軍事作戦の遂行上、重要な任務の1つが偵察だ。
敵の情報を集めて戦闘を優位に導く偵察は古今東西の戦争で行われ、今後、さらに進化していくと思われる。
そこでは、さまざまな道具や手段が利用されてきた。その一部を、兵器にくわしい作家・イラストレーターの坂本明氏に紹介していただく。
伝書バト・馬・犬
目で見た情報を迅速に伝えるため運用。
ハトの帰巣本能を利用し遠くへメッセージを届ける「伝書バト」は、古代エジプト時代から使われている。足の速い馬は伝令の移動手段として軍用に活用され、犬も第1次世界大戦で文書を持たせ伝令した記録もある。これらの動物は近代になっても軍用に使われ続け、それぞれが持つ優れた能力を生かし偵察などに用いられている。
気球・飛行船
空からの情報収集で偵察能力が飛躍的に向上。
1783年、フランスのモンゴルフィエ兄弟が熱気球を発明し有人飛行に成功すると、その11年後にフランス軍が偵察と砲撃の弾着観測のために使用している。
19世紀末には飛行船が登場。旅客輸送のほか軍用でも使われ、現代でも比較的ローコストで空に浮き続けられるメリットから観測・偵察用として無人の気球が使われている。
望遠鏡
遠眼鏡とも呼ばれ、情報収集に活躍。
望遠鏡は15世紀末に現在のイタリアで発明されたとされる。日本には江戸時代・17世紀初頭に持ち込まれ、鎖国以降は国内でも作られるようになった。天体観測のほか地上、海上を観察するためにも用いられ、偵察道具としても広く使われた。
航空機・ドローン
高スピードで高度な情報収集が可能に。小型機も登場。
第1次世界大戦で飛行機が登場すると、素早く目的地点の上空に移動し敵を偵察できることから軍隊で普及。また航空自衛隊でも運用中の「グローバルホーク」のような大型機から、手のひらに収まる超小型ドローンまで多様な無人航空機が使用され、現代ではロシアによるウクライナへの侵略でも活用されている。
のろし
煙による遠距離通信手段。ただし情報量は少ない。
煙が高く立ち上り、遠くからでも視認できることから通信手段として使われた。物を燃やして煙を挙げるが、燃やす物によって煙の色を変え、その組み合わせで情報を伝えることもできたが、伝えられる情報量は少なく、主に異変を伝える手段として用いられた。
有線・無線通信
偵察情報を“伝える”ツールとして発展。
19世紀半ばに有線通信である電信が発明され同世紀末に無線電信が誕生すると、戦争での情報伝達に革命をもたらす。1905年、日露戦争の日本海海戦で旧日本海軍が無線電信で得た情報を活用し、大勝利を収めた。以降、無線通信は軍事上最重要な情報伝達手段として広く活用されている。
偵察用の装備には見る道具と伝える道具が
偵察は古くは「物見」といわれ、その基本は人の目で見て情報収集し、それを指揮官などに伝達すること。そのため偵察用の道具、装備は「見る」と「伝える」の2つに分けられる。見るための道具は人間の目、その能力を増幅する望遠鏡。
見た情報を記録するカメラ類など。現代では人の目に代わりカメラを載せて飛ぶドローンや、宇宙からカメラやレーダーなどで敵国の地表を観察する軍事用偵察衛星などに進化。
古来の戦いは「高所の取り合い」が重要視されていた。高所から敵の様子を観察し、情報を得ることで戦いを優位に進められたからだ。
だが近代に入ると見えない敵を大砲で攻撃するための観測が重視され、アメリカの南北戦争ごろに登場した気球や飛行船、さらに第1次世界大戦で登場した航空機は「人工的な高地」を創り出し、偵察の概念を変えた。
通信手段の発達も偵察の進化につながる
情報を収集しても、それを伝える手段がなくては意味がない。そこで通信手段も重要となる。人がリレーのように走って情報を伝える「伝令」や、伝書バト、馬などの動物を使って少しでも早く情報を届けることが求められていた。
遠方に素早く伝える方法としては、のろしや手旗信号があったが、19世紀半ばに有線通信である「電信」が発明され、さらに19世紀末にイタリアのマルコーニによって無線電信が発明されてからは、電波が届く範囲なら瞬時に情報を伝えられるようになった。
現代では宇宙に通信衛星などが打ち上げられ、広範囲の情報収集や伝達が可能に。詳細は秘密にされているが、アメリカの運用する軍事衛星KH−12は、地上の約10センチメートルの目標物を識別できるといわれている。高度な偵察装備や通信手段の重要性は増すばかりだ。
【坂本 明氏】
メカニックとテクノロジーにくわしい作家・イラストレーター。著作に『イラストでわかる! 兵器メカニズム図鑑』(ワン・パブリッシング刊)など
(MAMOR2023年10月号)
<文/臼井総理>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです