•  どんなに厳しい状況でも生き延びて任務を果たす、陸上自衛隊レンジャー隊員たちが身に付けるサバイバル術は、国を守る究極の術だ。

     ここでは彼らが冬山で実践する「凍傷対策」「安全な地形の確認の仕方」「体温低下の防ぎ方」について紹介していく。

    冬季遊撃レンジャーは、凍傷対策を怠らない

    足先の感覚がなくなる前に、時折、屈伸運動を挟んで末端まで血流が行き渡るようにし、凍傷を防ぐ

     雪中戦で高い戦闘能力を発揮するのが、真駒内駐屯地(北海道)で実施される教育を修了した冬季遊撃レンジャーだ。部隊では、冬季の戦闘術を磨く中で、凍傷に対する対策を講じている。

     凍傷は、冬季遊撃レンジャー隊員の戦闘力をそぐ。重症ともなると患部を切断するはめになることもあり、要注意だ。

     凍傷の原因は、手足末端の血管が収縮し、血液の流れる量が減少するため。そこで冬季遊撃レンジャー隊員は、手足に冷えを感じたら、血流を促すように腕を大きく回したり、屈伸運動をしたりする。指先の感覚がなくなった場合には症状が進行していることが分かるので、脇の下などに手を入れて温め、感覚が戻るかを随時確認する。

    行動を停止するときは安全な地形か確認する

    画像: 行動停止中は、雪面からの冷気で体を冷やさないよう、あえてザックの上に座ることもある

    行動停止中は、雪面からの冷気で体を冷やさないよう、あえてザックの上に座ることもある

     冬季遊撃レンジャー隊員が積雪時に屋外で行動を停止する場合は、雪崩の危険が少ない場所、雪面に穴や空洞がないかなど、地形を確認する。さらに頭の上にも注意する。木の上からの落雪などでけがをすることもあるからだ。

    冬季遊撃レンジャーは、重ね着やこまめなカロリー摂取で低体温症を防ぐ

    画像: あらかじめ食品保存袋などに入れて携帯していたナッツやチョコレートなどを補給する冬季遊撃レンジャー隊員

    あらかじめ食品保存袋などに入れて携帯していたナッツやチョコレートなどを補給する冬季遊撃レンジャー隊員

     凍傷対策と併せて、冬季遊撃レンジャー隊員は低体温症への備えも欠かさない。低体温症は、体が激しく震えるなどの初期症状を経て、さらに体温が低下すると思考力も低下し、しまいには運動機能も低下して意識を失うこともある。

     その予防のため、冬季遊撃レンジャー隊員たちは体温を下げないように努めている。まずは冬用の防寒戦闘服の下に衣類を重ねて着用する。水は空気より熱伝導率がはるかに高く、ぬれた衣類を着ていると体温がすぐに奪われるため、汗などを吸って乾きにくい綿素材は避け、速乾性の高い化学素材の服を選ぶ。さらに重ね着をして、服と服の間に空気の層を作って保温性を高める。

     場合によってはカイロも利用。その際は、体の中心に熱を行き渡らせ、手足まで熱を届けるため、肩甲骨上部やみぞおち付近といった体幹部や脇の下にカイロを当てる。また、低体温症の予防には、食品でカロリーを摂取することも重要だ。チョコレートやナッツなど、手軽に食べられる高カロリーの食品を携帯し、適宜、食べて体温低下を防いでいる。

    山岳レンジャーは、外傷を負ったら即席湯たんぽで体温低下を防ぐ

    画像: 山専用ボトル(右)は、高い保温力で長時間、熱湯が冷めにくいのが利点。その熱湯を、コンパクトに携帯できる水のうに移し入れ、即席の湯たんぽを作る。直に肌には当てず、衣服の上から当てる

    山専用ボトル(右)は、高い保温力で長時間、熱湯が冷めにくいのが利点。その熱湯を、コンパクトに携帯できる水のうに移し入れ、即席の湯たんぽを作る。直に肌には当てず、衣服の上から当てる

     松本駐屯地(長野県)には、県内にある山々の特性を生かした山岳技術に特化した山岳レンジャー小隊がある。山岳レンジャー隊員が作戦行動中に外傷を負い、出血などで体温が下がったときなどには、市販品の山専用ボトルに携行していた熱湯を、予備の水のうに移し入れ、即席湯たんぽを作り、体温低下を防ぐ。

    画像: 加温キットの袋の中には、簡易シュラフのような外装シェルターと、開封すると発熱するシェルライナーが入っている

    加温キットの袋の中には、簡易シュラフのような外装シェルターと、開封すると発熱するシェルライナーが入っている

     このとき、湯たんぽがぬるくなると意味がないので、こまめに作り替えることが大事だ。また、山岳レンジャー小隊では、断熱性の高い外装シェルターと自動的に発熱するシェルライナーが入った「加温キット」も携行しているので、それらも活用して加温する。

    (MAMOR2025年4月号)

    <文/臼井総理 写真提供/防衛省 イラスト/内山弘隆>

    レンジャー隊員の究極サバイバル術

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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