スポーツで強くなるためには、練習も大切だが「試合」が欠かせない。「試合」は「練習」に目標を与え、選手のモチベーションを上げ、さらに競うことでしか身に付かないものがあるからだ。
自衛隊についても同様のことが言えるだろう。日々の訓練でどれほど強くなったのか?
陸・海・空各自衛隊には、それを試すさまざまな競技会がある。競技会の種類は、艦艇や航空機、対空ミサイルや戦車を使うものから、隊員食堂で提供する料理の調理技術にまで及ぶとは驚きだ。
マモルでは、陸上自衛隊大宮駐屯地(埼玉県)で行われた、埼玉県内の防衛を担当、首都圏防衛の一翼を担う部隊である第32普通科連隊の各種競技会を取材。この記事では3つの競技会をレポートする。
らっぱで指定曲を吹き、自衛官の気概を競う団体・個人戦
号令、命令、警報などを伝え、部隊の士気を高揚し隊容を整える自衛隊のらっぱ演奏。駐屯地・基地では学校のチャイムのように、時間の節目をらっぱで知らせている。その吹奏技能を競い、最も優れた奏者を決めるのが個人戦・団体戦のある「らっぱ競技会」だ。
らっぱ競技会のルール
らっぱの吹奏技能と、動作の練度を競う。個人戦は各中隊から選出された合計21人で争われる。トーナメント方式で行われ、上位6人が決勝進出。吹奏する曲目は、予選1回戦が『君が代』、予選2回戦と決勝戦では、平素吹奏する「日課号音」からランダムに選ばれ決定する。
団体戦は指揮者1人と吹奏者8人の9人で1チームを編成。行進曲を吹きながら隊列を組んで入場した後、審査員席の前で『祖国』(注)を吹奏、再び行進曲を吹きながら退場。
(注)自衛隊で吹かれているらっぱ演奏曲の1つ。国家的行事などで吹かれる
自衛隊の「らっば競技会」をリポート!
らっぱ競技会場の審判席には、3人の審査員が待ち受ける。競技会特有のピリピリした緊張感に加え、応援に来ている隊員も多数。現場では、静かながらかなりの熱気を感じた。競技は、離れた位置から徒歩行進をスタートし、審判席前での演奏後に退場するという流れだ。歩調や腕の振りをそろえる行進の動作はさすがにキビキビとしたもの。
しかし、演奏の際には緊張のせいなのか、音を外してしまったり、かすれた音を出してしまったりする隊員も。演奏後に失敗を悔いる若手隊員を慰めるベテラン隊員の姿や、良い演奏ができた選手同士が健闘をたたえ合うなど、らっぱを通じてお互いを高め合おうという隊員たちの心意気を感じることができた。
優勝者に聞いた、勝利の秘訣とは?
個人戦で優勝した第4中隊の椚太一3曹は「私が連隊で一番練習しているという自負を持っていましたので、それが勝因ですね。吹奏する曲の中でも『君が代』は国歌ですので、特に力をいれて練習していました」と話す。
強くなるための競技会はまだある!
バトラー射撃競技会・車両競技会・らっぱ競技会などの競技会以外にも、第32普通科連隊では数々の競技会を行っている。どのような競技会があるのか紹介しよう。
腹が減っては戦はできぬ! 限られた時間の中で炊事技能を競うチーム戦
食事は、人間にとって必要不可欠な要素。自衛隊でも隊員の健康維持はもちろん、士気高揚の観点からも重視されている。自衛隊では、戦地で隊員が食事する場合や災害派遣の現場で被災者に食事を提供する場合など、屋外で調理を行うことが想定されているため、炊事も戦いの一部として日ごろから訓練が行われているのだ。
炊事競技会は、隊員の炊事能力を競うもので、多くの部隊で実施されているほか、広域の部隊が集まって競うことも。中には、戦闘状況下での炊事がテーマになることもあり、周囲の警戒にあたりながら調理する場合もある。
炊飯や主菜の調理を行いながら、衛生管理や排水、ごみの処理などにも気を配りながら、とにかく手際よく進めていかなければならない。また、限られた食材でメニューを考える場合もあるため、創意工夫も試される。設定された時間内に大勢が食べる食事をスピーディーに調理していくさまは、なかなかの迫力だ。
炊事競技会のルール
屋外用の調理設備を使い、3時間以内に60人分の食事を調理する。調理中は手際の良さや衛生管理、完成後は盛り付けや味などの項目について審査が行われ、合計点数で順位が決まる。決められたメニューを調理するケースと(主菜と副菜、汁物など)、材料などがあらかじめ決められ、工夫して調理しなければならないケースがある。
ただの長距離走にあらず。実際の有事を想定し、小銃を担ぎ武装して走る!
戦闘や長期にわたる作戦行動など多くの任務で体力が求められる陸上自衛隊では、持久走が普段から体力錬成の一環として行われ、体力検定も定期的に実施される。武装走競技会は通常のランニングとは異なり、実際の戦闘や行軍を想定して行われる競技会だ。ブーツを履き、ヘルメットをかぶり、小銃やガスマスクなどの任務に必要なものを装備した状態で走るのだ。当然、かなりキツい。
武装走競技会は陸自の多くの部隊で行われている競技会の1つであり、その目的は、「隊員1人ひとりの任務完遂への意欲を高め、健全な競争心を育むとともに、戦闘競技の練度を向上させ、各中隊の団結を強化し、士気を高揚させる」ことだ。この競技を通して、隊員は自分の体力と精神力を鍛え、任務完遂への意欲を高めることができる。
また、個人戦だけでなく中隊ごとに団結して競い合うことで、チームワークを高め、士気を高揚させることにもつながるのである。
武装走競技会のルール
小銃や弾のう(銃弾入れ)など、計10キログラム程度の装備を着用した状態で2~5キロメートルの走破時間を競う。駐屯地内を走ることもあるが、演習場の山あり谷ありのコースを走るクロスカントリー形式のほか、途中で手りゅう弾の投てきや、コースに障害物を設置する場合も。個人タイムのほか、チームごとの平均タイムで争う。
競技会を通じて培われる、隊員の能力とは?
部隊間での勝敗がかかっているからこそ、さらに隊員らの真剣味が増す
【第32普通科連隊 運用訓練幹部 小野賢治1等陸尉】
運用訓練幹部として、各競技会の担当決めから場所、人員、資材などの調整、計画作成、そして予行と本番の実施まで担当しました。各担当者が綿密な準備をしてくれたこともあり、1件の事故もなく実施できたことが一番の誇りです。
競技会の意義については、日々の訓練も真剣に行いますが、隊員も人間ですので「競う」要素があることで、さらに気持ちに火が付きます。結果として、さらに練度の向上を見込むことができるのです。
若手を中心に参加させる競技会で、基本的な戦技能力の向上を図る
【第32普通科連隊 連隊本部 前田尚輝1等陸尉】
参加した隊員らは、射撃精度と分隊単位での連携、吹奏能力、自衛隊車両の運転能力など、練習期間を通じて各競技会で求められる能力を磨きました。
また、若手隊員が中心に参加することで、陸上自衛官としての基本・基礎の実行を徹底することも意図しています。隊員同士は支えあう仲間ですから、日常の訓練で真剣勝負を行うのはなかなか難しい。ですが「勝つため全力を注ぐ」競技会があることで心の成長にもつながると考えています。
<文/臼井総理 写真/荒井健 写真提供/防衛省>
(MAMOR2023年9月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです