•  自衛隊の任務は途切れることなく、国の安全を支えている。では、陸上自衛隊の駐屯地では夜間にどのような任務が行われているのか。

     2025年10月29日、マモルは練馬駐屯地(東京都)を取材した。

     駐屯地には、規律の維持、火災盗難の予防などを任務とする駐屯地当直司令をはじめ、各部隊にも数人の当直勤務者がおり、数日間続けて当直勤務に当たっている。さらに駐屯地の警戒および営門出入者の監視を任務とする警衛、駐屯地全体の消火活動にあたる消防、そして災害派遣に即応するファスト・フォース(注1)などが常時即応態勢を維持している。

    画像: 駐屯地の正門で、入門手続きをするマモルの取材陣。いよいよこれから練馬の長い夜が始まるのだ

    駐屯地の正門で、入門手続きをするマモルの取材陣。いよいよこれから練馬の長い夜が始まるのだ

     マモルは夕方から翌朝までの16時間に密着し、“眠らない駐屯地の一夜”を通して、自衛隊の夜間勤務の実像を追った。

    (注1)自衛隊が2013年から用いている初動対処部隊の名称。全国の駐屯地などに編成され、災害発生時に迅速に活動できるよう常時待機する体制を指す

    【17:15】当直勤務は国旗降下とともに開始

    国旗降下を行う駐屯地当直司令(左下)。5分前に降下を担当する隊員と事前に予行を行い、本番3分前には待機している

     自衛隊の課業(業務や訓練)時間は、訓令により原則8時15分から17時までと定められているが、駐屯地によって異なる。

     基地・駐屯地では毎朝、国旗が掲揚され課業開始となり国旗降下後に課業終了となるが、当直勤務は国旗降下とともに始まる。

     国旗降下の5分前には駐屯地当直司令と降下を担当する隊員3人が整列。練馬駐屯地では17時15分になると国旗降下を知らせるらっぱが演奏される。『君が代』の演奏に合わせて降下した国旗は丁寧に折りたたまれ、駐屯地司令室の専用棚に格納される。

    画像: 退庁する駐屯地司令。駐屯地当直司令に所要の指示をした後、警衛や歩哨に見送られながら駐屯地を後にする

    退庁する駐屯地司令。駐屯地当直司令に所要の指示をした後、警衛や歩哨に見送られながら駐屯地を後にする

     その後、駐屯地当直司令は隊舎前で駐屯地司令に異常の有無を報告して正門前まで移動し、退庁する駐屯地司令を見送る。

     駐屯地司令不在間、駐屯地全体の規律の維持と火災盗難の予防などを担うのが「駐屯地当直司令」だ。

     駐屯地当直司令は3佐から1尉の階級で、駐屯地当直副官(陸曹長や1曹など)と駐屯地当直伝令(陸士)とともに、態勢を維持し、異常の有無を確認して非常時には即座に判断を下す——いわば“夜の駐屯地司令”である。

     ここからいよいよ駐屯地当直司令の長い夜が始まる。

    【17:25】当直室にて勤務を開始

    画像: 駐屯地当直司令(右)の承認を得るため、書類を提出する駐屯地当直副官。駐屯地に出入りする業者の予定や人数など、当直勤務中は駐屯地の警備に関するさまざまな事務作業を行う

    駐屯地当直司令(右)の承認を得るため、書類を提出する駐屯地当直副官。駐屯地に出入りする業者の予定や人数など、当直勤務中は駐屯地の警備に関するさまざまな事務作業を行う

     23時に全館消灯するまでの間、駐屯地当直司令以下、補佐を行う駐屯地当直副官と駐屯地当直伝令の3人は駐屯地当直司令室に詰めている。

     ほかにも、練馬駐屯地の各部隊の当直勤務者から報告を受けたり、さまざまな事務仕事を行う。

     連絡態勢を維持するため交代で夕食や入浴に行くが、隊員食堂での夕食は30分足らず、風呂は隊舎3階にあるシャワーを使い5分ほどですませ、緊急の電話にすぐ出られるようにシャワー中はスマホのマナーモードを解除しておく。

     ちなみに、部隊の当直勤務者には、各部隊の外出申請をした営内者に対し、外出証などの交付と門限までに帰ってきた隊員をチェックする役割がある。

    【23:00〜】夜間は有事に備え態勢を整える

    画像: 駐屯地内の各部隊にいる当直勤務者から点呼報告を受ける駐屯地当直副官ら。駐屯地内の全ての隊員の状況を把握する必要がある

    駐屯地内の各部隊にいる当直勤務者から点呼報告を受ける駐屯地当直副官ら。駐屯地内の全ての隊員の状況を把握する必要がある

     駐屯地や部隊によって違うが、練馬駐屯地の場合は23時消灯、その前に当直勤務者は、部隊ごとに人員の状況を把握するための点呼を行う。各部隊から点呼の報告が駐屯地当直司令に上がってくる。

    画像: 車両で巡回する駐屯地当直司令と警衛。外柵沿いをはじめ主要地点を丁寧に見回り、異常の兆しや不審者の侵入がないかを確認していく。静まり返った夜間でも目を光らせている

    車両で巡回する駐屯地当直司令と警衛。外柵沿いをはじめ主要地点を丁寧に見回り、異常の兆しや不審者の侵入がないかを確認していく。静まり返った夜間でも目を光らせている

     自衛隊の駐屯地や基地は、災害や有事などが発生した場合は、夜間でも即応できるように態勢を整えている。そのため隊員は、駐屯地・基地(艦艇を含む)内に居住する義務(注2)を負い、緊急事態発生時には、隊員を呼集して、駐屯地司令に報告し、指示を仰ぐこととなっている。

    画像: 隊舎の消灯を行うのも駐屯地当直副官の仕事。消灯後は、駐屯地全体が静まり返るが、当直室だけは所要の業務が終了するまで明かりがともり続ける

    隊舎の消灯を行うのも駐屯地当直副官の仕事。消灯後は、駐屯地全体が静まり返るが、当直室だけは所要の業務が終了するまで明かりがともり続ける

     営外の隊員であっても緊急事態の場合は規定時間内に出勤しなければならないと定められている。駐屯地司令であっても同様だ。

    画像: 夜間は消防勤務の隊員が消防車で巡回し、駐屯地内に不審火などがないかを定時に確認している

    夜間は消防勤務の隊員が消防車で巡回し、駐屯地内に不審火などがないかを定時に確認している

     また、災害発生時に備えて、初動対応を担うファスト・フォースが、災害発生後、1時間以内に活動を開始できるように、必要な装備品の準備や車両の点検などを日ごろから徹底している。

    (注2)自衛隊では、自衛隊法施行規則で定められたとおり、原則として独身の曹・士は駐屯地内の隊舎に居住しなければならない。これは迅速な参集や規律保持を目的とした制度で、非常時には速やかに集合できる態勢を維持することが求められる

    警衛は夜間も勤務

    駐屯地内を巡察する当直勤務者。物陰や車両の下など見落としやすい場所まで丁寧に確認していく

     当直勤務者である隊員は持ち回りで巡察を行う。各隊員が担当する時間になると、懐中電灯で物陰などを照らしながら駐屯地内を徒歩で巡察する。

     その間にほかの巡察中の当直勤務者と出くわすことがあり、その場合は必ず相手の所属部隊などを確認する。

    画像: 正門を警備する歩哨。人の出入りがあるときは身分証などのチェックを欠かさない

    正門を警備する歩哨。人の出入りがあるときは身分証などのチェックを欠かさない

     当直勤務者以外にも、夜間の正門では警衛の歩哨が夜通し立番するほか、受付と警衛司令が不寝番を行っている。

     また24時間交代で詰めている消防勤務の隊員は、消防器材・設備や車両の点検、整備、駐屯地内の巡察を行い、そのほかの時間でも火事などの通報があればすぐ現場に駆け付けられるよう待機している。

    【7:10】次の駐屯地当直司令に引き継ぎを行う

    画像: 今夜の駐屯地当直司令を担当する隊員(右)に引き継ぎを行う駐屯地当直司令。当直勤務中に起きたことなどを細かに伝える

    今夜の駐屯地当直司令を担当する隊員(右)に引き継ぎを行う駐屯地当直司令。当直勤務中に起きたことなどを細かに伝える

     営内者の起床は6時。6時に起床らっぱが流れるのと共に駐屯地当直副官が隊舎のロビーの照明のスイッチを入れ、その後点呼が行われる。

     7時過ぎ、今夜の駐屯地当直司令を担当する隊員が出勤。駐屯地当直司令は昼間の勤務が終了すると退勤となるため、勤務中に起きたことの申し送りなどの引き継ぎを行うために、この時間にミーティングを行う。

     8時過ぎ、駐屯地司令の補佐を行う副官から駐屯地司令が出勤する連絡を受けると、隊舎前で駐屯地司令を出迎える。

    【8:30】国旗を掲揚し、当直勤務終了

    画像: 駐屯地司令室に収められている国旗を持ち出す駐屯地当直司令(右)。駐屯地司令は国旗に敬礼し、国旗掲揚が行われる

    駐屯地司令室に収められている国旗を持ち出す駐屯地当直司令(右)。駐屯地司令は国旗に敬礼し、国旗掲揚が行われる

     今夜の駐屯地当直司令との打ち合わせ後、駐屯地司令を出迎えるまでの合間を縫って国旗掲揚の準備に入る。掲揚台でリハーサルを行い、本番は8時半から。

     掲揚後は2人の駐屯地当直司令が駐屯地司令室に行き、当直中の出来事の報告や勤務日誌の提出、書類の決裁をもらい、その後再び駐屯地当直司令同士の打ち合わせを行って、9時前に当直勤務が終了。マモル取材陣も練馬駐屯地を後にした。

    (MAMOR2026年2月号)

    <文/古里学 写真/荒井健>

    国防は眠らない

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    This article is a sponsored article by
    ''.