自衛隊の階級には他国軍における軍事階級とは違う、独自の特徴があるという。その最大の特徴は自衛官が“公務員”であることから生まれたようだ。防衛研究所で主に戦史や安全保障の歴史などを研究している伊藤3等空佐に話を伺った。
消えた階級、増えた階級。自衛隊ならではの不思議

朝礼を行う警察予備隊の警察官。1950(昭和25)年に創設され、アメリカ軍事顧問の監督下で各種訓練が行われた
自衛隊の階級制度が他国の軍隊と違う点として、伊藤3佐は、「軍隊組織内で地位や給与体系が確立されている外国軍と異なり、自衛官は国家公務員であり、軍事機関としての顔と行政機関としての顔の2つを有しています。そのため任期制自衛官を除く曹以上の自衛官は原則定年までの終身雇用になっていること」を最初に挙げる。
また、陸上自衛隊の前身にあたる警察予備隊は1950年に警察組織として創設された。そのため警察監、警察監補を将官級、1等警察正、2等警察正、警察士長を佐官級にするなど、警察官の階級に準じたものががそのまま採用された。
その後、警察予備隊を発展させ今日の防衛省・自衛隊に至るのだが、自衛官は特別職国家公務員として、階級全般において独自の修正、変更がなされていったという。
「52年の保安庁の設置に伴い、現在の3尉に相当する『三等保安士』の階級を新設。また、指揮や指導を適切に実施して“幹部の補佐”と“曹士を監督”の職務を付与するため、70年から『准尉』の階級が、80年には定年延長に伴う昇任インセンティブの観点から、『曹長』の階級が新設されました。また、自衛隊生徒にあった『3士』の階級は、児童の権利に関する国際条約の批准や当時の総人件費改革に合わせて見直しが行われ、2010年に廃止されました」と伊藤3佐は話す。
比較で見えた自衛隊の階級の秘密

2013年に行われた観閲式。自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が観閲し、隊員の士気を高め、自衛隊に対する国民の理解と信頼を深める。自衛隊記念日行事の式典の1つ
伊藤3佐は、さらに外国の軍隊と自衛隊との違いを解説してくれた。
「NATO諸国などにおいて、軍人は日本におけるような『公務員』ではなく『軍人』です。階級ごとの在級年限が定まっており、その間に昇任試験に合格しないと退職しなければなりません。例えばアメリカ軍では、入隊から20年で少佐、26年で中佐、30年までに大佐まで昇任しなければ除隊しなければならないのです。それに対し公務員である自衛官は定年まで在籍することができます」
自衛官は、階級ごとに定年が定められている。軍人の場合、階級に居られる期間を停限年齢(停年)というが、自衛官は公務員であるため退職年齢を表す定年が使われている。
続けて伊藤3佐は、「アメリカ軍の『准尉(Warrant Officer)』という階級は、特定の能力や、技術の専門家としての地位を示す階級となっているため、自動的に昇任するのではなく、独立した採用方法をとっています。アメリカ軍の准尉と自衛隊の准尉では、位置づけや役割に違いがあります。また、アメリカ軍などでは、文民が高級指揮官に対して強い人事権を有しています。同様に、各級指揮官が強い人事権を持ってますが、自衛隊では同じことはできません。その点も他国の軍隊にない自衛隊の特徴といえます」と話す。
さらに給与についても外国軍と違う特徴があるそうだ。「自衛官は特別職国家公務員です。自衛隊内の階級は16ありますが、国家公務員の給与法を準用した『自衛官俸給表』の号俸で細かく定められています。また、会計法上の階級もあります。例えば、将補は(一)、(二)に、1佐は(一)、(二)、(三)と細分化されていて、階級内階級によって、補職先が変わります」と説明してくれた。
軍事階級というものは、国を守る大きな組織を効率的に動かすために必要不可欠なシステムと分かった。防衛は、その国の歴史、国情、地勢などによって、その形態はさまざまだ。自衛隊の階級には、日本の守り方が表されていると言えるのかもしれない。
伊藤3等写真 写真/編集部
【伊藤3等空佐】
防衛研究所 戦史研究センター安全保障政策史研究室所属。人事制度、ドクトリンや旧軍の戦史の研究を行っている
(MAMOR2024年12月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>
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