![画像: LCACのコックピットが再現されたシミュレーター。窓の外にはプロジェクターで投影されたリアルな風景画像が流れ、時間や航行状況によって刻一刻と変化する](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783594/rc/2024/07/10/a9f1b00bfadb13ca2edc028a676165d0e6685a6c_large.jpg#lz:xlarge)
LCACのコックピットが再現されたシミュレーター。窓の外にはプロジェクターで投影されたリアルな風景画像が流れ、時間や航行状況によって刻一刻と変化する
海上自衛隊に25年以上前から配備されているホバークラフト、LCAC。2024年に、持ち前の実力を改めて発揮し、注目を集めた。
この年の元日に能登半島を襲った地震は海底を隆起させたため、多くの港に艦艇が入れなくなってしまい、さらに土砂崩れなどで陸路もふさがれて、救助隊が被災地に入れないという事態がおきた。
そこで、空気の力で船体を浮かせて、深度の浅い海でも高速で航行でき、そのまま砂浜へ上陸できるLCACが、多くの救難物資や救助隊員を運び、能登を救ったのだ。
今回はLCACのクルー育成を行う、呉水陸両用戦・機雷戦戦術支援分遣隊エアクッション艇教育科を紹介する。
航空機のコックピットのような専用シミュレーターを活用
LCACのクラフトマスター経験も豊富な志馬1尉だが、「教官としてミスは許されないので、あぐらをかいてはいられません」と、任務時は常に気を引き締めている
船とも航空機とも違う、独特なLCACの操縦、運用を訓練し、クルーの育成を行うのが、呉水陸両用戦・機雷戦戦術支援分遣隊(略称・呉両機戦分)エアクッション艇教育科である。
水陸両用戦・機雷戦戦術支援隊(略称・両機戦術隊)は、横須賀に拠点を置き、水陸両用戦、機雷戦の調査研究および戦術支援を主な任務とする隊。呉両機戦分エアクッション艇教育科は、その一部として、LCACクルーの育成、教育を任務としている。
「育成の対象は操縦席につく3つのポジションに各3人の計9人で、約半年にわたる教育を行います。クラフトマスター課程では操縦を、エンジニア課程では機関の操作を、そしてナビゲーター課程では航行補助を学びます。クラフトマスターは幹部、それ以外は准尉、海曹が学生として入校します」
このように教育課程について紹介してくれたのは、教官の志馬崇則1等海尉。入校した学生は、まず基本的な艇の動かし方から学び、ある程度の緊急事態にも対処できるように訓練を行うという。
「ここには、LCAC専用のシミュレーターがあります。これを使って訓練を行い、最終的には実機で訓練し、課程修了時には単独で訓練の運航までできるようになります。災害派遣などの実任務については、部隊配属後にさらなる訓練を積んで、その資格を取ることで実施できるようになります」
LCACの操縦はクルーの感覚が重要
![画像: シミュレーターは複数の油圧装置に支えられており、航空機用と同じように本体ごと動かすことが可能だ。揺れや傾きなどは、本物にかなり近い動きをするのだとか](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783594/rc/2024/07/10/5c0f12f79540da21e83deb3ec52a15f453119572_large.jpg#lz:xlarge)
シミュレーターは複数の油圧装置に支えられており、航空機用と同じように本体ごと動かすことが可能だ。揺れや傾きなどは、本物にかなり近い動きをするのだとか
教育上、特に注意している点について、志馬1尉に聞いた。
「まず、LCACが『少人数の配置』であることを理解しなくてはなりません。大きな艦艇では同じ仕事をしている隊員が自分以外にもいますが、ここでは1人でやらねばなりません。
5人のクルーで1つのLCACを動かすという意識を持ち、指示を待つのではなく自らの責任において積極的に動くことが必要です。加えて、LCACは3次元で動く乗り物です。テンプレートに沿った操作などなく、1度たりとも同じ操作はありません。よく『頭よりも先にLCACを進めるな』と言うのですが、常に自分のコントロール下に置かないとダメですね」
LCACはかなりの「職人技」を要求される乗り物だと志馬1尉は言う。
「クルーの感覚がかなり重要なんです。操縦席から見える景色の速さ、音。そうした感覚に加え、機器類から入る情報を総合し、LCACが5秒、10秒後にどこをどんな状態で走っているか、全て想定内に収めるのです」
では、どんな隊員がLCAC乗りとしてふさわしいのか。そして、クルーとしてのやりがいについても聞いた。
「やる気があって入校するのは最低条件。とっさのときに1人で対応できる意識と能力がないと一人前のクルーにはなれません。大変なことも多いですが、唯一無二、私たちにしかできない仕事ができるのが、LCACクルーのやりがいですね」
(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
<文/臼井総理 撮影/村上淳>