海上自衛隊の主力装備・艦艇を動かすためには、多くの乗員が必要だ。そのため、海上自衛隊には「海上訓練指導隊群」という、艦艇の乗員を鍛える指導者たちが集まったインストラクター役の部隊が存在している。
艦艇乗員の練度向上のため、各海上訓練指導隊が行っている「訓練指導」とは、一体どのようなものなのだろうか。横須賀海上訓練指導隊を例に訓練内容を紹介しよう。
艦艇の部門ごとに指導官を配置!航海訓練用シミュレーターも

海上訓練指導隊の指導官は艦艇の訓練に立ち合い、乗員の動き方などをチェック。何をどうすれば練度が上がるか助言する
海上訓練指導隊はどのような体制で各艦艇を強くするのか?
横須賀海上訓練指導隊を参考に陣容をみてみよう。同隊には「指導部」のもと訓練計画の立案や管理を行う「訓練科」のほか、指導官が艦艇内での任務ごとに所属する「砲雷科」、「船務・航海科」、「機関科」がある。

訓練指導の際は指導官から点検項目などが伝えられる。艦艇の隊員はそれを基に訓練に臨む
また同隊にはほかの指導隊にはない「立入検査班」があり、これは各護衛艦ごとに編成され、必要なときに不審船などに乗船し検査などを行う「立入検査隊」に訓練指導を行う班だ。
これに加えて「教育科」と、コンパクトかつ多機能で機雷戦能力を有する『もがみ』型護衛艦に対応した航海訓練シミュレーター「F−NAT」が横須賀にあり、これを運用する「F−NAT班」がある。
主に艦艇のドック入り後に実施される「訓練指導」

負傷者が発生した際の応急処置などを行う衛生の訓練。チェック項目を確認し、1秒を争う治療活動の適切な処理法などを助言する指導官(左)
続いて、指導官は、どのタイミングで訓練指導を行うのか、同隊・指導部長兼副長を務める岡田2等海佐に聞いた。
「訓練対象は、主に修理に入る艦艇です。艦艇は1年に1度、2カ月程度行われる年次検査や、5年に1度の長期修理など、ドック入りする機会があります。艦艇を動かせない期間があると当然練度も落ちますので、修理後に私たちが訓練に立ち会い指導を行います。新しい艦艇が就役する際の訓練指導も担当します」
岡田2佐によれば、訓練指導は隊の指導部の管理で進められるが、乗員の転勤・交替などの際、艦艇側からの要望で指導に当たったり、訓練指導で練度が低いと判断された艦に対し再指導を行うケースもあるという。

訓練後のフィードバックでは、左に座る指導官たちが訓練の総評と、今後の課題となる点を助言し、さらなる練度向上のアドバイスを実施
また、訓練指導隊には艦艇乗員に直接指導する以外にも重要な仕事がある。それが「艦内訓練指導班」の育成や指導だ。
「艦内訓練指導班とは各艦艇の乗員で編成された指導チームで、艦艇乗員のみで練度の向上を目指す組織です。これに対するサポートを行い、私たちが直接指導しなくても練度を維持・向上できる体制を作っています。
とはいえ、最終的には第三者によるチェックがないと足りない部分を是正することはできませんので、指導官による訓練指導も必要です」と岡田2佐は説明する。
定量的・定性的評価の両面で練度を測る指導官

艦艇が攻撃を受け、船底に穴が開いた際の応急工作の訓練。指導官(左下)は適切な対応ができるかの評価と合わせ、作業時間も計測する
訓練指導について岡田2佐は「新造艦の就役時や長期修理明けの再練成訓練は1カ月以上、年次練度維持訓練は約2週間実施します」と続ける。
指導官の任務の一例として年次練度維持訓練を紹介しよう。まず停泊状態で半日ほどかけ、艦ごとに戦闘や火災などが発生した際の対処法などを確認。合わせて器材などの整備状況も確認する。
これができていたら訓練開始。まずは3日ほどかけて「基本部署(注)」と呼ばれる防火、防水、溺者救助、応急操舵などの対応や戦闘時の「戦闘部署」訓練を機関科、船務・航海科、砲雷科の各指導官がチェック。その後、訓練艦艇が弱点と感じる部分の集中訓練などを繰り返し、練度を上げていく。
護衛艦をはじめ艦長経験も豊富な岡田2佐。「練度は一朝一夕には向上しません。より高みを目指し、積み上げていきたいです」
指導官たちは訓練の成果や艦の練度をどのように測るのだろう。岡田2佐はこう語る。
「評価シートがあり、指導官は項目に付けた○や×の数から、定量的な評価を行います。もう1つは時間です。ある事象への対応に要した時間を計測し、それが基準内に収まっているかを判定します。
加えて評価表に出ない定性的な部分について、各指導官の経験から気付いた点を記録します。いわば数値の『行間』を埋めていくのです。こうした評価を元に、艦の乗員に対して細かな指導を実施しています」
(注)戦闘や火災などが発生した際に対応する人員配置などを定めたもの
(MAMOR2025年7月号)
<文/臼井総理 写真/村上淳(岡田2佐) 写真提供/防衛省>
ー艦艇乗りをより強くするトレーニング・ファイルー
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

