•  今、自衛隊では自衛官の生活・勤務環境改善のための施策が進められている。

     その背景には、働きがいや生きがいを重視する社会へと変化する中で、いかに優秀な自衛官を確保するかという課題がある。その課題に対処するため、自衛隊では、誰もが働きやすく暮らしやすい環境を整えようとしているのだ。

     自衛隊全体での生活・勤務環境改善の施策をはじめ、陸・海・空各自衛隊の具体策を紹介しよう。

    自衛官の厳しい任務に見合う処遇と環境を整備

    画像: 力を合わせて任務する隊員たち。生活・勤務環境が整い笑顔を見せる 写真/荒井 健

    力を合わせて任務する隊員たち。生活・勤務環境が整い笑顔を見せる 写真/荒井 健

     自衛官は国の防衛のために日々厳しい訓練や任務などを行っている。しかし自衛官だからといって普段の生活でも厳しい環境に耐え続ける必要がある……ということにはならない。

     優秀な人材を確保するために今、自衛隊が取り組んでいるのは自衛官の勤務と生活の両面で環境を改善し、自衛官一人ひとりが働きがいを実感できるような組織にしていくことだという。

     そこで、まず陸・海・空各自衛隊共通の施策として実施しているのが、教育隊を除いて、隊員のプライバシーに配慮した、隊舎居室の個室化だ。

    これまでの隊舎は約4〜6人の隊員が同一の部屋で寝食を共にしていた。今後新設される隊舎居室については則原則個室化されることになっている

     まずはパーテーションで仕切るなどして個室化を展開していき、2028年度までに完了することを目指している。さらに、建て替えられる隊舎については、全ての居室が個室として設計される予定だという。

     また、女性隊員の確保のため、全国の駐屯地・基地の女性用トイレや浴場の整備、隊舎・庁舎の女性用区画の整備、学生舎の新設なども進められている。

     こうして、自衛隊では現在、誰もが働きやすい組織へと変化するための施策を進めているのだ。

    陸自では、職場や作業環境の改善と自衛隊の魅力化を推進

    しょう舎の建て替えの際に整備された女性用の浴室。しょう舎の多くは1970年代に建設したもので、その浴室はだいぶ経年劣化していた。

    「陸自では、隊舎の建て替えや改修と並行して、演習場の一時的な宿泊施設であるしょう舎の建て替え・改修も実施しています。また、老朽化したトイレの改修や、宿泊時に使用する寝台のマットレスの改善などを逐次、実施していく予定です」

    老朽化が目立つ演習場の旧施設の隊員用共同トイレ。新設されたトイレでは隊員のニーズに合わせ一部を除き洋式化された。

     そう話すのは、陸上幕僚監部の平1等陸佐。陸自の訓練や任務で使用する装備品でも、それを扱う隊員に配慮した改善が行われているという。

    画像: 今までは隊員一人ひとりが時間をかけて駐屯地などの芝を刈っていたが、大型の芝刈り機が導入され作業がラクになった

    今までは隊員一人ひとりが時間をかけて駐屯地などの芝を刈っていたが、大型の芝刈り機が導入され作業がラクになった

    「現在の地球温暖化による任務中の熱中症対策として、すでに冷房装置が備わっている小型・大型トラックに加え、高機動車(注)にも冷房装置が導入されました。

     また、隊員がさまざまな任務を遂行する際、各自の能力を最大限に発揮するための制服や作業服などの被服における、適切なタイミングでの更新を行っています」と、平1佐は言う。

    「ヘアスタイルについては、2024年度から、女性はショート、男性は短髪という基準を見直しました」と話す平1佐

    「実際に被服を身に着けている隊員たちに意見を聞き、仕様を改善したり、作業による消耗度を考慮して、支給する枚数を増やしたりしています。

     例えば、現在支給されている軍手1組、白手袋1組に加え、フィット感があって滑りにくく、作業しやすい革手袋を追加で1組支給したり、耐久性と快適性を改善した靴下を4足から6足へ、作業下衣(Tシャツ)を2着から5着へ増やしたりしています」

    ジャケットタイプの作業服。普段でも心地良く着られるようデザインに配慮している

     さらに、作業服のジャケットや中帽は、機能性だけでなく、普段でも着られるようなデザイン性のあるものを採用したという。

    「単に働きやすい環境の整備にとどまらず、働く姿がかっこいいという、自衛隊という職業の更なる魅力化を進めていきたいと思っています」

    (注)人員輸送用の車両。未舗装の道でも高速で走行でき、高い機動力を発揮する

    海自では、カプセルホテル型の寝台と通信環境を艦船に整備

    改善された寝台のイメージ。完全にカプセルホテル型仕様のプライバシー空間となっている 

    「主力となる装備品である艦船で長い期間、訓練や任務を行う隊員が多い海自では、勤務する場所がそのまま生活空間になります。

     居住スペースとしては狭小なので、これまでは生活上、隊員には多くの不便がありました。それを少しでも解消し、隊員が勤務しやすい環境になるよう、改善策を実施しています」

    「食の面では、デザートメニューを取り入れるなど、隊員が喜ぶ食事を提供するように心がけています」と話す熊代1佐

     そう話す海上幕僚監部の熊代1等海佐によれば、現在、艦船内の居住区画にプライベート空間「カプセルホテル型寝台」を導入できるよう進めているという。

    画像: 個室内にはミニテーブルを設置

    個室内にはミニテーブルを設置

    「容積上の制約があり、既存の艦船を含めた全艦に、というわけにはいきませんが、できるだけ多くの艦船に、カプセルホテル型の寝台を設置しようとしています」

    画像: 開放的なスペースが広がる

    開放的なスペースが広がる

     同時に、隊員が疲労回復のために快眠できるよう、寝台のマットレスを、より快適な民間の製品に変更することも予定されている。

    画像: スターリンクアンテナを艦船に搭載することにより、隊員が私物のスマホを閲覧できるようになった

    スターリンクアンテナを艦船に搭載することにより、隊員が私物のスマホを閲覧できるようになった

    「また、これまで、遠洋では携帯電話の電波が不通になり、隊員の安否を気遣う家族などとの通信が制限されていましたが、現在、それも解消されつつあります」

     具体的には、衛星通信サービス「スターリンク」を艦船に導入し、居住空間などにWi-Fiのルーターを設置。それにより、隊員が私物のスマホでインターネットを利用できるようになるという。

    「勤務時間外での使用など、一定のルールの下でではありますが、現在は一部の艦船で運用しており、インターネットを利用できる環境を順次、拡大していく予定です」

    空自では、山頂や離島などの遠隔地で勤務する隊員の生活・勤務環境を改善

    画像: 山頂などにあるレーダーサイトなどでは、衛星通信アンテナやルーターなどを導入して勤務する隊員の通信手段の確保による改善を行っている

    山頂などにあるレーダーサイトなどでは、衛星通信アンテナやルーターなどを導入して勤務する隊員の通信手段の確保による改善を行っている

     空自の基地の中でも、特に厳しい勤務環境の特徴として挙げられるのは「日本周辺の空域を監視するレーダーサイト(航空警戒管制部隊)が全国に28カ所あり、その多くは、山頂や海岸沿いなどの遠隔地に設置されていること」だと、航空幕僚監部の古田1等空佐は言う。

    古田1佐は「アンケートなどから隊員の要望を把握し、更なる勤務・生活環境の改善に取り組んでいきます」と話す

    「レーダーサイトが離島に設置された基地もあり、そうした基地では近くの公共交通機関や周辺の娯楽施設も限られることから、隊員に自動車を貸し出すカーシェアリングを導入したり、隊舎の通信環境を整備したり、一部の基地ではキャンプやスキーなどのレジャー用品の貸し出しを行うなど、隊員の生活・勤務環境の改善に努めています。

     そして、こうした厳しい環境で勤務する隊員には、生活・勤務環境の改善だけではなく、苦労に見合った処遇の改善(対空警戒対処手当の拡大など)を進め、やりがいを持って任務に就けるよう努めています」

    (MAMOR2025年10月号)

    <文/魚本拓 写真提供/防衛省>

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    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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