•  かつて入間基地で撮影するときに、「あの機体は写らないようにしてください」と自衛官に注意されることがあった。指さす先には、異様な形状をした巨大な飛行機があり、その詳細は航空自衛隊の主要装備一覧にも掲載されていない。

     今回、そのシークレット装備をマモルがスクープし、全容を明らかにする。

    輸送機「C-1」の機体を電子戦の仕様に改修

     一部のマニアには「カモノハシ」という愛称で知られている、この異形の航空機は、航空自衛隊の電子戦機EC-1(以降EC-1)だ。

     川崎重工業が開発した国産輸送機C-1の機体をベースに、主に電子戦の訓練用航空機として、1機のみが改造された。入間基地(埼玉県)に所在する航空戦術教導団電子作戦群の電子戦隊が1986年から運用しているが、電子戦に関する情報は、空自はもとより世界各国においても秘匿性が高いため、これまではその存在が公にされることはなかった。

     EC-1は飛行しながら電波を傍受したり、その電波を識別して情報収集を行ったり、電子戦の訓練支援などでは妨害電波の発信なども行う。そのため機体にはアンテナや電波妨害装置が各所に搭載されている。外部に露出している器材は、気流や天候などの影響で損傷する恐れがあるため、アンテナ・フェアリング(注・以降レドーム)と呼ばれる外殻で覆っている。

     機首にあるレドームは左右に広がる黒い膨らみとなっていて、その愛称で呼ばれる由来だ。また、電波妨害装置のシステムを運用するための操作画面(表示制御コンソール)は、機体の前方に搭載されており、後方には電波妨害装置に関わる器材が積み上げられている。

    画像: 輸送機「C-1」の機体を電子戦の仕様に改修

     EC-1のキャビンに設置された、電子戦に使用される操作画面に向かう隊員たち。電子操作の外川3等空佐(写真手前)が各器材の操作員の任務全般を指揮し、目標に対して妨害電波を発信する「ジャミング」を実施する訓練を行う。

     なお、機内の暗い状態での作業に目が慣れるようにするため、表示制御部では赤い照明灯が使用されている。

    これが電子戦機EC‐1だ!

    画像1: これが電子戦機EC‐1だ!

     世界で唯一の電子戦機であり、“珍機”ともいわれるEC-1。航空自衛隊の公式ホームページなどにもその情報が公開されていない機体だ。今回の取材ではEC-1の実態にできうるかぎり肉薄し、その装備を紹介する。

    1.胴体底にある受信用アンテナ

     胴体中央の底部には、小さな受信用のアンテナを装備、それをレドームが覆っている尾翼付近にある、後方に向けたアンテナ。尾翼の下には、機体の後方の目標に向けて妨害電波を発信するアンテナがあり、それを大きなレドームが覆っている。

    2.尾翼付近にある、後方に向けたアンテナ

    画像2: これが電子戦機EC‐1だ!

     尾翼の下には、機体の後方の目標に向けて妨害電波を発信するアンテナがあり、それを大きなレド
    ームが覆っている。

    3.機体側面には複数のアンテナ

    画像3: これが電子戦機EC‐1だ!
    画像4: これが電子戦機EC‐1だ!

     胴体両サイドの前方(写真上)と後方には、機体前方や側面、後方の目標に向けて妨害電波を発信するアンテナがあり、レドームが覆っている。

    4.コックピット両脇にあるモニターパネル

    画像5: これが電子戦機EC‐1だ!

     コックピット内は正操縦士、副操縦士、その後方に機上整備員航法士の4人を配置。左右前方には発信する妨害電波や、敵から発信される妨害電波の状況を確認することができる小型のディスプレイ、ECMモニターパネルが設置されている。

    画像6: これが電子戦機EC‐1だ!

     コックピット内には、電波状況を確認できるECMモニターパネル(写真は左側)が設置されている。

    5.機体の大部分に電子戦器材を搭載

     機体の後方には、収集したデータを記録する機器や周波数変換器など多くの器材を搭載しているため、機体の総重量はC-1に比べ大幅に増えている。

    6.機首にも妨害電波発信アンテナを装備

    画像7: これが電子戦機EC‐1だ!

     機首にある大型のレドームの中には、前方の妨害電波を発信するアンテナや気象アンテナなどがある。レドームの表面にある白い筋は被雷した際、そのエネルギーを逃がすための装備。機首下部にある開口部は空気取り入れ口となっている。

    (注)アンテナ・フェアリングは、レーダー・アンテナを保護するためのドームで覆われていることから一般的にはレドームと呼ばれている 

    <文/魚本拓 写真/荒井健>

    世界に1機だけの電子戦機を独占スクープ!

    (MAMOR2025年4月号)

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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