•  陸上自衛隊警務隊に所属する警務官は、刑事訴訟法第190条で規定された特別司法警察職員。自衛隊の基地・駐屯地の敷地や施設などで発生した事件・事故を捜査する特別な権限が与えられている。

     警察官と同様の捜査を行うという警務官の実際の任務について、中央警務隊第1班長の宮崎3等陸佐に話を聞いた。

    自衛隊内部で発生した事件・事故の捜査を行う

    画像: 事件現場で各捜査員が集めたさまざまな情報は「移動用クローズ系クラウドシステム」を活用して本部などへ報告される 写真提供/防衛省

    事件現場で各捜査員が集めたさまざまな情報は「移動用クローズ系クラウドシステム」を活用して本部などへ報告される 写真提供/防衛省

    「われわれの任務は、自衛隊内で起こった事件や事故を徹底的に捜査することです。例えるならば自衛隊の警察のようなものでしょうか」と宮崎3佐が説明する。

    「テレビドラマで目にするような任務もあります。具体的には事件や事故の解決の糸口となる、指紋や足跡などの痕跡・証拠を収集する『現場鑑識』や、そのほかにも、刑事事件で被疑者や被告人、参考人に事情を聞く『取り調べ』、遺体とその周囲の状況を調査し、死因や犯罪の有無を特定する『代行検視』なども警務官の任務なのです。

     また、被疑者などの生理反応を測定し、事件・事故に関わる特定の事実を知っているか否かなどの認識度を判定する『ポリグラフ検査』も行っています。

     最近ではパソコンやスマートフォンなどの記録媒体を被疑者から受け取り、調査・解析して証拠を集め、事件・事故の原因を究明する『デジタルフォレンジック』という任務もわれわれの仕事の1つになっています」

    「警務官に求められているのは、事件・事故に対する適正な捜査と、正確性のある報告を徹底し、任務にまい進すること」と話す宮崎3佐

     警務隊の重要な任務の1つとして宮崎3佐が挙げたのが、自衛隊内での事件・事故を未然に防ぐ防犯活動だ。

    「警務隊に与えられた使命は、なによりも『自衛隊内部の秩序維持』です。このため、自衛官たちが安全に任務に就けるように防犯活動も行います。

     例えば、全国の基地・駐屯地で、警務隊の白バイで定期的にパトロールを行うこともしますし、さらに、警務官が自衛官たちに対し、窃盗や暴行・傷害などの犯罪を未然に防ぐための話をする『防犯講話』を全国の自衛隊の施設で実施しています。

     こういった各種防犯活動は年間を通じて頻繁に行われており、被害者はもちろん被疑者を出さないためにも重要な任務だと捉えています」

    ハイテク器材による訓練で捜査の効率化を目指す

    画像: 捜査用の特殊光源装置では、専用のフラッシュライトを照射することで、現場に残された血痕を強調し、視認性を高めることが可能だ

    捜査用の特殊光源装置では、専用のフラッシュライトを照射することで、現場に残された血痕を強調し、視認性を高めることが可能だ

     現在、警務隊では、移動用クローズ系クラウドシステム(以降クロクラ)などの通信ネットワークによる情報交換・共有を行うICT(情報通信技術)や、ハイテク器材を活用した事件・事故の捜査の研究を進めている。

    より効率化した捜査を行うための実証実験ともいえる、さまざまな器材を使用した警務隊の訓練を紹介しよう。

    画像: 現場で撮影した捜査映像や音声はコンピュータ内に取り込まれすみやかに本部へと送られる

    現場で撮影した捜査映像や音声はコンピュータ内に取り込まれすみやかに本部へと送られる

     戦闘服に身を包んだ警務官たちが、事件・事故が発生した現場に見立てた駐屯地内の施設に現れた。警務官たちはそれぞれ、各自が担当する器材を携行している。

     1人が手にしていたのは、ハンディー型の3D測量器材。レーザーを照射して、施設内に設置された家具などの対象物の形状や寸法を高精度で計測し、3次元データとして取得する器材だ。これにより、事件・事故現場を正確かつ迅速に記録・図面化できる。

     また、ある警務官は、犯罪捜査用の特殊光源装置を操作。指紋や血痕、体液、繊維、足跡などの証拠を検出する装置だ。

     3D測量器材や特殊光源装置で得られた映像情報は、各本部などの遠隔地へと伝送される。さらに、これらの情報を基に、さまざまな痕跡の残る事件・事故現場の状況を可視化した見取り図を作成し、複数の警務官で共有することもできる。

    画像: 移動用クロクラは「クローズ系」の名のとおり、外部に情報が漏れない閉鎖的なシステムとなっている

    移動用クロクラは「クローズ系」の名のとおり、外部に情報が漏れない閉鎖的なシステムとなっている

     警務官の中に、パソコンに向かって会話をしている隊員がいる。陸自の「移動用クローズ系クラウドシステム」を使用して、各本部へ現場の状況を報告しているのだ。

     このシステムは、陸自が有事の際に戦術面で活用する「指揮システム」を捜査用に応用したシステム。これにより、事件・事故現場と各本部とで、捜査の進展のためにリアルタイムで情報共有、円滑なコミュニケーションを行うことが可能だ。

     警務隊ではこうした訓練で得られた結果を検証・蓄積し、将来的なICTを活用した捜査の実現を目指しているという。

    (MAMOR2025年8月号)

    <文/魚本拓 写真/増元幸司>

    特別司法警察最前線'25

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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