2023年8月に刊行された『防衛白書』には、「わが国は、戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています」と書かれている。例えば北朝鮮は、2023年1〜8月だけでも17発のミサイルを発射し、それに対応して計3回、全国瞬時警報システム(Jアラート)が日本各地で発令され、直近では11月21日にも発令された。もしも首都・東京に敵のミサイルが飛来したら……。
日本の首都・東京およびその周辺地域には、約4400万以上の人々が生活している。加えて、政府など国の重要な機関や大企業が集中して所在する。日本の中枢を守るため、陸・海・空各自衛隊は空からの脅威にどう対抗するのだろうか。各自衛隊の首都防衛に対する備えを紹介しよう。
陸・海・空各自衛隊は空の脅威から首都をどう守るのか?
東京都と、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、山梨の7県で構成される首都圏には、日本の人口の約3分の1に当たる約4400万人以上が暮らしている。
太平洋戦争ではアメリカ軍の空爆重要ポイントにされ、1945年3月の東京大空襲では、1日で約8万4000人が亡くなっている。
戦後80年近くが経ち、当時受けた被害の記憶は薄れているが、いざ有事となった場合、同じような被害が繰り返される可能性は否定できない。
ロシアによるウクライナ侵略でもそれは見てとれる。ロシアの巡航ミサイル、ドローンなどがウクライナの首都・キーウをたびたび空爆。
建物は壊され人命も失われ、甚大な被害が出続けている。ロシアがウクライナに向けて放った弾道・巡航ミサイルの数は、侵略開始約1年半が経過した2023年8月時点で6500発以上に達し、同年6月末の国際連合の発表によると、一般市民の死者も9000人以上に達している。
ウクライナの惨状は決して対岸の火事ではなく、日本でも有事が起こる可能性はある。その際、このような被害が起きないよう、陸・海・空各自衛隊は、それぞれの装備を用いて首都圏や国民を守っている。
では、まず各自衛隊が空からの脅威に、どう対処するのかを説明しよう。
陸・海・空各自衛隊で役割分担し首都を守る
ウクライナ侵略では、航空機からの攻撃はもちろん、弾道ミサイル、巡航ミサイル、そしてドローン(無人航空機)、さらに最近では極超音速滑空兵器など、多様かつ高度な脅威が報道されている。
日本の首都が攻撃を受けた場合、空からの脅威を探知するのは、アメリカが打ち上げた早期警戒衛星などの人工衛星、航空自衛隊の警戒管制レーダーや早期警戒機、さらに海上自衛隊のイージス艦に搭載されたレーダーなどだ。
そこから発信された情報は空自が運用する自動警戒管制システムに集約される。ミサイル防衛の“頭脳”として、飛来するミサイルや航空機の情報を把握し、効果的かつ効率的に迎撃できるようにコントロールされるのだ。
では把握した情報を基にどう守るのか? まず広域の防空を空自が担う。
戦闘機や対空戦闘部隊として侵攻する航空機や、ミサイルに対処する高射部隊がPAC−3ミサイルで迎撃する。
さらに、海自のイージス艦に搭載されたミサイルなどで対処。高い誘導精度により敵ミサイルを探知・追尾し、迎撃する。
そして陸自の高射部隊も、敵戦闘機から発射されたミサイルなどを迎撃。車載式の装備のため機動性が高く、高速化が著しい敵戦闘機からの攻撃にも柔軟に対処できるのが特徴だ。
機動力を生かし射撃位置へ進入。射撃後の撤収も素早く行える。射撃後は再起動し次なる事態に対応。最善の防衛態勢を構築できる。
このように、陸・海・空各自衛隊が情報を共有しながらそれぞれ役割を分担し、多層的に首都圏の防衛を担っているのだ。
(MAMOR2023年12月号)
<文/臼井総理>