• 「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」と宣誓する自衛官たちも、入隊前から国防の志に燃える人ばかりではない。

     たまたま観た、読んだエンタメ作品がきっかけになって入隊し、後に国を守る大切さに気が付いた、という隊員も。

     そんな作品を現役の隊員たちに紹介してもらった。

    コミック『エリア88』

    画像: 航空自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/asdf/equipment/sentouki/F-2/)

    航空自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/asdf/equipment/sentouki/F-2/

    この作品を読んで空自の戦闘機乗りになりたいと思った(空自/2佐/男性・50代)

     中学時代、兄の影響で読み始め、熱中したことを覚えています。

     作中で登場人物が仲間を助けるために自分も犠牲になるシーンでは、「自分中心」の傭兵たちでも仲間を守るために戦うことに感動を覚えました。

     凄惨な戦いのシーンと、主人公の過去に迫るストーリー、時にはコメディータッチの演出があったりと読みどころが満載です。

     今でもたまに読み返しては、自分の「戦闘機好き」の原点に返っています。

     これを読んで戦闘機に乗りたいと思い、今では日本の空を守る自衛官をしているわけで、自分の人生を方向づけた大切な作品だといえる1作です。

    作品解説

    新谷かおる/『少年ビッグコミック』(小学館)1979~86年連載/コミック全23巻。架空の中東国家アスラン王国を舞台に、親友の策略で傭兵部隊「エリア88」に入隊させられた風間真(シン・カザマ)の戦闘機パイロットとしての過酷な日々と葛藤を描く。リアルな戦闘機の描写や人間ドラマが評価され、テレビアニメ化やゲーム化などされるほか、作中に登場する戦闘機の模型も販売された

    映画『ブラックホーク・ダウン』

    戦い続ける兵士を見て強い男に憧れました(陸自/2佐/男性・40代)

     私が21歳当時話題になっていた映画だったので観てみました。

     初めて観たときは、戦友が戦死したり負傷したりするシーンの連続に衝撃を受け、戦場の厳しさをまざまざと見せつけられました。

     一方で、過酷な戦場の中で戦い続ける兵士の姿から、このような覚悟を持ち、国を守るために戦い続けられる「強い男」になりたいと、自衛官を目指すにあたっての目標を与えてくれた映画です。

     自衛官になった後も、戦闘に対するイメージアップ、そして隊員としてどうあるべきかを感じさせてくれる作品であり続けており、日常業務での指標として生かしています。

    作品解説

    2002年公開/アメリカ。1993年のソマリア内戦中に実際に起きた「モガディシュの戦闘」を描いた戦争映画。リドリー・スコット監督のもと、ジョシュ・ハートネットやユアン・マクレガーらが出演。リアルな戦闘シーンは当時話題に。アカデミー賞で音響賞と編集賞を受賞した名作である

    映画『ゴジラVSビオランテ』

    「階級で呼ばれる世界」に興味を抱いた作品(空自/3佐/女性・30代)

     小学生のころ、親に連れられて映画館へ観に行きました。大迫力の映像も印象に残っていますが、登場人物に同じ名字の1佐がいて、親近感が湧いたことを覚えています。

     本作では自衛官が登場し、自衛隊も活躍しますが、映画を観る中で「姓+階級」で呼ばれる自衛隊の世界観を知りたいな、と子ども心に思ったのが、その後自衛隊に入隊するきっかけになったように思えます。

     さすがに今後ゴジラなどの怪獣と戦うことはないと思いますが、戦争のない時代を作るために私も微力ながら自衛官の誇りを持って尽くしていきたいと考えています。

    作品解説

    1989年公開/日本。日本が誇る特撮「ゴジラ」シリーズの第17作にして、「平成ゴジラシリーズ」の第1作。ゴジラ細胞を巡る争奪戦と、遺伝子操作で誕生した怪獣ビオランテとの対決を描く。それまでのシリーズの中で、自衛隊が一番活躍する作品とマニアの評価が高い。また、バイオテクノロジーをテーマにした新視点と迫力ある特撮シーンも見どころだ

    コミック『ジパング』

    画像: 海上自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/dd/murasame/)

    海上自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/dd/murasame/

    中学生のときに読んで護衛艦に興味を持った(海自/3曹/男性・20代)

     兄が単行本を買っていたことから、中学生のころ何気なく手に取って読んだのがきっかけです。

     タイムスリップしたことにより否応なく戦争に巻き込まれ、その中で自分たちの存在意義に悩みながら主人公たちが活躍するという物語ですが、直接入隊する後押しになった……というほどではないものの、海上自衛隊や護衛艦に興味をもつ大きなきっかけになった作品です。

     まさか、私が乗る艦艇がタイムスリップすることはないと信じていますが(笑)、私自身、何事が起きても動じることなく、冷静に対処し国民や国を守りきる自衛官になりたいとは思っています。

    作品解説

    かわぐちかいじ/『モーニング』(講談社)2000~09年連載/コミック全43巻。アニメ化もされた。物語は、海上自衛隊の最新鋭イージス艦「みらい」が、原因不明の暴風雨に遭遇し、太平洋戦争中の世界にタイムスリップするというもの。02年には第26回講談社漫画賞一般部門を受賞している

    コミック『魁!!男塾』

    強い人間が育つ世界を体験したくて入隊(海自/3曹/男・20代)

     ギャグも挟みつつ、「男らしさ」を追求するストーリーには、当時思春期の私も影響され、人としての在り方を深く考えさせられました。

     男塾には「塾長」として江田島平八という人物が登場しますが、そこから「江田島」に興味が湧き、男塾のような強い人物が育つ世界を体験したいと思い、海自に入隊しました。

     作品で感じた理想像に近づくため、「漢気」を持ち、どんな困難に直面しても突破できるような人物を目指して頑張っています。

     江田島第1術科学校で養った精神力を原動力として、日本を守っていきたいです。

    作品解説

    宮下あきら/『週刊少年ジャンプ』(集英社)1985~91年連載/コミック全34巻。架空の男子校「男塾」を舞台に、塾生の友情や成長、そして数々の試練を描いた熱血アクション作品。最強といわれる男塾塾長の江田島平八と仲間思いで熱血漢の主人公、剣桃太郎の覇気あふれるかけあいに根強い男性ファンも多い

    映画『トップガン』

    自衛隊が職業の選択肢の1つに(空自/2佐/男性・30代)

     迫力あふれる戦闘機の映像が、中学生のころ初めて鑑賞した自分の脳裏に強く焼き付いています。

     特にオープニングの映像と音楽が魅力的です。今でもオープニングシーンを観るとテンションが上がり、自分の「原点」であることを思い出します。

     この作品は、国を守る、戦闘機パイロットが職業の選択肢の1つとなり得るということを私に教えてくれました。その後、航空自衛隊に入隊する後押しになったことはいうまでもありません。

     今観ても色あせない、そして続編の『トップガン マーヴェリック』も含めて魅力大の作品です。

    作品解説

    1986年公開/アメリカ。トニー・スコット監督のもと、トム・クルーズが主人公の海軍戦闘機パイロット、マーヴェリックを演じた。主人公がエリートパイロット養成機関「トップガン」で訓練を受け、ライバルや仲間との関係を通じて成長していくというストーリー。2が、2022年に公開、さらに3の製作が現在進行中

    映画『トゥルーライズ』

    画像: 海上自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/msdf/sf/gallery/other.html)

    海上自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/msdf/sf/gallery/other.html

    主人公のように家族愛あふれる自衛官を目指したいと思った(海自/3曹/男性・20代)

     父が借りてきたDVDの中にあったので観たのが『トゥルーライズ』でした。

     主人公のシュワちゃんが、テロリストに捕まった際、家族に本業は凄腕諜報員であることがバレたシーンが印象に残っています。私も主人公のように家族を守れる優しく強い人物になりたい、という思いから自衛隊を志望しました。

     作中での主人公は、多角的な視点で物事を見ているイメージを持っています。私も、シュワちゃんのごとく、多角的な視点で日々の作業に臨み、不具合箇所の原因が素早く探究できる――と思っています。

     これからも「家族愛あふれる自衛官」を目指し、頑張っていきます。

    作品解説

    1994年公開/アメリカ。ジェームズ・キャメロン監督のスパイ・アクション映画。アーノルド・シュワルツェネッガー演じる主人公・ハリー・タスカーは、家族にはセールスマンと偽りながら、実は秘密諜報員。テロ組織の陰謀を阻止するため奮闘するが、その過程で妻や娘も巻き込まれていき……というストーリー。当時は破格の製作費1億ドル以上を投じた大作として話題に

    小説『クジラの彼』

    自衛隊に対する新たな視点を与えてくれた(空自/3佐/女性・40代)

     本作とは23歳ごろに出合ったのですが、それまでは自衛隊イコール厳しい訓練を行う人たち、というイメージしかなかった自分に「へえ、自衛隊の人ってこんな感じなのか」と新たな視点を与えてくれました。

     良い意味で、自衛隊の人も日常生活を過ごす普通の人なんだなと思えたことが、自衛官になるにあたって後押しとなりました。

     本書中の作品と関連作の『空の中』(角川文庫)には女性の戦闘機搭乗員が出てきます。読んだ当時は存在しなかった女性戦闘機搭乗員がいまは現実のものとなり、時代の進歩を感じるとともに、私にとって今でも読み返す大切な本です。

    作品解説

    2007年発刊/角川書店。本作は有川浩(現有川ひろ)による短編集で、自衛隊員とその恋人たちの恋愛模様を描いている。表題作『クジラの彼』では、潜水艦乗りの男性と一般企業に勤める女性の遠距離恋愛が描かれ、互いの立場や環境の違いから生じる葛藤や絆が繊細につづられている。全6編の物語は、有川作品らしい温かみとユーモアに溢れ、自衛隊という特殊な職業を背景にしながらも、普遍的な恋愛の形を描き出している

    (MAMOR2025年6月号)

    <文/臼井総理>

    どうして国を守るのか?

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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