•  どんなに厳しい状況でも生き延びて任務を果たす、陸上自衛隊レンジャー隊員たちが身に付けるサバイバル術は、国を守る究極の術だ。

     私たち一般人が、マネできるようなものではないが、その術を知識として知っておくことは、ひょっとしてなにかの役に立つかもしれない。ここでは、ヘビや野草の食べ方と安全な拠点の構え方について紹介していく。

    ヘビをさばいて調理する

    頭を落としたヘビの皮を剥ぐ幹部レンジャー学生。歯で背骨の先端部分をかんで押さえ、手で皮を引っ張る

     現代日本で、鶏を捕まえるのは難しいが、比較的容易に捕獲でき、貴重なたんぱく源となるのが「ヘビ」だ。

     さばき方は、まず帽子のつばなどをヘビにかませ、引っ張って牙を抜く。けがをしないようにするためだ。

    画像: ヘビの口元に帽子のつばを向け、牙でかませたら、帽子を引っ張って牙を抜く

    ヘビの口元に帽子のつばを向け、牙でかませたら、帽子を引っ張って牙を抜く

     次に頭を落とし、血を抜いて洗う。背骨に沿って少し切り込みを入れてから首のところの背骨の先端部分を歯でかんで押さえ、皮を手で下に引っ張るようにして剝ぐ。

    画像: ハンマーで身をたたき、骨を細かく砕くのがポイント

    ハンマーで身をたたき、骨を細かく砕くのがポイント

     次に背骨の部分から薄膜を剥がすと内臓が取り除ける。これで身だけとなったが、そのままでは骨が非常に多くて食べづらいので、ハンマーなどで身をたたき、骨を砕いておく。あとはぶつ切りにして調理すればOKだ。

    ヘビの調理例

    画像: 調理は、臭み消しにニンニクやカレー粉を使うのがお勧めとか。骨の食感は気になるが、味はクセもなく淡泊とのこと

    調理は、臭み消しにニンニクやカレー粉を使うのがお勧めとか。骨の食感は気になるが、味はクセもなく淡泊とのこと

    安全な拠点を造る

    画像: レンジャーは、潜伏拠点を造るのに、ポンチョや天幕用のシートを用いる。木々に溶け込み、できるだけ目立たないよう、低く設置して草木で隠蔽する

    レンジャーは、潜伏拠点を造るのに、ポンチョや天幕用のシートを用いる。木々に溶け込み、できるだけ目立たないよう、低く設置して草木で隠蔽する

     レンジャー隊員の拠点は乾いた平らな場所に設置する。斜面では安心して横になることもできないからだ。

     さらに崖のそばなど落石がありそうな場所は避け、倒木の危険がありそうな腐った大木が周囲にないかを確認するのも重要。理想は、周囲より少し小高くなっている地点。雨が流れ込んでくるのを避けられる。

    画像: 拠点を造る間にも、周囲を警戒し、安全確認は怠らない

    拠点を造る間にも、周囲を警戒し、安全確認は怠らない

     きれいな小川など水場が近くにある場所に拠点を構える場合もあるが、不意の降雨時で増水することもあるため、慎重に場所を選ぶ。

    食べられる野草を見分ける

    画像: 食べられる野草と毒草を学ぶ幹部レンジャー学生。植物のどの部分に毒が含まれているのかを知っておくと、より気を付けられる

    食べられる野草と毒草を学ぶ幹部レンジャー学生。植物のどの部分に毒が含まれているのかを知っておくと、より気を付けられる

     日本の野山には、「食べられる野草」がたくさん生えている。レンジャー課程ではいざというときの食料調達術の1つとして、野草の知識も学ぶ。幹部レンジャー学生たちは、「よく分からないものは食べない」、「必ず火を通して食べる」の2点を教えられる。

     食べられる野草を知っておくのももちろん役に立つが、食べられない毒草を知っておくことも大事だ。図鑑などを見て、「確実に食べられるもの」をいくつか知識として得ておくと、いざというときに身を助けるという。

    食べられる野草の一部と、その栄養素、食べ方について知っておこう

    堤1尉は、山菜や野草になじみのない若い隊員に、食べられる野草と、その調理方法を教えている

     レンジャーが学ぶ「日本で一般的に見られる食べられる野草」を紹介しよう。特徴的なにおいをもつものが多く、食べられるかを見分けるのにも役に立つ。

     野草は基本的に火を通して食べる。火を通した方が食べやすいのも理由だが、野草にある毒の中にはたんぱく質でできていて、加熱することで毒性がなくなるものもあるからだ。野草に関する教育は、レンジャー課程以外でも行われている。千葉県松戸市の陸上自衛隊需品学校には「野草園」があり、日本で採れる四季折々の食用になる野草のほか、見分けるための毒草などが生えていて、教育に用いられている。

    「野草園は、主に需品学校の初級陸曹特技課程『給養』の学生が、現地にある食材を調達して調理するという教育の一環で活用しています」と語るのは、需品学校教官の堤1等陸尉だ。いざというときのために食べられる野草の知識を得ておくことは、大いに意義があるという。

    ニラ

    画像: ニラ

     ネギ属に属する多年草で、葉を食する。スタミナアップが期待できるアリシンを含む。

    ペパーミント

    画像: ペパーミント

     川沿いなど湿った生息地に自生する。葉を食する。精油成分はリフレッシュ効果が期待できる。

    ノビル

    画像: ノビル

     草丈50~60センチメートルの多年草でりん茎(注)と若芽を食する。ビタミンA・Cが豊富。

    (注)地下茎の一種で、養分を蓄えて厚くなった葉が、茎の周りに多数重なって球状になったもの

    フキ

    画像: フキ

     花茎(フキノトウ)と葉柄(茎)と若葉を食する。食物繊維とミネラルを多く含む。

    青ジソ

    画像: 青ジソ

     シソは葉の色により赤ジソと青ジソに大別される。葉、実、花を食する。ミネラルを多く含む。

    ハッカ

    画像: ハッカ

     沖縄を除く日本全土に生息し、葉と茎を食する。精油成分には胃の働きを活発にする作用が。

    アシタバ

    画像: アシタバ

     千葉以南に生息する多年草で若芽、若葉、茎を食する。食物繊維やリンなどが豊富。

    ルツボ

     ネギのような匂いのするりん茎と葉を食する。りん茎に含まれるデンプンは炭水化物だ。

    右がツルボのりん茎。デンプンを多く含み、江戸時代から凶作の際に庶民が食用にしたという。左は形は似ているが、毒性のある彼岸花のりん茎

    調理法の一例

     ニラ、ノビル、ツルボなどの葉や若芽などは、飯ごうに湯を沸かしてゆで、塩、しょうゆなどで味付けするとおいしく食べられる。

     ツルボのりん茎はアシタバの葉と少量のみそと共にアルミホイルで包み、飯ごうに入れてフタをして火にかけて蒸すと、やわらかに。

     ペパーミントやハッカなどのハーブ類は、たっぷりの湯で2~3分ゆでてこすと、うっすら色づいた香りのいいハーブティーになる。

    (MAMOR2025年4月号)

    <文/臼井総理 写真/村上淳、林紘輝  写真提供/防衛省>

    レンジャー隊員の究極サバイバル術

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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