海上自衛隊に25年以上前から配備されているホバークラフト、LCAC。2024年に、持ち前の実力を改めて発揮し、注目を集めた。
この年の元日に能登半島を襲った地震は海底を隆起させたため、多くの港に艦艇が入れなくなってしまい、さらに土砂崩れなどで陸路もふさがれて、救助隊が被災地に入れないという事態がおきた。
そこで、空気の力で船体を浮かせて、深度の浅い海でも高速で航行でき、そのまま砂浜へ上陸できるLCACが、多くの救難物資や救助隊員を運び、能登を救ったのだ。
今回はわれらがヒーローLCACに搭乗したクルーと、第1エアクッション艇隊の実力を紹介する。
5人のクルーが協力し最大限の力を発揮する
輸送艦『おおすみ』、『しもきた』、『くにさき』が所属する、海上自衛隊掃海隊群隷下の第1輸送隊。その中に、6隻のエアクッション艇が属する「第1エアクッション艇隊」があり、エアクッション艇を動かすクルーたち63人が所属する。
「LCACには、クラフトマスター、エンジニア、ナビゲーター、デッキエンジニア、ロードマスターの5人が1組となって乗り組み、それぞれがスペシャリストとして自分の役割を果たします。5人のクルーは固定ではなく、任務の内容や訓練の進行状況、スキルの習熟などによって都度組み替えます」とLCAC乗組員の構成を語るのは、自身もクラフトマスターとして乗り組む久留須太一1等海尉だ。
久留須1尉によれば、基本的に『おおすみ』にはLCAC1、2号艇、『しもきた』には3、4号艇、『くにさき』には5、6号艇が搭載され、クルーたち運航班も艦艇ごとに配置されるという。ただし、LCACや輸送艦の整備・修理状況などによって変わることもあるとか。
「当隊の任務は、人員や貨物を輸送艦と陸上の間で輸送すること。2013年には、台風被害を受けたフィリピンに対し国際緊急援助活動として救援物資の輸送を行いましたし、アメリカ海軍との共同訓練は度々行っています。また新たなクルーを育成する教育の支援も担います」
部隊の雰囲気はどうだろうか。
「比較的小所帯ということもあり、互いの距離感も近く、結束も固いと思います。個性豊かなメンバーが集まっているため、普段から意見をぶつけ合い、理解し合いながら高め合っています」
5人のクルーの仕事内容とは?
クラフトマスター
久留須1尉に、クラフトマスターとしての仕事について聞いてみた。
「クラフトマスターは艇長としてLCACを指揮し、自らも操縦かんを握って操縦を行います。LCACは操縦が難しい乗り物であり、特に『感覚』が重視されます。メーターだけを見ていては分からない周囲の状況、風、艇の挙動などを先読みしながら操縦します」
エンジニア
続いて話を聞いたのは、エンジニアを担当する奥山真樹1等海曹だ。
「エンジニアは、操縦席の中央に座り、LCACが常に全力発揮できるようエンジンや電気系統などを監視したり、不具合に対処したりというのが任務です。海面状況が悪いとか、艇に不具合が起きた場合でも、エンジニアとして最大限運航を続けられるよう努めます」
エンジニアから見た、LCACを運用する難しさはどのあたりにあるのだろう。
「経験が重要だという点です。私もここに16年いますが、艇の改修や、自分たちの知識も増えて技量も上がったことで、以前よりもさまざまな運用に対応できるようになったと実感しています」
ナビゲーター
ナビゲーターの高梨晃章1等海曹は、クルー内での役割を次のように説明した。
「ナビゲーターは、レーダーや無線機の操作をするとともに、訓練や運航計画全般においてクラフトマスターを補佐する役割です。機器の不具合や気象・海象の急変もありますので、常に先を読み、もしもが起きた場合の第2、3案をイメージしながら任務に臨んでいます」
デッキエンジニア
4人目のクルーは、デッキエンジニア。担当する市山翔大3等海曹の話を聞こう。
「デッキエンジニアは、洋上でLCACが故障したり、運航中に油圧ホースが破損したり、ブレーカーが落ちたりといった場合にすぐ応急処置ができるよう、持ち場で待機するのが主な任務です。LCACはたった5人で運航しているため、ほかのクルーの仕事状況を見ながら、できることをやれるよう心掛けています」
市山3曹によると、洋上でのトラブルは、それなりにあるという。トラブルを大きくせず、常にLCACが能力を発揮できるように対処するのが、彼の仕事だ。
ロードマスター
最後のクルーは、ロードマスター。LCACに搭載する車両、物資、人員の統制を行う仕事だ。この任務に就く村上諒3等海曹に、具体的な仕事内容を聞いた。
「車両や物資の重量を計算し、バランスをみて甲板上の適切な位置に誘導し、固定するのが主な仕事です。LCACが航行しているときは、操縦席とは逆、左舷の見張り台から左側の見張りを行います」
5人に共通することは「LCACに乗れることへのやりがい」
LCACクルーの任務は、少人数ゆえ臨機応変さが求められることに難しさがある、と村上3曹は語る。
「ロードマスターでいえば、搭載する車両が変更になったときなど、その場に合わせた対応が必要です」
5人のクルーに共通していたのは「LCAC乗りとしての矜恃」を強く持っていること。LCACに乗れること自体にやりがいを覚えるようだ。
(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
<文/臼井総理 撮影/村上淳>