「防衛装備品」というと、戦車や護衛艦や戦闘機などを思い浮かべるが、国を守る道具は、私たちに身近なモノから、「これは何?」と見ただけでは用途が分からないモノまで、多岐にわたる。
そこで、マモルでは、自衛官が任務を遂行するために、日ごろから使っていて、しかし、私たちの目に触れることが少ない道具を中心に紹介します。「能書は必ず好筆を用う」といいます。
はたして、国防の志士たちが駆使する道具とは?
隊員が日々使う道具には思いが込められている
自衛官が、任務を遂行するために使われてきた道具たち。一般の人たちも使用するものもあれば、自分たちで使いやすいように加工したものもある。
「国を守る」という強い志を持つ隊員たちが意思を込めて使うだけで、それは立派な「防衛装備品」となる。今回は海上自衛隊で使われている装備品を、それを使う隊員の思いとともに紹介する。
スパテル
200食分の調理鍋を混ぜるのに必要な木製スパテル
<SPEC> 長さ:約120cm、重さ:約2kg前後、穴の開いているスパテルは汁用
艦艇などで、大量の食事を作る給養員が、炒め物や煮物、汁物などを調理するときに、食材を混ぜるなど、多岐にわたって活躍するのがこの木製スパテルだ。
護衛艦『ゆうぎり』で約200人の隊員たちにおいしい食事を作る、山崎隼也3等海曹 (写真/増元幸司)
「最初は大きいので扱いづらかったですが、スパテルを持つ右手と左手の押し引きの加減と、鍋の中で∞の字を描くように回すというコツを覚えてからは使いこなせるようになりました」と語る山崎3曹。
測距儀
艦艇間や岸壁までの距離を測り安全に航行するための道具

<SPEC> 長さ:約66cm、直径:約10cm
「海上で複数の艦艇が陣形を組んで航行する訓練などがありますが、その際に艦艇間の距離を測ったり、接岸する際は岸壁との距離を測るのに使用します」と語る、木ノ上士長。
「海自のお家芸である、正確な陣形による艦艇の航行には欠かせない」と木ノ上哲士海長 (写真/増元幸司)
「左右にレンズが付いていて中央にある接眼部のレンズをのぞきながら左右のレンズのピントを調整することで目標までの距離が測れます。安全な航行のためには必須です」
海図
目標地点までの航海計画をたてる
<SPEC> 縦:約100cm、横:約80cm
「海図」とは海の道である航路や海の深さ=水深が示された「海の地図」のこと。
護衛艦『ゆうぎり』内で、海図を引く、木ノ上哲士海士長 (写真/増元幸司)
木ノ上士長は、「近年、商船などではデジタル化が進んでいますが、海上自衛隊では現在も多くの艦艇が紙の海図を使用しています。安全な航海ができるように水深などを確認し、目的地までの航海計画を立案しています」。
らっぱ
らっぱが吹けるようになれば海自の航海員として一人前

<SPEC> 素材:真ちゅう、長さ:約40cm、幅:約5cm、高さ:約10cm、重さ:約500g
「自衛隊の艦艇では、らっぱの音を合図に任務を行っています。例えば、朝の6時になると隊員を起こすために『総員起こし』という名の曲を吹奏します。
また、自衛艦旗の掲揚と降下時に『ラッパ君が代』を吹奏。出(入)港時には必ず『出(入)港用意』を吹奏します」と語る、松本1曹。海自のらっぱはトランペットのようなピストンがないので息の強弱やくちびるの加減で音階を奏でるそうだ。

「らっぱが吹ければ航海員として一人前の証し。今では艦艇勤務を共に歩んできた相棒ですね。海自の伝統を感じることができる道具なので、常にピカピカの状態を保つため、毎日磨いています」
※寸法などスペックの記載がないものは公表されていません
(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
<文/魚本拓 写真/星 亘(特記を除く・扶桑社)>