多い。また斜めになって着底していて無人機が作業できないこともあり、その場合は飽和潜水員が直接現場へ潜水し、細かな作業を行う。
水深100メートル以上の深深度に潜水すると、水圧で体内の窒素が血液などに溶け込み、浮上するときにそれが気泡となって現れて人体に悪影響を及ぼす。そのため、ボンベを携帯して潜るスクーバ潜水では水深20メートルまでしか潜水できないが、飽和潜水員は100メートル以上、450メートルの深海でも長時間安全に作業できるよう、艦内の加圧室で体に高圧力をかけ、あらかじめ体内を深海にいるのと同じような状態にして潜水する。
水中では圧力に耐えられる特殊なスーツを着用。呼吸には体内に溶け込むのが少なく窒素酔いなどが起こらないヘリウムガスを使用して、最大4時間まで作業する。
求められる能力:重装備の任務に耐えられる負荷をかけての泳力が必要
「任務で求められるのは、スピードを出して前に進むクロールや平泳ぎなどの一般的な泳ぎとは異なる、救難に特化した泳ぎです」と盛山2等海曹。
水中では浮力があるとはいえ、水圧に耐えられるように頑丈に作られた約10キログラムのヘルメットと、約20キログラムの非常用ボンベを着用しての作業となるため、通常泳法に加え、5キログラムの重りを持って25メートルを完泳したり、立ち泳ぎができる泳力が必要となる。
訓練で大変なこと:気象によっては波、風が襲う
海は気象条件によって環境が激変する。変化する潮流、波高、うねり、風を頭に入れて泳ぎ潜るのは難しく、体力を消耗する。
盛山2曹の経験では「猛烈なスコールで周辺の視界を失い、自分の位置が把握できなくなったときは恐怖を感じました」とのこと。ほかにも、飽和潜水のため、深海の水圧と同じ気圧をかけた全長6メートルほどの広さの減圧タンク内で、最大6人の同僚と1週間以上、外部と遮断された生活を送るという。
取材した人:潜水艦救難艦『ちはや』 潜水科 潜水員 盛山2等海曹
飽和潜水員歴は2年。得意な泳法はクロール。「『泳ぎ』は自分のためのものではなく、救助を待っている人が安心できるためのもの」
(MAMOR2026年7月号)
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<文/古里学 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
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