小銃は、入隊した陸上自衛官1人に1丁が貸与されるミニマムな火器の1つ。
陸上自衛隊における小銃は、ただの個人装備品ではなく、入隊から退職までずっと付き合うパートナー、武士の刀にも例えられる自衛官の“魂”でもあるようだ。
普段の訓練から管理まで、隊員たちはどのような思いを持って小銃と付き合い、使っているのか。現役の隊員と元陸将補の話から、その魂に迫ってみたい。
小銃は“体の一部”と同じで、自分と仲間の命を預けるもの

小銃貸与式では1人ひとりに小銃が手渡される。受け取った隊員は大きな声で「銃!」と復唱し銃固有の番号を叫ぶ
陸上自衛官にとって、小銃は一番身近な装備品であり、入隊から退職まで付き合うパートナーだ。
陸自に新隊員として入隊後、各隊員は教育隊長などから小銃を貸与される。初めて小銃を手にするとき、その物理的な重量よりも殺傷力を持つ装備を手にする“重み”を感じるという。
その後、小銃の仕組みを正しく理解し、正確かつ確実に分解し素早く組み立てをする訓練を何度も重ねる。そんな小銃を、隊員たちはどうみているのだろうか。陸上自衛隊富士学校で全国の陸自部隊で小銃の射撃術などを教える教官を育成する八木亜生都2等陸曹に聞いた。

小銃の清掃法も学ぶ。布を巻いた棒を銃口から入れ、銃身についたすすなどの汚れを落としメンテナンス
「小銃は自分の体の一部、という意識ですね。私たち自衛官が任務を遂行する上でなくてはならないものです。自分と仲間を守るための唯一の装備ですので、取り扱いに習熟することはもちろん、日ごろから大切に扱い、常に射撃ができるように維持・整備しています」
その重要さを証明するように、陸自では先述の貸与式や退職して小銃を返納する際に式典を行う。陸上自衛官は小銃と共に隊員生活を過ごすといっても過言ではない。武士にとっての刀と同様、陸上自衛官にとっての小銃は“魂”なのだ。
大切だが危険な小銃。安全管理を徹底して行われる教育

小銃の分解・結合も徹底して訓練。最終的には暗闇でも分解・結合できるよう繰り返し訓練して身に付ける
銃は国を守るものである一方、1つ間違えれば自分や仲間を傷つけてしまうものだ。自衛隊の教育では、銃の安全管理は徹底して教え込まれる。
八木2曹は、安全管理の教育について次のように語った。「射撃技術を教育するのはもちろんですが、自分や他人に銃口を向けないなどの『銃口管理』は特に徹底しています。さらに取り扱いの所作についても、実戦に即した合理的なものであるかを確認しながら指導しています」。
安全管理は任務遂行の直結だけでなく国民からみて安心できる、ということにもつながるため、とても大切なのだ。
「教育でも『銃を持つ資格があるのか』を考えさせる指導、人間修養を心掛けています」と八木2曹は言う。
小銃の作法の底上げが自身と国民を守る力に

小銃の射撃訓練。初めは弾を入れずに動作を学び、最後は教官の指示のもとで空包と実弾で訓練する
「私が普通科連隊長をしていたころ重視したのは、小銃の安全な取り扱い、手入れ、射撃の精度など全てに関係する『ガンハンドリング』と呼ばれる作法です。武道の達人は、お互いに構えた瞬間に強さが分かるといわれます。同様に小銃の所作を見れば、その人のガンハンドリングのレベルが分かるのです」と元陸将補の二見龍氏。
このガンハンドリングについて、精度を上げなくてはいけないと続ける。
「安全管理は大切ですが、敵から自身と国民を守ることができて初めて小銃の基礎ができたと思うべきです。私は『時間があれば手入れしろ』と伝えていました。自分の体に故障があれば満足に動けないように、小銃を自分の体の一部として最善に保つことが強さにつながるからです」
【富士学校普通科部 八木亜生都2等陸曹】
「慣れ親しんだ89式から形が変わったので最初はしっくりこなかったのですが、今は体になじんでいます」と話す富士学校普通科部の八木2曹
写真提供/本人
【二見龍氏】
元陸将補。第40普通科連隊長などを務め2013年退職。現在は民間企業で危機管理の仕事に携わり執筆活動もしている
(MAMOR2024年6月号)
<文/臼井総理 撮影/防衛省提供>
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