太平洋戦争を戦い抜き、多くの命を救った旧日本海軍の駆逐艦『雪風』。実話を基に製作された映画『雪風 YUKIKAZE』が、戦後80年となる2025年8月に公開予定だ。
マモルでは、玉木宏さんが演じる、部下や家族に対する思いやりにあふれた先任伍長に着目。
これまで多くの軍人や自衛官を演じてきた玉木宏さんに、公開に先駆けて、お話を伺った。
ヘアメーク/渡部幸也(riLLa)スタイリスト/上野健太郎 衣装/シャツ3万5200円、パンツ4万4000円/MARKAWARE、シューズ6万4900円/FERRANTE
【玉木宏(たまき・ひろし)】
1980年1月14日生まれ。愛知県出身。98年にドラマ『せつない』(テレビ朝日)で俳優デビュー、映画『ウォーターボーイズ』(2001年・東宝)の好演で注目を集める。その後も、テレビドラマや映画、舞台やCMなどに数多く出演し、ミュージックビデオやショート・フィルムの監督、写真家など幅広く活躍している。主な代表作は、ドラマ『のだめカンタービレ』(06年・フジテレビ系)、映画『真夏のオリオン』(09年・東宝)、映画『沈黙の艦隊』(23年・東宝)、映画/ドラマ『ゴールデンカムイ』シリーズ(24年・東宝/WOWOW)など。11月にはNetflixドラマ『イクサガミ』の配信が控えている
命の尊さを若い世代の人に感じてほしい
――戦後80年という今年、戦争をテーマにした『雪風 YUKIKAZE』に出演するにあたって、どのような思いがありましたか?
玉木:戦争を実際に経験された方が少なくなっている今だからこそ、教科書ではなくエンターテインメントを通じてその記憶を伝えていくことは、特に若い世代を含む“戦争を知らない”人たちにとって、より身近で受け入れやすい形になると思っています。
世界では今も戦争が続いている場所があり、戦争は2度と起こしてはならないと強く感じます。同時に、かつて戦争に参加した方がいて、その人たちが命をつないできてくれたからこそ、今の私たちがある。
悲惨な歴史もしっかりと受け止めて、命の大切さ、尊さというものを若い世代の人に感じてもらえたらいいのではないかと思っています。
――玉木さんご自身、ご家族から戦争の話を聞いたことはありますか?
玉木:祖父が終戦後に、シベリアに抑留されていたことは聞いています。ただ、詳しい話はしてくれませんでした。ぽつりと話してくれることはあっても、曖昧なまま終わってしまうような感じで……。
きっと、つらい記憶だからこそ、あまり語りたくなかったのでしょう。だからこそ、こうした作品の存在がとても大事だと思います。文字よりも、映像のほうがストレートに伝わることもありますから。
優しさと生命力にあふれた「先任伍長」を演じた
――撮影に入る前の準備としては、どんなことに取り組みましたか?
玉木:プロデューサーから参考資料となる本をお借りして読みました。今回、演じた早瀬には妹がいる設定なのですが、戦地へ赴く本人だけでなく、「無事に帰ってきてくれるか」と祈りながら待つ家族の思いも、本を通して深く感じ取りました。
――『真夏のオリオン』(2009年・東宝)の倉本や、『沈黙の艦隊』(2023年・東宝)の深町のような「艦長」役のイメージも強い玉木さんですが、今回の「早瀬」は先任伍長役。演じ分けで意識したことはありましたか?
玉木:艦長役のときは、主人公を務めることもありましたし、やはり、常にりんとしたたたずまいでいなければならないというか、居住まいをしっかりと保っていないと作品的にも成功しない、とは思っていました。
今回は、それとは全然違う立場の役なので、むしろ人間くさいところというか、泥まみれになって何か作業しているほうがキャラクターとして合っている。
先任伍長は、僕らの現場でいうと「チーフ助監督」みたいな存在で、監督ではないのですが、現場をまとめて、現場の空気をつくっている人。それが一番近いのかなと思います。
――早瀬というキャラクターの魅力はどのように捉えていますか?
玉木:先任伍長という立場もありますが、みんなをとりまとめる父であり母。リーダーシップを持った人間だと思うのですが、厳格すぎず、どこか仲間に愛情を持って接する、優しさを持った人物。そして、生命力にあふれ、時に母のように温かくみんなの成長を見守るような存在だと思います。
――寺澤艦長を演じた竹野内豊さんとは今回が初共演とのことですが、どんな印象を持たれましたか?
玉木:そうですね。これまでも多くの作品を拝見してきましたが、お会いする機会はなかったので。実際にお会いすると、すごくニュートラルで柔和な方だな、という印象を持ちました。
――撮影で特に印象に残っていることはありますか?
玉木:神奈川県の平塚漁港の、本当に海のすぐそばに、甲板を部分的に再現したオープンセットを設営しての撮影だったのですが、海風が入ってくるので、逆にそれがすごくリアルで、海の風を感じながら撮影できたことが印象に残っています。
時季的にも過ごしやすく、リアリティーを持ちながら、俳優みんなでの共同作業という雰囲気が心地よかったです。ただ、濡れたらちょっと寒かったかな。
――撮影で特に苦労したシーンはありましたか?
玉木:海面に浮かぶ兵士を、甲板の上から手を握って引っ張り上げるシーンは、結構大変でした。片手で人を持ち上げるのはかなりの力が必要ですし、持ち上げられる側も腕を預けたら肩が抜けちゃうかもしれないですし。どうやったら力強く見えるかなというのを探りながら撮っていました。
――実存した駆逐艦『雪風』についてご存じでしたか? どんな印象を持たれましたか?
玉木:今回、配役をいただくまで、僕は『雪風』の存在を知りませんでした。だから、初めて知って本当にすごい艦だなと思いました。戦火の中をちゃんと生きて帰って、その後、(中華民国から最後は)台湾でも活躍したというのですから。
これまでに演じてきた戦争ものは「戦う」というところに重きを置いていた作品が多かったと思いますが、今回は命を救うこと、1つの命の尊さに重きを置いています。
その意味でも、「海の何でも屋」として奮闘し、自分の命も大変な中、敵であれ味方であれ、1人残らずちゃんと命を救った『雪風』は、とても人間味のある題材になっていると思いました。
空軍や航空自衛隊の役に挑戦してみたい
――これまで数々の軍人、自衛官を演じてこられましたが、もし次に演じるとしたら、どんな役にチャレンジしてみたいですか?
玉木:僕は、陸、海は演じているんですが、空だけやっていないんです。だから空軍とか、航空自衛隊のパイロットとかはやってみたいです。
撮影を通じて仲良くなったニュージーランド在住のコーディネーターの方がパイロットの免許を持っていらして、ヘリコプターを操縦している姿を見たことがあったのですが、「かっこいいな」と思って。飛行機はまた特別なものを感じました。
――これまでに何度か、海上自衛隊の艦艇見学などをされていると思いますが、その中で印象に残っていることはありますか?
玉木:潜水艦に初めて乗らせていただいたとき、冷房がガンガンにかかっていて「なんか寒いな」と思いました。機械のためということもあると思いますが、こんなに冷房が効いているんだ、というのが意外でした。
スペースが限られているので、通路の幅が狭いとか、頭がぶつかるので屈まなければならないとか、そういう点は実際に体験して演技の参考にしました。
あとは、陸から離れた生活の中で、食事が大切だということを実感しました。食事が充実しているのには理由があるんだと分かりましたね。
――過去の作品も含め、元軍人の方や自衛隊の方から教わったことで今も生かせていることはありますか?
玉木:最初に潜水艦乗りを演じたとき、狭い艦内では通常の敬礼ではなく、脇をしっかり締めて小さく敬礼するのだと教えていただきました。それは今でも意識しています。あと、敬礼時の指先がきちんとそろっているかどうかも意識して演じています。
――最後に、マモル読者にメッセージをお願いします。
玉木:世界では今も戦争が続いている国があります。戦争を知ることは、今を生きる私たちにとって、とても大事だと思います。
日本も戦争をしていた時代があって、その延長線上に今がある、それを次の世代へ語り継いでいかなければいけない。いざというときには自分だったら何をするんだ、ということを考えるきっかけにもなると思います。
『雪風 YUKIKAZE』を観て、何かを感じ取っていただければうれしいです。
(MAMOR2025年9月号)
<文/臼井総理 写真/増元幸司>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです