AIがさまざまな仕事を補佐する現代、世間では人間力を生かした、AIにはできないサポートをする「執事」に人気があるのだとか。
自衛隊には、指揮官を補佐する「副官」という任務があるが、一般的にはあまり知られていないのではないだろうか?「副官」は「執事」や「秘書」とは違うのか? “指揮官をパワーアップさせる”といわれる「副官」の任務、その実態に迫る!
副司令官? 副隊長? いえ「副官」です
そもそも「副官」とは、軍隊において司令官などの指揮官を補佐する将校(自衛隊でいう幹部)のことを指す。主に事務的な仕事を担うとされ、字面の近い「副司令官」や「副隊長」とは全く別の役職だ。
自衛隊において副官は、将・将補の階級を持つ各幕僚監部の長や、各司令部の司令官・司令に付けられ、副官のさらに補佐を担う「副官付」と呼ばれる隊員と2、3人のチームを組んで指揮官の補佐を行う。
副官の具体的な業務は規定されておらず、部隊の本部、総務部署などに属する形をとっていることが多いが、直接の上司は指揮官本人のみであり、指揮官の指揮統制に従って動く。
自衛隊の副官は「特技」や「職種」とは違い、あくまで配置でしかなく、指揮官の所属する組織などによってさまざまな特技を持った人材が充てられている。その選抜方法は、人事部門が副官にふさわしい階級・経歴・能力の人材候補を選び、面接して絞り込んだ上で指揮官本人の決断によって決める。
一般的に、幹部自衛官の中でも優秀な人材を採用するといわれている。副官は陸・海・空全自衛隊の中でも該当するポジションが少ないため、多くの幹部自衛官は経験することなく過ごすが、中には複数回副官を務めた経験を持つ隊員もいるとか。
執事や秘書に近い仕事? 唯一無二の自衛隊の副官
副官は、自衛隊だけではなく旧軍や諸外国の軍隊にもある(あった)、軍事組織ならではのポジションだ。
各軍によってその性格は若干異なるが、自衛隊における副官の主な任務は、指揮官のスケジュールの管理や各種事務・庶務作業がメイン。そのほか、指揮官が外部の会議に出席したり、出張したりするときに随行するなど、指揮官に密着して動く「黒子」のような存在である。
一般企業における秘書に近い仕事も多いが、司令部の業務全体が円滑に動くように調整することから「司令部の潤滑油」と評される重要な任務である。
副官の証し。制服の肩から胸に輝く白い飾緒
副官は、いつも指揮官の近くに寄り添っている自衛官、というくらいにしか存在を見分ける方法はないが、儀式に臨むときなどには制服に白い「飾緒」を着用することからひと目で分かる。
飾緒とは、一般的には武官の正装において肩から胸につるすひも状の飾りのこと。もともとは、メモを頻繁にとる必要のある将校が筆記具をつるしていたひもが原型といわれ、武官の中でも参謀と呼ばれる地位にある者が着用する。
自衛隊の規則によれば、副官が飾緒を着用するのは、外国出張、外国の軍隊や大使などとの連絡業務に従事する場合、儀式など渉外業務を行うために必要な場合、と定義されている。
(MAMOR2024年2月号)
<文/臼井総理 撮影/星 亘 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです