防衛省・自衛隊では、サイバー攻撃に対するさまざまな対策を講じている。今回は、2024年に開校した、その名も「サイバー学校」を紹介しよう。
「電子戦士」を育てるために、自衛隊最古の駐屯地にある、通信を担当する隊員を教育する陸上自衛隊通信学校が、「システム通信・サイバー学校」へと改編されたのだ。
部隊間の通信をつなぐ職種からサイバー・通信で戦う職種に
陸上自衛隊久里浜駐屯地(神奈川県)にあるシステム通信・サイバー学校は、通信網を支える隊員を育成する学校で、かつては「通信学校」と呼ばれていた。
近年、自衛隊の装備や隊員の能力発揮には、コンピュータ・ネットワークを活用したデータ通信が不可欠だ。2022年12月に発表された「防衛力整備計画」では「サイバー領域の能力向上」が掲げられ、防衛省・自衛隊のサイバー防衛能力の強化が必須となる。
こうした変化を受け、同校は24年3月に改編し、「サイバー教育部」を設置。通信網の構築を担当する職種の名称も「システム通信科」と改め教育体制を強化した。学校長の奈良岡信一陸将補は、改革の意義をこう語る。
「通信は『指揮の命脈』であり、切れると作戦が成り立ちません。私たちは戦闘支援部隊ではなく、システム通信・サイバーの最前線を守る存在なのです」
次は、同学校を構成する、サイバー教育部、第1教育部、エンジニアを育成する第2教育部、通信に関する調査・研究を行う研究部について紹介する。
久里浜駐屯地司令も兼務する学校長の奈良岡陸将補。「近年、サイバー・電磁波領域の脅威がますます高まる中、システム通信科の果たす役割は非常に大きいと考えます」と語る
「サイバー」で戦う人材を民間力も活用して育成

サイバー教育の総まとめとして行われる訓練は、陸・海・空各自衛官に加えサイバー分野を担当する防衛技官も加わり、3日間にわたって実施。チームを組んで、架空の企業がサイバー攻撃を受けているという想定で、仮想環境のもとサイバー攻撃の分析や対処を行う
システム通信・サイバー学校のサイバー教育部では、防衛省・自衛隊のサイバー人材を幅広く育成している。サイバー領域の脅威が高まるなか、教育の現場では、実戦的な技術や運用能力を身に付けるための体系的なカリキュラムが組まれている。民間企業の知見も最大限に活用して進められている教育の内容をリポートする。
新規に設置された「サイバー教育部」では、陸上自衛官のみならず海・空自衛官、事務官・技官などを含む幅広い隊員、職員を学生として受け入れており、サイバー人材を育成する役割を担っている。自衛隊のサイバー人材は、各所にある自衛隊の通信システムやネットワークなどの安全を確保し、外部からの攻撃に対処するのが任務だ。
任務を果たすため、サイバー人材の重要性も増す
学校では、単なる技術者ではなく運用者の養成が目的。そのためシステム運用やサイバー防衛の基礎、さらにはより高度なサイバー人材を目指すための教育と、広範な知識・技術を教育している。
サイバー教育を統括する部長の篠田1等陸佐は「当校では、初~中級レベルの教育を6つの課程に分けて実施しています」と教育内容について話す。
サイバー教育部長の篠田1佐は、「学校は現場とは違い失敗して学べます。学生にも失敗をおそれずチャレンジしてほしい」と語った
また、民間と自衛隊のサイバーセキュリティー人材に求められる知識、能力の違いについては次のように語る。
「近年、自衛隊においても、情報システム・ネットワークの安全を保つには、『ゼロトラスト』という、組織内ネットワークの安全性を当然視せず、全てを疑い、常に検証と制御を行うことで安全を保つという概念を取り入れています。この点は民間と同じですが、自衛隊は、ミサイル発射装置のコントロールや複数のアセットで情報を共有するなど、独自のシステム・ネットワークを使ってチームで任務を遂行します。ですので、自衛隊のサイバー人材には、サイバーに関する知識・技術に加えて、陸・海・空各自衛隊の作戦も理解することが求められます」
防衛省・自衛隊では民間の高い技術を取り入れるため、教育や訓練内容の一部を外部に委託している。
教育を支援する、サイバーセキュリティーの調査研究などを行う民間企業の執行役員、奥野史一氏は「自衛隊の方は統制が取れているので、チームでの対処は得意なのではと感じました」と語る。ほかにも、通信会社や電機・インフラ会社、情報セキュリティーサービス会社などが自衛隊の教育支援を行っている。
GMOサイバーセキュリティbyイエラエで執行役員を務める奥野氏。専門家の立場から、教育訓練のサポートを行う
「サイバー領域では官民連携が非常に重要だと考えています。サイバーセキュリティーの分野は領域が広いので、平素からの官民協力を進めておくことが必要であると考えます」。教官の田中3等陸佐はそう語った。
田中3佐は、「サイバー領域における技術の進歩は大変早く、自衛隊だけでの対応は限界があるので民間力は重要です」と話す
(MAMOR2025年5月号)
<文/臼井総理 写真/村上淳>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです





