ニュースで「経済安全保障」という言葉を耳にすることがありますが、これはいったい何でしょうか?
マモルの広報アドバイザー・志田音々さんが、東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬さんに聞いてみました。
【志田音々さん】
1998年、埼玉県出身。2023年から防衛省広報アドバイザー(注1)を務める
【井形彬さん】
東京大学先端科学技術研究センター特任講師。経済安全保障、インテリジェンス分野を専門に、先端技術や産業と国家安全保障の関係について分析や発信などを行っている。
(注1)防衛省・自衛隊の各種広報活動に協力することを目的として2023年に設けられた制度のこと
経済安全保障ってなに?

両首脳のドラム演奏が話題になった2026年1月の日韓首脳会談では、経済安全保障の協力強化として、サプライチェーンの強きょう靭じん化などの合意が進んだ
志田音々(以下、「志田」):最近「経済安全保障」という言葉を耳にする機会が多くなりました。これは何でしょう?
井形彬(以下、「井形」):安全保障は「国が」、「他国から」、「自国の領域や国民を」、「軍事力や外交によって」守るという概念です。 しかし最近は、直接国土や国民を守るだけでなく、国の経済や国民の人権、環境などさまざまな分野を、軍事力だけでなく「DIME(外交、情報、軍事、経済)」というさまざまな手段を使って守るという概念が生まれてきました。あらゆる分野が「安全保障化」されるというわけで、その中の1つとして生まれたのが「経済安全保障」になります。
志田:その「経済」とは、具体的にどのようなものを指しますか?
井形:われわれの生活に必要なものを全て日本国内で賄うのは不可能で、石油などのエネルギー資源は外国からの輸入に頼っていますし、食料自給率もかなり低い。また日本で製造されている商品でも、その原材料は他国から輸入している場合も多数あります。
例えば、あまり知られていませんが、日本の墓石の多くは中国やインドから輸入されているため、コロナ禍で輸入が滞ったときは、お墓を作ることが遅れてしまうこともあったんですよ。
志田:世界は目には見えないところで経済的につながっているんですね。
経済の武器化って?
特定重要物資と主な支援内容(2025年12月24日)
井形:先端技術の分野では、軍事転用が可能な製品が多いため、政府は法律で輸出を規制する必要が出てきます。例えば量子コンピューター技術は、創薬などの民間利用が期待される一方、現在の軍事通信や政府の機密情報を無力化する手段としても転用されかねません。
また自衛隊の装備品にもAIなどのコンピューター関連の先端技術が活用されているので、半導体やバッテリーに使用されるレアアース(希土)などの重要鉱物の輸入が止まると、国防にも大きなダメージが生じます。
志田:最近、中国が国民に対し日本への渡航自粛を要請していますね。
井形:中国は、政府が意図的に経済に介入する「経済の武器化」をしばしば行っています。過去の例としては、2010年に日本の海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突した事件をきっかけに、中国がレアアースの輸出規制を行い、日本の自動車メーカーなどに大きな影響が出ました。
志田:日本はどのような対応策を講じているのでしょう?
井形:10年の「レアアース・ショック」では、日本は、レアアースの調達先を中国以外の国へと拡大したり、使用済み製品からレアアースを取り出すなどのリサイクルや代替素材の研究開発で対応しました。
これをきっかけに、世界中で経済の武器化が進んでいく中で、経済活動に欠かせない重要物資の安定供給先の確保や、先端技術の開発支援などを盛り込んだ、「経済安全保障推進法」が22年に制定されました。半導体や肥料、天然ガスなど16品目を特定重要物資に指定し、企業に対して費用を支援するようになりました。
志田:私たち一人ひとりができることは何かありますか?
井形:たとえば、日本の海産物の輸出ができなくなった場合は、われわれが国内で買うなど、消費行動を変えることですね。以前、台湾産パイナップルの輸入を中国が停止したとき、日本の人々がそれを買って台湾を応援したことがあります。こうした応援消費で自国や同志国を支援することができるでしょう。
志田:日本を守るために、マグロやホタテをたくさん食べなきゃ! ですね(笑)。
(MAMOR2026年月3月号)
<文/古里学 写真/村上由美(人物)>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです




