病院や街の薬局などで私たちも日常的にお世話になっている薬剤師。自衛隊にも、自衛官であり国家資格を持つ薬剤師でもある「薬剤官」がいる。薬剤官は隊員の健康管理、防疫および衛生資材などの補給整備を行う「衛生」という職種に属している。
その任務は多岐にわたり、自衛隊内の病院はもちろん基地や駐屯地、被災地や派遣先の海外、はたまた有事の際には第一線へも進出する。マモルでは、国を守る自衛官の体を守る薬剤官のマルチ・プレイヤーぶりに焦点を当ててみた。
病院:調剤業務にとどまらない病院の薬剤官
自衛隊薬剤官のマルチな任務紹介の最初は自衛隊病院での勤務から。薬剤官といえども私たちが想像するような調剤や服薬の指導などが主な任務だが、自衛隊らしい面もあるという。
調剤任務と合わせて災害医療にも対処する
「入隊前、薬剤関係だけでなく、物品管理のような黙々とやる仕事も自分に合っていると思いました。入隊してみると想像していた以上に薬剤官は職務の幅が広かったです」と話す大畑平佑1等空尉。現在は自衛隊入間病院の診療技術部薬剤課に勤務し、主に薬局で調剤業務を行っている。民間の薬剤師と同じような任務だが、それでも自衛隊らしいことがあると話す。
「災害医療を学び、災害派遣に関わることは特徴だと思います。被災地ではトイレや感染症への対処など、公衆衛生の問題が起こります。このような事態に直面したとき、どのような対処が考えられるか、医療に携わる自衛官としてできることは何かなど、取り組む課題は多いです」
教育部で学生に教えるという仕事の難しさと面白さ
調剤や服薬指導に関しても自衛隊ならではの取り組みがあると大畑1尉。「航空機に携わる隊員には、眠気を及ぼすような薬は出せません。万が一の事故を防ぐため、任務に合わせた対応が求められます。そんな航空業務に携わる隊員の環境理解のため、実際に航空機に搭乗する訓練も行いました」
そして大畑1尉は自衛隊入間病院の教育部で、准看護師や救急救命士の資格取得を目指す学生に対して薬理の講義も受け持っている。
「医薬品それぞれの効果や副作用などの注意点を教え、現場で実際に使用するときに苦労しないよう、実践的な知識を与えるようにしています。自分では分かっていても、それを学生に理解させるために教材の内容を精査するなど、工夫の連続で大変ですが同時にやりがいも感じています」
基地・駐屯地:艦艇勤務もある海上自衛隊の薬剤官
全国の基地・駐屯地には医務室や診療所などの医療設備があり、そこで薬剤官も勤務している。加えて海上自衛隊の薬剤官は艦艇に乗艦し、勤務をすることもある。
訓練や海外派遣などで艦艇勤務がある海自薬剤官
自衛隊佐世保病院 や大湊病院 などの病院勤務を経て、2022年から横須賀衛生隊の第1衛生科長として横須賀基地(神奈川県)の医務室に勤務している中島友南1等海尉。主な任務は横須賀地区部隊全体の衛生環境の維持で、具体的には医薬品や医療機器の調達・整備などの資材管理業務、さらに定期的な隊員への健康診断、身体検査などのサポート業務が加わる。
これは基地や駐屯地に勤務する薬剤官なら陸・海・空問わず同様の勤務内容だが、海自の薬剤官の場合、艦艇に乗船しての医療支援という任務があり、護衛艦の医務室に配置されたり、海外での訓練や災害派遣などで乗艦することもある。中島1尉も22年、火山島噴火の被害を受けたトンガへの国際国際緊急援助活動 に派遣され、輸送艦『おおすみ』に乗艦した。
医療品の在庫把握や感染症の対策などの衛生業務を担当
英語が得意で世界を舞台に活躍する海自に魅力を感じていた中島1尉は「任務の醍醐味は、やはり艦艇勤務です」と語る。トンガ派遣はチャンスだった。
「艦艇勤務は、1度出港すると簡単に医療機関で受診できないため、乗艦する隊員の健康状況や服薬歴の確認は必須で、それに合わせた常備薬の確保など事前準備が重要です。出港後は医薬品の管理や艦内での感染症対策、隊員の健康管理などに注意します」と中島1尉。
ほかにも外国軍との親善訓練など海外で任務に就くことがある。海外派遣ならではの注意点もあると中島1尉は続ける。「艦内で使用する飲料水の管理です。寄港地で真水を補給する場合は、衛生の隊員として飲用に適しているか水質検査を実施しました」
<文/古里学 撮影/増元幸司 写真提供/防衛省>
(MAMOR2024年7月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです