•  2023年6月から防衛省の広報アドバイザーを務めるタレントの志田音々さんは、世界各地で起きている戦争や紛争のニュースを見て、日本の平和と安全に不安を覚えています。

     対する陸・海・空各自衛隊を一体的に運用する統合幕僚監部のトップとしてわが国の平和を守る吉田統合幕僚長。

     それぞれの立場から、私たちは日本の平和をどう守ればいいのか、語り合っていただきました。

    ロシアによる侵略はなぜ起こった?

    志田音々(以下、志田):生まれたときから平和な日本で生きてきたので、ウクライナの状況をニュースで見て、映画やアニメでしか知らないあのような悲惨な状況が、現実に起こるんだなと思って、とても不安な気持ちでいます。

     ロシアによる侵略はなぜ起こったのですか?

    吉田統幕長(以下、統幕長):ロシアは2014年にウクライナ領のクリミア半島を、国際的な承認を得ずに一方的に「併合」しました。これが成功したことによって、ロシアにはウクライナを過小評価するという「おごり」が生じました。

     一方ウクライナは、従来よりNATOへの加盟を目指しており、ウクライナを自身の影響下に置きたいと考えるロシアが、そうした動きに「焦り」を感じ、「特別軍事作戦」と称する全面的な侵略を開始したのです。

    志田:日本をはじめ多くの国がウクライナを支援しています。

    統幕長:国際法に反する侵略行為を失敗させるために、国際社会は協力しなければならないからです。

     これはロシアとウクライナだけの問題ではなく、イスラエルとパレスチナなど、今や紛争が世界中に広がっています。なかでも私が強い危機感を持っているのが、インド太平洋地域です。

     日本周辺地域でも国際秩序の根幹を揺るがしかねない深刻な事態が起きる可能性を排除できません。

    ウクライナ問題は“他人事”ではない

    画像: ウクライナ問題は“他人事”ではない

    志田:統幕長のお話をうかがってドキドキしています。福島の原子力発電所処理水の問題で、ロシアも中国による日本産海産物の輸入制限措置に参加するとニュースで聞いて、これも日本がウクライナを支援しているからなのかなと思って不安な気持ちになりました。

    統幕長:すごい洞察力だと感心しました。志田さんがおっしゃったように、ウクライナ問題は“他人事”ではないのです。

     力による一方的な現状変更を試みようとする国に隣接するとともに、そうした動きに直面するわが国は安全保障上の最前線に位置しているといえます。

    日本を守るためには……

    画像: 日本を守るためには……

    志田:そんな位置にある日本を守るにはどうすればいいのでしょう?

    統幕長:われわれがやるべきことは、まず防衛力の抜本的な強化です。ウクライナの教訓として、相手にその気を起こさせない、そして侵略に対しては自国で責任をもって阻止・排除できる防衛力が必要だということです。

     その対策にはすでに着手していますが、広く国民の理解、協力が必要だと認識しています。

    志田:私たちの世代では、自衛隊は災害が起きたときに救助、保護してくれる存在と思っている人が多いと思います。

     しかし、広報アドバイザーに就任してからは、自衛隊が他国からの侵略を防ぎ、日本の平和を守っていることを知ることができ、もっと多くの若い人にも知ってほしいと思うようになりました。

    統幕長:いちばん大切なことは、日本に対する侵略を決して起こさせないことです。

     強固な防衛力を持つ国を侵略しようと考える国はいないわけで、私はよく部下に、「われわれは真剣に刀を研いでいるが、それは刀を抜かないためだ、刀を抜いたときは半分われわれの任務は失敗している」と話しています。

     防衛省・自衛隊はかつてないほどの努力をしなければならないし、大きな責任を負ったと感じています。

    これからの国防を担うZ世代に向けて

    志田:これからの自衛隊を担う若い世代の隊員の人数が減っていると伺ったのですが、いかがでしょうか?

    統幕長:日本の少子高齢化が進む中で、自衛官の採用に関してもっと抜本的な改革を行わなければならないのですが、その1つとして女性自衛官の登用があります。

     現在、全自衛官に占める女性の割合は8.7パーセント(2023年3月末現在)で、これを30年度までには12パーセント以上にまで上げていきたいと考えています。

    志田:女性自衛官にお会いする機会があるのですが、皆さん姿勢からして違って、とてもかっこいいです。

    統幕長:陸・海・空だけでなく、宇宙、サイバー、電磁波などの新しい領域でも活躍できる人材も必要となります。そのためには、志田さんのような、いわゆるZ世代の方に、もっと自衛隊を知っていただいて国防に参加してほしいと思います。

     そこで、志田さんにうかがいたいのですが、Z世代の心に響く、“刺さる広報”とはどのようなものでしょうか。

    志田:そうですね、私たちはスマホで生きている世代ですが、ネットには自分の好みのものしか出てこないので、それ以外の情報や知識が入ってこないですね。

     ですから、自衛隊からのメッセージがZ世代に届いていない可能性があります。もっと国民に、平和を守るために何かできるかということを、具体的な言葉で伝えてほしいなと思います。

    統幕長:スマホ世代にどうやってリアリティーを実感してもらうかが課題ですね。

     ひょっとするとオンラインを通してよりも、人と人とのリアルなコミュニケーションが大切なのではないでしょうか。

    志田:コロナ禍で、学校や会社で友人、同僚に会えないつらさを経験して、Z世代も直接会って話す大切さに気が付いていると思います。日本の平和を守る活動の大切さが伝わるイベントなどがあればいいですね。

    統幕長:自衛隊を肌感覚で知ってもらえる機会をぜひ増やして、これからの日本を支えていくZ世代の皆さんに伝えていきたいと思います。

    志田:私たちも、自分たちができることをやっていきたいと思います。

    【志田音々】
    タレント、女優。1998年生まれ。雑誌の表紙モデルやお天気キャスターなどを経て、2019年にグラビアデビュー。ドラマ、映画、舞台、ウェブ番組などで幅広く活躍、写真集も数多く出している。2023年から防衛省広報アドバイザーに就任。

    【吉田圭秀陸将】
    統合幕僚長。東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。内閣官房国家安全保障局内閣審議官、第8師団長、北部方面総監、陸上総隊司令官、陸上幕僚長などを経て、2023年3月より現職。初の一般大卒の統幕長として話題となる。

    (MAMOR2024年1月号)

    <文/古里学 撮影/鈴木教雄 ヘアメイク(志田)/江口麻美>

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