国民の自衛隊に対する理解を深めてもらうことを目的に、1963年に初開催された「自衛隊音楽まつり」。主に音楽隊が脚光を浴びるイベントだが、舞台裏で運営を担うのも自衛隊員だ。イベントの企画や演出、写真や映像の撮影、舞台上での補佐役など、あらゆるサポートを隊員たちが実施している。
2020年と21年は新型コロナウイルスの影響で中止となり、22年は観客数が制限されたなかでの開催となった。
4年ぶりに制限なし、東京・九段にある日本武道館で11月16~18日の3日間・全7回(リハーサル公演含む)にわたる公演となった23年の音楽まつり。その舞台裏で全力を注ぐ隊員たち、本記事では演技支援隊にスポットライトを当ててみた。
演技支援隊:入場幕の開閉や舞台演出などをサポート
「自衛隊音楽まつり実施本部」の隷下に編成される出演部隊の中にも、音楽隊を陰で支える部隊がある。それが演技支援隊だ。
迷彩服に身を包み、場合によっては公演中に舞台に上がってフットライトを浴びながら、マイクや演奏台など機材の設置と撤去などのサポートをするのだ。
陰に日向に活躍を見せる臨時編成の演技支援隊
「令和5年度自衛隊音楽まつり」は、序章から最終章までの全5章で構成されている。開幕してすぐにナレーション時の効果音として風切り音を鳴らすためステージに登場したのが、演技支援隊だ。
彼ら、彼女らは、黒子として演奏者をサポートする一方、ステージで展開される視覚的な演出にも貢献している。重要な役割を担っているのだが、この部隊も臨時編成だというから驚く。
「支援隊への参加要請があったのは、10月の中旬ごろ、本番の1カ月ほど前です。隊員の初顔合わせがあったのは本番の10日ほど前のことですね」
そう話すのは、演技支援隊のリーダー・森田祐司3等陸曹。隊の運用全般の指揮や進行管理を担当しているという。
「具体的には、舞台袖で出演者へ出番の指示を出すなど、演目のタイムスケジュール管理をする仕事です。それと、陸自の中部方面音楽隊の演奏時に使用する大道具の設置や、航空中央音楽隊の演奏時に使用される、ブルーインパルスが描かれた大幕を使った演出の支援、最終章でのレッドカーペットの設置などを行っています」
演技支援隊は、これまでは陸自の隊員で編成されていたが、2023年の音楽まつりでは初めて、陸・海・空各自衛隊の混成チームとなった。
陸自から10人、海自と空自からはそれぞれ3人ずつの計16人で編成されている。初参加となった西田梨花空士長も舞台に立った1人だ。
「序章の演出では、音が出るサウンドホースを回す役として、また、陸自中央音楽隊の演奏時に演出として使用される紅白の帯の持ち手、ブルーインパルスが描かれた大幕の演出、レッドカーペットの設置などの担当として出ています」
混成チームが心を1つにして主役となる演奏者を支援
森田3曹は陸自の第32普通科連隊に、西田士長は空自の航空中央業務隊に所属している。普段行っているものとはまるで勝手が違う任務を任された隊員たちは、戸惑いながらも与えられた任務をやり遂げるべく準備を行う。森田3曹はこう話す。
「この任務では、まずプログラムの進行を覚え、何をどのタイミングでどう行うのかが重要です。慣れない任務ではありますが、それぞれの音楽隊がスムーズに気持ちよく演奏できるよう、全体の流れを掌握し、万全の態勢で支援できるように準備しています」
西田士長も準備に余念がない。
「ステージ上でのサポートでは、動きのタイミングの良さと素早さが求められます。ほかの人の動きを把握して、16人全員がチームとして連動していくことも必要です。なので、練度を向上させるために、時間のないなか何度も練習しています。また、練習を撮影した動画を繰り返し見直し、音源を聴いて予習・復習もしています」
本番2日前の全体練習の際、マモルの取材に森田3曹と西田士長は、こう語っていた。
「今回、陸・海・空各自衛隊で初の混成チームとなった部隊ですが、皆で協力しあってしっかりと準備ができています」(森田3曹)。
「演奏者を支援したいという気持ちは皆同じ。与えられた役割を果たしたいと思います」(西田士長)。
公演当日、最終章では、ナレーションによって「音楽まつりにおいて、助け合いの調和を一番に置く部隊がいます。演技支援隊です!」とその任務を紹介される一幕があった。
森田3曹はフットライトを浴びるなか観客席に敬礼を行い、舞台は終演を迎えた。
(MAMOR2024年3月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
<文/魚本拓 写真/江西伸之、増元幸司>