陸上自衛隊による国内最大の実弾射撃演習といわれている「富士総合火力演習」(総火演)は、教育効果の追求によって訓練重視のスタイルに大きな進化を遂げている。
2025年6月8日に実施された総火演を、自衛隊ファンというタレント・小杉怜子さんをアシスタントに、軍事フォトジャーナリストの菊池雅之氏が「演習シナリオ」の変化に着目し、実況中継する。
また、暗闇の中で行われる「夜間演習」の様子もレポートした。
演習シナリオは、より実戦的に!
1:正面に防御陣地を置き敵部隊の侵攻を阻止し 2:戦闘車両などが敵の弱所を攻撃 3:離島からミサイルを発射して島を防衛する、という想定で行われた
小杉怜子(以下、小杉):次から次へと演目が進められていますが、総火演の進行には台本があるのですか?
菊池雅之(以下、菊池):総火演でのシナリオは、時代ごとに大きく分けて3つありました。
まずは東西冷戦下、北海道に旧ソ連が大規模な兵力で侵攻してくる「大規模着上陸」に対抗するというもの。2000年代になると対テロ戦闘、ゲリラ対処などが重視されます。
10年以降は、中国や北朝鮮などを見据えた南西地域の脅威が注目を集め、島しょ防衛がメインに。
近年は、「多次元的防衛」、「宇宙・サイバー・電磁波」分野を取り入れるなど細かく変更はありましたが、基本的には「島しょ防衛」が継続的なテーマとなっています。
今回も、日本の島しょ部に敵が侵攻してきたという想定で実施されていますね(イラスト参照)。
小杉:今回のシナリオは、昨年と比べて、どのように変わりましたか?
1:上陸地点を確保し主力部隊を上陸させ 2:戦闘車両や迫撃砲などで敵の占領地域に攻撃を行う 3:航空機も攻撃を行い島を奪回する、という想定で行われた
菊池:総火演は大きく「前段演習」、「後段演習」と2つに分かれています。
これまで前段演習ではそれぞれの装備品で射撃しているところを見せて、後段では、具体的なシナリオに沿って演習が行われる、という流れが通例でした。
しかし、今回は前段演習も前半と後半に分け、この後半から島しょ防衛というシナリオに沿った一連の動きを見せるようになったのが大きな変化です。
さらに個々の装備についても「戦闘において、何を目的に使われるのか」を丁寧に説明され、わかりやすくなっていますね。
小杉:以前は、後段演習だけでシナリオに沿った戦い方を見せていたんですね。
菊池:そうですね。そのため攻撃か防御か、毎年どちらかのシーンを見せるだけだったんですが、今回は前段演習の後半部分で防御戦闘を、後段演習で攻撃戦闘を、というようにどちらも見せることができ、教育を受けるために観覧している隊員もよりリアルな戦闘をたくさん見られますし、教育上も充実した内容になったのではないでしょうか。

歌舞伎の花道さながらに、観覧席の脇に道が増設された。戦車などの進入を間近で見られ、教育を受ける隊員の理解度アップに一役買っている
ほかにも、観覧席の脇に機動路が新しく作られていましたね。昨年まで車両や部隊は観覧席から見て左右から入ってくるだけでしたが、今回は後ろから戦車や装甲車が入ってくるというシーンが見られました。
小杉:あの道は今までなかったんですか?
菊池:はい、長い総火演の歴史でも初めてですね。非常に印象的な変化だと思います。
気になった装備品をチェック!

【V-22(ぶいにじゅうに)】
ローターの軸の向きを変えることで速度を出せる固定翼モードと、ヘリコプターのように離着陸できる回転翼モードを切り替えることができる。今夏、佐賀駐屯地に移駐 <SPEC>全幅(回転翼含む):約25.8m 全長(回転翼含む):約17.5m 全高:約6.7m(数値は回転翼モード時)航続距離:約2600km
【UH-2(ゆーえいちつー)】
2022年から部隊配備を開始した陸自の新型多用途ヘリコプター。UH-1と形が似ているが、エンジンは単発から双発に、メインローターも2枚から4枚になるなど大幅にパワーアップした新型機だ <SPEC>全幅(回転翼含む):約14m 全長(回転翼含む):約17m 全高:約4.5m 航続距離:約669km

【AAV7(えーえーぶいせぶん)】
地上を走行するだけでなく水上を航行する能力を持つ装軌式の水陸両用車両。南西方面の防衛体制を強化するために装備されている <SPEC>全幅:3.3m全長:8.2m 全高:3.3m 全備重量:約22t 最高速度:約72km/h(陸上)
総火演には、夜間演習もあるんです!

暗闇の中、主砲を射撃する16式機動戦闘車など。発砲炎で一瞬だけ周囲が昼間のように明るく照らされる
小杉:総火演は昼間だけではなく、夜の部もあるって本当ですか?
菊池:そうなんです。真っ暗な状態で戦車、装甲車などが射撃を行います。あたり一帯を照らすことができる「照明弾」なんかも撃ちます。
教育を受ける隊員は、個人用暗視装置を使ったり、現地に設置された大型モニターに表示される状況を見たりしながら、暗闇での射撃や照明弾の効果を実感できます。
戦いは昼間明るいときだけ行われるわけではありません。こうして夜の戦い方の一部を学ぶのもとても大切ですね。
小杉:肉眼では足元も見えない状態で正確な射撃をするのはすごいですね!
【解説/菊池雅之氏】
1975年、東京都出身。雑誌の専属カメラマンを経て、現在はフリーの軍事フォトジャーナリストとして世界各国の軍や自衛隊を取材。総火演は少年時代から見続けており、30年超のキャリアで得た視点から、その変化を語る
(MAMOR2025年10月号)
【アシスタント/小杉怜子さん】
2004年、神奈川県出身。ミスコンテスト「FRESH CAMPUS CONTEST 2002」(エイジ・エンタテインメント主催)にてグランプリ受賞。中学時代に家族で総火演を見て以来、自衛隊の装備品や訓練に興味を持つように
<文/臼井総理 写真/荒井健、増元幸司(菊池雅之)、星亘(扶桑社、小杉怜子)、臼井総理 イラスト/ナーブエイト>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです






