陸上自衛隊にも飛行部隊があり、輸送ヘリや攻撃ヘリなどの各種ヘリコプターに加え、少数だが連絡偵察機などの飛行機も装備している。そのため、テストパイロットが陸自にも存在するのだ。
陸自テストパイロットの拠点は三重県の明野駐屯地。ここに所在する「飛行実験隊」について紹介しよう。
陸自における開発は飛行実験隊が手がける

「寒冷地飛行試験」の模様。低温状態は航空機にとって非常に過酷な条件だ。エンジンも始動しにくく、機体に雪や氷が付着すると飛行性能も低下する。そのため、寒冷地でも十分に使えることを示すためのテストを実施する。写真はXOH-1試験機による研究時のもの。極寒の北海道で行われた(写真提供/防衛省)
航空自衛隊では飛行実験群飛行隊、海上自衛隊には第51航空隊という航空機の開発や装備品の試験を実施する部隊があるが、陸上自衛隊において航空機や関連装備品のテストを行うのは、明野駐屯地に本拠を置く「飛行実験隊」だ。陸自の装備開発を担当する開発実験団隷下のこの部隊には、陸自えりすぐりの隊員、そしてテストパイロットたちが籍を置いている。
なお、陸自には独自のテストパイロット養成プログラムがない。では、どうするかというと、海自または空自のテストパイロット養成コースに委託する形で育成しているのである。
飛行実験隊が担当するのは、航空機などの「実用試験」だ。実用試験とは、装備品が陸自の任務、使用目的に適合するかを評価する試験のこと。飛ばさない「地上試験」や、さまざまな条件のもと航空機を実際に飛ばしてテストする「飛行試験」を繰り返し、装備品として使えるかをテスト。必要であれば防衛装備庁やメーカーとも協力して改善を行う。
また、並行して防衛装備庁が行う、航空機に搭載する電子機器などの試作された装備品が設計に合致しているかを評価する「技術試験」にも協力し、飛行データの収集などを行う。
各種試験を行いながら、装備品の「開発完了」を示す、防衛大臣による「部隊使用承認」を目指す。承認を得た後、新型航空機は量産態勢に入り、部隊配備が始まるのである。
新型機の量産が始まっても、任務は終わらない

UH-2多用途ヘリコプターの試作機「XUH-2」が、飛行試験準備のため、明野駐屯地の滑走路脇エプロン地区に引き出されてきた際の写真。1機しかない試作機のため、いつにもまして慎重に扱う隊員た (写真/花井健朗)
量産が始まり、装備引き渡しが始まると、現場部隊への教育、訓練、そして実際の運用に入る。飛行実験隊では引き続き、部隊から上がってくる技術的な質問に対応したり、部隊からの要望をまとめて次の改良に生かしたりと、引き続き装備品に関わることになる。そしてある程度運用が進んだ後、今度は「改修」を行うための各種試験、評価を担うことになる。
このように飛行実験隊は、陸自の航空関連装備の開発はもちろんのこと、よりよい活用のため、部隊が効率的・効果的に運用して任務達成に役立つように活動を続けている。最近では、2021年に部隊運用が始まった新型の多用途ヘリコプター・UH-2の開発を担当した飛行実験隊だが、次なる新規開発や改良へ向けて、今日も陸自のテストパイロットは腕を磨き、任務に励んでいるのだ。
(MAMOR2024年9月号)
<文/臼井総理>
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