わが国の防衛態勢は、近年、中国の海洋進出や頻発する北朝鮮のミサイル発射実験などを念頭に、日本の南西地域で自衛隊を増強する方針、いわゆる南西シフトが進んでいる。それに伴い、ここ10年の間に、島しょ部に新たな駐屯地・基地が次々と新設された。
与那国島にやって来た“自衛隊さん”たちは、どのような設備で、いかなる任務についているのか、案内しよう。そして美しい島を守る隊員たちにも話を聞いてみた。
素晴らしい景観を誇る日本最西端の自衛隊施設
【与那国島の基本情報】
面積:約28平方キロメートル /人口:約1600人/主要産業:水産業、畜産業、農業、観光業
東京から直線距離で2000キロメートル離れた与那国島は、台湾からわずか110キロメートルの洋上に浮かぶ、わが国最西端の国境の島である。
南西防衛の空白地帯の解消が議論されたとき、2016年に真っ先に新設されたのが陸上自衛隊与那国沿岸監視隊である。
その監視隊が所在する与那国駐屯地は、太平洋と東シナ海が同時に見渡せる、島の西端のかつては牧場だった高台にある。駐屯地内の建物は、与那国島の景観に配慮して赤い瓦屋根と白い壁で統一。
隊舎からははるかかなたに水平線を望めて、まるでオーシャンビューのリゾートホテルにいるかのようと隊員に評判だ。
また、全国の自衛隊でも珍しい全天候型の9レーンのトラックを備えるグラウンドがあり、町内の陸上競技会などにも利用されている。
さらに、ゲンゴロウ類など、与那国島の貴重な動植物を保護するため、敷地内にはビオトープ(生息・生育空間)も設けられている。
駐屯地には陸自の沿岸監視隊と通信情報隊など約170人が駐在。22年からは航空自衛隊の第53警戒隊与那国分遣班の約20人も駐在している。
与那国島に所在する陸自と空自の主な部隊
南西の守りの「目」となるのが陸自と空自の警戒監視部隊だ
与那国沿岸監視隊は、陸上自衛隊の情報科部隊である沿岸監視隊の1つ。島内に2基のレーダーを有し、24時間態勢で周辺の船舶や航空機を監視している。その通信システムの維持・保守を第322基地通信中隊与那国派遣隊が担当。
また電子戦の通信電子情報活動を主任務としている健軍駐屯地(熊本県)の西部方面通信情報隊から、情報収集小隊が配置。さらに約40人規模の電子戦専門の部隊配備も計画されている。
航空自衛隊の宮古島分屯基地第53警戒隊隷下の与那国分遣班は移動式警戒管制レーダーを運用。領空侵犯機などを発見した場合は、那覇基地の第9航空団などに緊急発進を要請する。
与那国島に所在する隊員たち
「空自の移動式警戒管制レーダーは車載型のコンパクトレーダーであり、非常に高性能です」(空自第53警戒隊与那国分遣班/木村隼己3等空曹)
「親子で防衛技官!日本最西端の与那国駐屯地で母は臨床心理士、息子は木工係として頑張ってま~す」(陸自与那国駐屯地業務隊/新貝由紀子防衛技官・新貝葵防衛技官)
「予算管理、給与や旅費の支払い、物品の購入などを通じて各部隊を支援しています」(陸自第442会計隊/仲原宗希3等陸曹)
「与那国島といえばヨナグニウマ!ですが、私は休日に牛の世話を手伝っています。与那国の牛もかわいいですよ~」(陸自与那国駐屯地業務隊/河野高博1等陸曹)
主要部隊の任務に欠かせない、代表的な装備品と担当する隊員を紹介
軽装甲機動車
偵察部隊などに装備される陸上自衛隊の車両。固定の搭載火器はないが、乗員は車体上部にあるハッチから身を乗り出して射撃が行える。2002年度から部隊配備が開始された。略称は「LAV」(Light Armored Vehicle)。
<SPEC>全幅:2.04m 全長:4.4m 全高:1.85m 空車重量:約4.5t 最高速度:100km/h 乗員:4人
「軽装甲機動車を用い、補給業務に就いていますが、毎日楽しく勤務しています。与那国島サイコー!」(陸自与那国沿岸監視隊/見山翔3等陸曹)
隊員食堂で人気の料理を紹介
陸自与那国駐屯地の「カジキまぐろ漬丼」
年間に約1000本も水揚げされ、島ではいちばん身近な魚であるカジキマグロ。
「地元の漁師さんから仕入れた新鮮なカジキをたっぷり使った漬丼は、11~2月の限定メニュー」ということで、隊員の間でも超人気だ。
「鮮度抜群のカジキマグロレシピを考案」(陸自与那国駐屯地業務隊/八幡初寧防衛技官【管理栄養士】)
与那国島で働く隊員のおすすめスポットは?
与那国島で働き、生活をする自衛隊員たちが、生活者として島のお気に入りスポットを紹介してくれました。
丸く切り取られるビーチは絶景のフォトスポット
与那国島のダンヌ浜といえばこの1枚。実は公衆トイレの丸い出入り口からの眺めなのだとか。
「海と空の青のグラデーションが美しい」と隊員も太鼓判を押す絶景スポット。夕景の暗い海とあかね色の空もすてきなのだそう。
日本最西端の島から眺める天の川や流れ星に魅了
与那国島は集落にしか街灯がないので、集落から離れると満天の星が望める。
また緯度が低いため、本州では見ることのできない南十字星を成す星なども見ることができるのだとか。
豪快な釣りを楽しむ国際大会が開かれている
黒潮が流れ込む釣りスポット与那国島ならではのイベントが、地元が主催する「日本最西端与那国島国際カジキ釣り大会」だ。
磯釣りとトローリングの2部門で大物釣りを競い合う。陸自隊員も参加し、腕前を披露したそう。
(MAMOR2023年11月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>