各国の駐在武官にあたる役職を自衛隊では防衛駐在官と呼ぶ。
防駐官の情報収集や、外国軍人との親善は、人付き合いから深化する場合が多い。よって家族ぐるみの付き合いも重要な外交手段だ。
赴任に向けて家族でどんな準備をしたのか? 現地ではどう国際交流したのか? アメリカに赴任した菅井空将補ファミリーに教えてもらった。
赴任先:アメリカ合衆国/菅井空将補ファミリーの場合

●赴任期間
2020年8月~23年8月
●同行者
妻、長男(18歳)、長女(16歳)
※子どもの年齢は赴任時
●赴任前の妻の職業
小学校教職員
夫婦で役割を分担し、子どもの受験もクリア

家族でおそろいのTシャツを着てお出掛け。アメリカ生活で家族の絆も深まったという
「以前にも連絡官(注1)として家族と共にアメリカに赴任したことがあったので、再び防駐官としてアメリカに行くことになって、びっくりしました」と語る菅井空将補。
でも妻の明日香さんは、懐かしい人に再会できたり、思い出の場所に行けるのでうれしかったという。
前回の赴任時にはアメリカ行きを嫌がり、現地の学校に通い始めても1週間は泣いて過ごしたという当時11歳の長女も、その後成長し、海外経験を積みたいと2度目のアメリカ行きには大賛成。

ワシントンで毎年3〜4月に開催される「全米桜まつり」のパレードに、駐米大使と参加する着物姿の長女
代わりに今度は、着任前に長男のアメリカの大学と長女の日本の高校(注2)の受験が重なるという問題が発生した。そこで菅井将補は長男担当、明日香さんは長女担当と役割を分担して、勉強法や現地の学校の情報収集、煩雑な事務手続きなどをこなし、共にめでたく合格したという。
(注1)自衛隊とアメリカ軍の情報交換や調整をする役職
(注2)8月が赴任時期だったため、その年の始めに長女は高校受験をし、4月から数カ月日本の高校に通ってからアメリカの高校に転校、長男はアメリカの大学を受験し、9月から1年生として入学した
他国の方とコミュニケーションをとろうとする気持ちが大事!
自宅に駐在武官らを招く際は、着物やよろいかぶとを飾って、日本らしさを演出
アメリカ生活に持っていって良かったもの、やっておいて良かったことは何か、明日香さんに聞いた。
「まずは私の自動車免許取得です。アメリカでは車がなければ近所へ買い物すら行けませんから。持っていって良かったのはやはり着物です。親や親戚から使っていない着物を譲ってもらったりしたのですが、他国の武官夫妻を招いたホームパーティーのときなどに着ると、とても喜ばれました」

明日香さんが作った折り紙の作品も、おもてなしに華を添えた
また、半年ほど英会話教室にも通ったそうだが、実際アメリカに行ってみると、話をする相手が英語圏の人ばかりではないので、一番大事なのはコミュニケーションをとろうとする気持ちなのではないかと気づいたという。

他国の駐在武官夫人たちの集まりでは、日本の習字にチャレンジしてもらい、明日香さんがミニ額の作り方を教えたそう
「レセプションに呼ばれて珍しい料理をいただいたときには、その料理の国の人に何が入っているのかを聞き、後でまねをして作り、家族にふるまったこともあります。また、現地でのホームパーティーのときは、一家総出でおもてなしをしました。
子どもたちも料理や盛り付けを手伝ってくれたり、記念撮影のときには撮影役を買って出てくれたりと、家族で協力することが多くあったので、家族の絆が深まったと感じます」と振り返る。
(MAMOR2025年6月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

