日本を含むインド太平洋地域の国々に繁栄と安定をもたらすことを目的に、日本が2016年に提唱した外交方針「自由で開かれたインド太平洋(略称:FOIP<Free and Open Indo-Pacific>)」。
日本を含むインド太平洋地域の国々に繁栄と安定をもたらすべく、2016年に日本が提唱した外交方針「自由で開かれたインド太平洋(略称:FOIP<Free and Open Indo-Pacific>)」。これを実現するため、防衛省・自衛隊はさまざまな活動をしている。。
その一環として、24年6月に行われたのが「乗艦協力プログラム」である。毎年内容を変えて行われており、2024年度は6月20日にグアムを出港して26日に横須賀へ入港、そして東京、横浜でも研修を実施するトータル11日間のコースが組まれた。
今回、そのうち護衛艦『いずも』での航海に同乗。マモル特派員が、各国からのゲストと『いずも』乗組員たちがどのように交わるのか、この目で確かめてみた。
昼夜分かたず実施される、多種多様な訓練をリポート

2015年に就役した『いずも』は、巨大な飛行甲板が特徴の、海上自衛隊最大級の排水量を誇る多機能型護衛艦だ 写真提供/防衛省
今回『いずも』の航海は、「乗艦協力プログラム」だけを行ったわけではない。艦の練度を磨くための訓練も並行して行われた。
その一部は乗艦協力プログラム参加者(シップライダー)たちも見学し、海上自衛隊の実力の一端を知ってもらう機会となった。
暗闇のなか、最小限の光で離着陸を行う「ヘリコプターの運用訓練」
自衛隊が有事に真価を発揮するには、平素からの訓練、演習が重要なのは言うまでもない。護衛艦においても、普段から単艦訓練、他艦や航空機との連携など、多様な訓練が行われている。
今回の航海でも、毎日訓練が実施されていた。まず特派員が注目したのは、「ヘリコプターの運用訓練」だ。
艦前部のエレベーターを使い、格納庫から飛行甲板にヘリコプターを運ぶ。揺れる艦上でもヘリを壊さないよう、慎重かつスピーディーに作業が行われる
護衛艦『いずも』最大の特徴は、巨大な飛行甲板を持つこと。多数のヘリコプターを同時に運用できるというのが強みだ。最大で9機を搭載可能。甲板上のヘリコプター発着スポットも5カ所あるなど、強力な航空機運用能力を持つ。

日が暮れても発着艦訓練は続く。この日は完全に日が落ちて夜になっても飛行甲板上は大忙し。夜、フライトが終わった後にも機体の洗浄や点検、給油などを行わなければならない
発着艦訓練は昼夜を問わず続けられ、ヘリに搭乗するクルーは次々と交代しながらフライトを行う。『いずも』には甲板上に夜間でも発着艦可能なよう、目印となる各種ライトが埋め込まれているのだが、遠くから敵に発見される可能性があるためこうこうとは照らさない。

真っ暗な海上、揺れる艦上で、手元の赤いわずかな光を頼りにヘリコプターへの燃料補給を行う隊員。普段からの訓練のたまものだろうが、よくあんな暗い中でも迷わずキビキビと動けるものだと驚く
ごくわずかな光を目標に降りてくるヘリを見て、「よくこんな状況で揺れる艦上に降りてこられるものだ」と感心させられた。
1メートル先も見えない、過酷な状況で行う「防火訓練」
視界も悪く、空調も効いていない暑い状況で、自給式呼吸器に防火マスク、防火服を着用して防火訓練に臨む隊員。煙でライトの光も乱反射する中、的確に状況を把握していく。空気の残量は常に確認し、不足する前に補充する
ほかにも、艦内の乗組員居室から火災が発生、という想定で行われた「防火訓練」は、かなり激しいものだった。
自給式呼吸器や防火服を身に着けた隊員たちが、火元を発見し、消火を行うまでの一連の動きを訓練していたのだが、特殊な訓練用のスモークがたかれ、1メートル先も見えないような状況に。そんな中、電子メガホンによる指示が飛び交い、多くの隊員が入れ代わり立ち代わり火元に突入していく。
途中、訓練中に軽い熱中症なのか、空気がしっかり吸えなかったのか、苦しげな症状で仲間に支えられながら後退する隊員も出るほど。本気でやらなければ、いざというとき役に立たないのだということを改めて実感した。

『いずも』と並んで航行する、アメリカ海軍の駆逐艦『ラファエル・ペラルタ』。艦上で手を振る乗組員に手を振り返すシップライダー。駆逐艦を背景に記念撮影をする姿も見られた
また、航海中にはアメリカ海軍の駆逐艦と洋上で合流し、「共同訓練」も行われた。搭載ヘリコプターで乗員を相互に派遣したり、2艦で隊列を作っての航行訓練や、フォトエクササイズ(動画、写真を用いた広報を効果的に行うため、撮影を行う訓練)を実施。双方の艦上に乗員が並び、手を振り合うシーンもあった。
搭載ヘリコプターで溺者を救助する訓練では、艦載ボート(内火艇)に乗り海面から取材。少しの波にも人影は隠れ、揺れるボートからヘリをカメラに捉えるのも一苦労。こんな状況でも素早く救助する技に感動すら覚えた。
訓練の内容は多岐にわたる
立入検査隊による訓練

護衛艦では、不審な船に対して臨検や立入検査を行うための「立入検査隊」が選抜された乗組員によって編成される。立入検査服装に身を包み、拳銃を装備した立入検査隊による訓練も行われた。
救難訓練
人形ではなく、実際に要救助者役の隊員を洋上に下ろして行われた「救難訓練」にて、ヘリからロープで下りてくる救難員。
(MAMOR2024年11月号)
<文・写真/臼井総理>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです