•  防衛省・自衛隊では政府の「基本方針(注)」に則り、自衛官の生活・勤務環境の改善と同時に、給与などの見直しを実施・検討するなど処遇の改善も推進している。

     その具体例について、防衛省の人的基盤強化企画室の宮田室長に話を聞いた。

     また、こうした改善策が自衛隊の人材確保においてどのような効果をもたらすか、リクルートワークス研究所で、公務員制度やキャリアデザインなどを研究している橋本賢二氏に聞いた。

    (注)「自衛官の処遇、勤務環境の改善および新たな生涯設計の確立に関する基本方針」のこと

    自衛官の安定した生涯設計の確立に取り組む

    「自衛官の処遇改善では、隊員のニーズを踏まえ、施策の見直しや新たな方策など、引き続き検討していきます」と宮田室長

    「優秀な自衛官を安定的に確保し続けるためには、これからの防衛力の担い手となる若い世代が安心して任務に就き、現役生活を送り、退職後も充実した暮らしができるような今の時代にふさわしい処遇を得る必要があります」と宮田室長は語る。

    ※特殊作戦群…習志野駐屯地(千葉県)に所在する、ゲリラや特殊部隊による攻撃への対処に当たる陸上自衛隊唯一の特殊部隊

     そのため、2025年度には例えば、航空機の運航に関する業務を行う航空管制官の特殊性・困難性を評価した航空管制官手当の新設や、災害派遣に従事する隊員の労苦を伴う負担が増大していることから、災害派等手当の手当額の引き上げなどを行ったという。

     さらに一般曹候補生自衛官候補生で入隊する隊員が、不慣れな隊舎での共同生活を義務づけられることに対して支給される「指定場所生活調整金」を新設。採用後、1年ごとに20万円、最長6年間で総額120万円が給付される。

    「自衛官の中でも、特殊でかつ過酷な任務に就く隊員に対して、適切な処遇を図るため、25年度に30を越える各種手当などを新設・拡充しました。

     このような見直しはこれまでも行っており、例えば、24年度には、長期間、任務で拘束される護衛艦や潜水艦の乗組員に支給する乗組手当は、3曹の場合、月額で約2~3万円増加したりするなど、継続的に処遇を改善しています」

     自衛官の安定した生涯設計の確立についても推進していると、宮田室長は言う。

    「自衛官の多くは、若年定年制によって56歳で退職することから、再就職や再就職後の再就職など、収入に不安を感じさせないようにすることが、自衛官の確保にとっても重要な課題だと考えています。

     なので今後は、自衛官としての知識や技能、経験を活かした再就職先を拡充。そして、一般に再就職の際に目減りする賃金を考慮して支給される、若年定年退職者給付金の給付水準の引き上げも検討しています」

     さらに、「現在でも退職した自衛官が活躍している消防、海上保安庁などのさまざまな公的機関や、全国の地方公共団体の防災・危機管理部門、各種業界団体などへの雇用の働きかけなどをより積極的に行っています。今後も防衛省として自衛官の安定した生涯設計をサポートするよう努めたいです」と宮田室長は抱負を語った。

    「開かれた組織」への変革が自衛官の確保につながる

    「現在、自衛隊が進めている生活・勤務環境と処遇の改善策は、一般企業で行われている施策と同様の方向で進展していると思います。

     企業の約7〜8割が新卒の初任給を引き上げたり、社員寮の整備などをしたりしているように、自衛隊でも、同様に改善策を実施することで、学生などが職を探す際、選択肢の1つになることが期待できます」

     そう語る橋本氏は、自衛隊の改善策が、画期的な試みだとして注目しているという。

    「防衛省・自衛隊が2025年度に打ち出した『人的基盤の強化に関する有識者検討会』の報告では、トップダウンの指揮命令系統が厳格な自衛隊が、現場で働くいくつもの部隊からのボトムアップの意見を尊重し、それを改善策に生かしています。

     そこに、自衛隊が組織を変革して、『開かれた組織』へと変貌しようとしている兆しが見られます」と橋本氏。

     続けて、内外に「開かれた組織」には人が集まりやすいと、橋本氏は言う。

    「今は少子化が進み、どの業界であっても人材確保が難しい状況です。

     これまで通り、SNSを取り入れた自衛隊をアピールする広報活動に加え、民間事業者や予備自衛官などのOBやOGの活躍が広がれば、自衛隊が謎のベールに包まれた組織ではなく、やりがいや生きがいに溢れる職場であることが組織の外にも伝わりやすくなります。

     市民社会により開かれた組織になっていけば、時間はかかるものの、着実に人材の確保につながっていくと思います」

    【橋本賢二】
    1981年、埼玉県出身。リクルートワークス研究所研究員。2007年人事院に採用。15 ~18年には経済産業省で働き方改革の推進などの施策を担当。22年より現職

    (MAMOR2025年10月号)

    <文/魚本拓 写真提供/防衛省>

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    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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