レンジャーとは、陸自から選抜され、過酷な訓練をクリアした者だけが名乗れる資格であり称号。
主に敵地に潜入し、敵の目を欺きながら任務を果たす「レンジャー」。その称号を目指す隊員が集まる訓練に、密着取材を敢行した。
全国から選抜された幹部がレンジャー隊員を目指す

レンジャーとして必要な強靭な体力、精神力を養うための訓練「体力調整」の1つ、かがみ跳躍を行う幹部レンジャー学生たち。少しでも疲れた様子を見せると、教官から厳しい声が飛ぶ
陸自の中でも、ひと握りの隊員にしか与えられない資格、それが「レンジャー」だ。レンジャーは、少人数で敵の活動地域に潜入し、情報収集、襲撃などを行って作戦の成功を助ける「忍者」のような存在である。レンジャー隊員になるためには、一般の隊員からえりすぐられた猛者が集まる「レンジャー教育課程」に入校し、自衛隊で最も過酷といわれる訓練をクリアし、課程を修了しなくてはならない。
そんなレンジャー教育の中に、レンジャーの教官や指揮官を育てる「幹部レンジャー課程」というものがある。全国各地から選抜された2、3尉クラスの若手幹部が、陸上自衛隊富士学校(静岡県)に集合して約14週に及ぶ訓練に臨む。レンジャー隊員としての基礎はもちろん、レンジャー教育の指導者としての教育も実施される。富士学校普通科部で教官を務める三辻1等陸尉は、その訓練内容について次のように説明する。
「訓練実施の上では安全管理に気を配っています。厳しい訓練であってもけがをしたり健康を害することがあってはいけません」と語る教官の三辻1尉
「潜入、襲撃、伏撃、破壊活動など、小部隊の遊撃行動について訓練します。そのために必要な基礎的訓練として、ロープなどの山岳器材を使った山地潜入や、偵察ボートによる水路潜入、ヘリコプターでの空路潜入、さらには爆薬を用いた爆破や格闘術などを幅広く学びます。体力錬成のため各種体育訓練も行います」
これら、レンジャー隊員として必要な知識や戦技を身に付けた上で、「幹部レンジャー」として必要な教育が追加される。
「幹部レンジャーとして、さらにはレンジャー教育訓練を担当する教官として、求められる知識や技能を習得させるとともに、当該職務に必要な資質を養うことも幹部レンジャー課程の重要なポイントです」と三辻1尉は付け加える。

レンジャーは海や川から潜入し、作戦行動をとることもあるので、「漕舟訓練」もマストだ。銃を構え、警戒しながら水路を進む
取材班が密着した野外で行われていた訓練とは?

レンジャー仲間が傷病に見舞われたら、背負って搬送することもあり得る。教官が見守る中、切り立った崖を、ロープを頼りに「背負い搬送」する幹部レンジャー学生
今回マモル取材班は、幹部レンジャー課程の訓練のうち、3つの課目に同行した。1つ目は「地図判読」。地図やコンパス(方位磁石)、歩幅と歩数で移動した距離を計測する方法などを活用して、目標に到達する要領を学ぶというもの。
昼夜を問わず、いかなる気象状況、地形状況においても適切に移動できるようにするための課目だ。2つ目は「生存自活」で、補給なしでも食料や水を得られるようにするもの。山中での食べ物、動植物の取り方や、処理、調理法のほか、ポリ袋などを使った水の採取法なども学ぶ。
3つ目は「拠点占拠・安全化」。これは少人数の部隊が潜伏、休息できる拠点を造るため、土地を占拠し、周囲に危険がないかを偵察して安全を確保、そのうえで簡易的な潜入拠点の構築法などを習得するというもの。
森の中に敵から見つかりにくいよう、天幕を使ったシェルターや、ポンチョで覆えるトイレなどを設置していく。教官たちから見るとまだまだ甘い点が多かったようで、手際の悪さや作業中の発声、足音など、隠密行動を旨とするレンジャーとしての改善点を指摘していた。
幹部レンジャー学生に聞いた
「地図判読」は想定外に要注意

実際に見えている地形地物と地図を比べ、コンパスを当てながら現在地を読む
「現地入りする前にコース全体を地図で確認し、道中のポイントとなる箇所をいくつか記しており、実際の地図判読の際は、そのポイントを1つずつ通過するように心がけたので、スムーズに進めました。
しかし、急な勾配やカーブなど、想定していなかった場所もあり、今回は迷わなかったものの、夜間や体力消耗時にも同じようにできるかは不安も残りました。一番難しいと感じたのは歩測です。方角はある程度修正が利きますが、距離を間違えると戻る必要があったり、曲がる場所が分からなくなったりするので、歩測の精度を高めるのが課題です」
選択肢として必要な「生存自活」

2人1組で1羽の鶏をさばく。首を落とす際に鶏から手を離してしまい暴れさせてしまう組も
「私自身は普段から魚をさばくなど料理もしていたので、鶏をさばくのは初めての体験でしたが、思ったよりもうまくできたと感じています。自分たちで鶏をさばくことで、“命をいただく”ことの意味を改めて実感しました。
食料がない中で、長時間山に潜伏しなくてはならない状況に陥った場合は、やはり選択肢として鳥やヘビなどの生き物を捕って食べることも必要だと思います。そのためには必須の技術だと認識していますので、取り方、さばき方はしっかりと身に付けたいと思っています」
桜井3等陸尉。「2週間ほど自分たちで育ててきた鶏だったので、さばくときは複雑な心境でした」
「拠点占領・安全化」は常に敵を意識

仮設のトイレを造るためスコップで穴を掘る幹部レンジャー学生。衛生面でも重要な設備だ
「レンジャーは、基本的に敵の支配下に置かれた状況で行動するので、拠点を造るにあたっては、いかに敵を意識できるかが重要だと思いました。
訓練では、敵地潜入後の指揮中に声を発してしまったことや、移動時に木や葉っぱを踏んで音を立てて歩いてしまったことなど、課題も多く見つかりました。レンジャーの任務を果たすには、長期間敵地に潜在できる拠点を設けることは不可欠です。いかなるときも自信をもって対応できるよう、今回の経験を生かし、いっそう学びを深めねばと思いました」
久保2等陸尉。レンジャー課程を通じて、「遊撃隊長として、指揮できる能力を身に付けたい」という
(MAMOR2025年4月号)
<文/臼井総理 写真/村上淳>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです