いざ、に備えて日々、訓練に励む自衛官たち。その能力・技術は各国軍にけっして負けないが、私たち一般国民が、それを目にすることはめったにない。
そこで、マモルでは特別に、つるの剛士さんを委員長とする委員会を招集し、それぞれが“これぞ自衛隊の超絶ワザ”を認定していただくことに。さあ、発表だ!
超絶ワザ委員会とは
過去に仕事で自衛隊に関わったタレント、アスリート、軍事や自衛隊に造詣が深いカメラマン、軍事ジャーナリストなどで編成された、自衛隊の超絶ワザを認定する委員会。
写真/星 亘(扶桑社)
つるの剛士認定委員長
1975年、福岡県出身。97年特撮ドラマ『ウルトラマンダイナ』(TBS系)で俳優デビュー。2023年にタレントとして初めて航海中の自衛隊潜水艦を密着取材。自衛隊好きで知識も豊富。
写真提供/本人
フォトジャーナリスト 菊池雅之認定委員
1975年、東京都出身。写真週刊誌編集部を経てフォトジャーナリストとして活動中。自衛隊だけでなく、世界中を飛び回り、アメリカ軍をはじめとする世界各国の軍事情勢を取材している。
写真提供/本人
プロモトクロスレーサー 川井麻央認定委員
2002年、埼玉県出身。3歳からバイクに乗り14年から全日本モトクロス選手権に参戦。20、21、23年にレディースクラス年間チャンピオンに。本誌21年8月号で、自衛隊バイク部隊の訓練を体験。
写真提供/ホリプロ
ソプラニスタ 岡本知高認定委員
1976年、高知県出身。ソプラニスタ(男性ソプラノ歌手)。99年国立音楽大学声楽科を卒業後、パリ市プーランク音楽院入学。2002年首席修了。現在CDデビュー20周年ツアー中。
コンマ何秒の調整で描く「火砲の爆煙富士」(菊池委員)

空中で弾薬を爆発させ破片で攻撃する曳えい火か 射撃の技術。これを応用し富士山の形を爆煙で描くのが超絶ワザの「山形同時着弾」だ
各国の軍隊を取材してきた菊池委員が、世界に類を見ない超絶ワザとして認定するのが、陸上自衛隊野戦特科 が「富士総合火力演習」(注)で見せる「山形同時着弾」だ。これは曳火射撃(一般の砲撃のように着弾と同時に爆発するのではなく、 時限式で空中で弾薬が炸裂する)の技術を応用したもので、1/100秒単位の精度で爆発のタイミングを調整し富士山の形を空中に爆煙で描く超絶ワザだ。
菊池委員は「性能が異なる203ミリ自走りゅう弾砲 、155ミリりゅう弾砲FH70、99式自走155ミリりゅう弾砲で同時に爆発させるのがすごい。しかも射撃をする部隊からは砲弾が描く富士山の形は全く見えていないんです。各装備品の射撃間隔を秒単位で調整して撃つ。この技術も超絶ワザなのでもちろん難しい。
ですが、もう1つ注目したいのが弾薬が爆発する位置やタイミングを観測し、分析し、コンマ数秒のズレなどの修正を指示する観測手と呼ばれる隊員たちの技能で、こちらも素晴らしい。『山形同時着弾』は世界でも類を見ない、チームによる超絶技法ですね」と語る。
(注)陸上自衛隊が東富士演習場(静岡県)で行う国内最大規模の実弾射撃演習
氷を砕き前進するパワフルな「砕氷艦」(菊池委員)

厚さ約1.5メートルまでの氷なら艦の推進力で氷を砕き進む『しらせ』。それ以上の厚さはラミングで進む
日本の南極地域観測事業の輸送協力の一環として南極の昭和基地へ観測隊員と燃料・食料などを運んでいる砕氷艦『しらせ』は海上自衛隊の艦艇だ。
多くの国民におなじみの『しらせ』にも超絶ワザがあると、取材経験がある菊池委員は話す。「南極圏では、氷に船首をぶつけたり、後進して勢いをつけて氷に乗り上げて砕いて進む『ラミング』と呼ばれる航行法を使います。
安全に進むために、氷が比較的薄い場所を見つけ確実に前進させる隊員の操艦技能に注目したい。見極める力が超絶ワザなんです」と話す。
速力を保ち補給する艦艇の「洋上補給」(つるの委員長)

護衛艦『やまぎり』(左)に燃料などの補給を行う補給艦『おうみ』。艦同士の適切な距離を維持し、速力を合わせる高度な操艦技能が超絶ワザだ
自衛隊ウオッチャーとして、さまざまな訓練や任務を見聞きしているつるの委員長が、今回認定するのは、風や波で揺れる洋上で、護衛艦や輸送艦などに、対艦距離わずか40メートルで並走し、燃料や水、食料、弾薬を補給する超絶ワザだ。
護衛艦や輸送艦が長期間洋上で任務を継続するには、母港に帰らず洋上で燃料や食料などを補給する必要がある。そのために海上自衛隊には補給艦があり『ましゅう』型2隻と『とわだ』型3隻が就役している。
洋上補給は、補給艦と受給艦が横並びで航行。両艦の間をワイヤーとホースでつなぎ補給する。風や波の状態が刻一刻と変化する海上で速力や両艦の間隔を一定に保つ高い操艦技能が求められる。
海自は対テロ対策として2001年から10年まで行われた「自衛隊インド洋派遣」において、多国籍軍12カ国の艦艇に対し燃料と水の洋上補給を1219回実施。赤道付近の高温多湿で過酷な環境下で正確で安全な補給を行い、各国から賞賛を得た。
「世界から認められた技術の高さがすごいです。多くの人に知ってほしい超絶ワザです」とつるの委員長。
手足のように操る「偵察部隊のバイク技」(川井委員)

不整地でバイクを進める林道走行。険しい地形でもバイクを巧みにコントロールする偵察オートの基本で、川井選手も果敢にチャレンジ (写真/楠堂亜希)
陸上自衛隊には、オートバイを自由自在に操り山河を駆け情報を集める、通称「偵察オート」と呼ばれる部隊がいる。その実力を確かめようと相馬原駐屯地(群馬県)に所在する第12偵察隊の隊員の訓練を体験した川井委員。

後輪を持ち上げ静止するジャックナイフ。走行状態からフロントブレーキと体重移動でバランスを取る。1回で成功する自衛官に対し、初チャレンジの川井委員はコツをつかむまで苦労した超絶ワザだ (写真/楠堂亜希)
その川井委員は、「自衛隊のバイクは無線機用のキャリアや機体を保護するガードなどの装備が付いて重いはずなのに、石がゴロゴロした林道に猛スピードで突っ込んでいくのに驚きました。
私は3歳からバイクに乗っているので、バイクは自分の手足の延長のような感覚です。隊員の方も自分の手足のようにバイクを操っていたのはすごい。ハードな訓練と努力が生み出したものだと思います」と、その超絶ワザを認定した。
共演してみて分かった「自衛隊音楽隊の演奏美」(岡本委員)

『祈り ~ a prayer 2023』のレコーディング時に撮影した1枚。「演奏服を着た隊員の皆さんの、ピンとした力強い姿勢もすごいと感じました」と岡本委員 (写真/JMSDFTokyoBandVEVOより)
自衛隊には音楽演奏を任務とする「音楽隊」があり、自衛隊の訓練や式典などで演奏するほか、各種イベントなどで演奏を行っている。隊員たちの多くは音楽大学の出身者で構成され、その演奏はプロの楽団に比べてもひけを取らないだけに、抽選による公演チケットは倍率も高い。レコード会社よりCDなども多数発表されている。
『祈り~a prayer2023』のレコーディングで海上自衛隊東京音楽隊と共演し、演奏会にサプライズ出演もしたソプラニスタの岡本委員は、海自東京音楽隊を「ハイレベルなスペシャリスト集団」と超絶ワザ認定。
「自衛隊という言葉から、行進曲のような曲が得意なのだろうと思っていましたが、良い意味で予想を裏切られました。
金管楽器をはじめ、彼らの奏でる音は非常によくコントロールされていて、特に静かなピアニッシモの音が美しい。人の心に寄り添うような優しいサウンドです。これは誠実に練習を積み重ねている証だと思います」
(MAMOR2024年11月号)
<文/真嶋夏帆 写真提供/防衛省(特記を除く)>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです