国民の自衛隊に対する理解を深めてもらうことを目的に、1963年に初開催された「自衛隊音楽まつり」。主に音楽隊が脚光を浴びるイベントだが、舞台裏で運営を担うのも自衛隊員だ。イベントの企画や演出、写真や映像の撮影、舞台上での補佐役など、あらゆるサポートを隊員たちが実施している。
2020年と21年は新型コロナウイルスの影響で中止となり、22年は観客数が制限されたなかでの開催となった。
4年ぶりに制限なし、東京・九段にある日本武道館で11月16~18日の3日間・全7回(リハーサル公演含む)にわたる公演となった23年の音楽まつり。その舞台裏で全力を注ぐ隊員たち、本記事では通信運用班にスポットライトを当ててみた。
通信運用班:電話回線や無線など通信手段を構築
自衛隊の部隊運用にとって欠かせないのが通信インフラ。当然、それはイベントの運営にとっても必須となる。
音楽まつりの運営のために使用される会場内の通信インフラは、このイベントのためだけに構築される。その役割を担うのが、通信運用班だ。準備は約3カ月前に着手するという。
自衛隊の「指揮の命脈」である通信インフラを構築
「私は普段中央基地システム通信隊に所属しています。同隊は防衛省および自衛隊の基地システム通信ネットワークを24時間、維持・管理を行う基地システム通信部隊です。
私はそこで電話隊長として、全国の自衛隊や、野外の部隊展開先との間で利用可能な音声通信システムの維持・管理を担当しています」
そう語る佐藤大介2等陸尉は、音楽まつりでは通信運用班の班長として、会場で隊員たちが使用する電話回線や無線の通信システム構築の指揮をとる。
「私の班では本番の3カ月ほど前から準備に入り、イベント時に使用するNTT回線の契約や、電話機やトランシーバーなどのレンタルの調整、会場内の電話回線図や直通電話番号一覧表の作成、配布などを行っています。本番当日は電話がつながらないなどの際のトラブルへの対処がメインの仕事です」
防衛省内の内線電話ともつながる通信網も
会場内の指揮所を中心とした通信網の構築は、本番の2日前、リハーサル公演の前日の朝から開始。
真っ先に現地入りし、会場内の直通電話や無線通信のための回線を構築する。さらにNTT回線を経由した、防衛省内の内線電話ともつながる通信網を構築しているという。
「私たちの部隊は誰よりも早く現場に赴き、隊員たちが到着したらすぐに電話などを使用できるよう、通信インフラを確保しておかなければなりません。現場に最後まで残っているのも私たちです。皆が解散した後、配線ケーブルや隊員たちに貸し出した器材を回収する必要があるからです」
最後に、意気込みを語ってもらった。
「通信手段としての電話や無線はいつでも使えて当然なインフラであり、『指揮・統制の命脈』といわれています。音楽まつりを支える通信科隊員として一瞬たりとも通信が途切れないよう、任務を遂行します」
(MAMOR2024年3月号)
<文/魚本拓 写真/江西伸之>