• 画像: 2022年に建てられたばかりの航空自衛隊航空中央音楽隊の新庁舎、大ホールで演奏会に向けて練習する音楽隊員たち

    2022年に建てられたばかりの航空自衛隊航空中央音楽隊の新庁舎、大ホールで演奏会に向けて練習する音楽隊員たち

     陸・海・空各自衛隊には、オリンピックなどの国家的な儀式や式典での演奏、訓練時や実任務中に隊員の士気を高揚させるための演奏をしたり、一般国民向けのコンサートや、各種イベントでの演奏などで自衛隊を広報する活動、そして国際親善などを目的とした演奏を行う「音楽隊」が、全国に合計32部隊ある。 

     音楽の力を信じて国を守る自衛隊の音楽隊はどんな人がどのように入るのか?音楽隊員とはいえ国防の任に就く自衛官。ほかの隊員と同じく試験を受け、入隊後は新隊員教育を受ける。音楽隊に配置後も日々の体力錬成はもちろん、自衛官として射撃訓練から戦闘訓練まで行っている。

     好きな音楽を仕事にできる自衛隊音楽隊という「職業」。近年、音楽を学ぶ学生たちの間で、音楽隊は人気で、入隊するにはかなり狭き門を突破しないといけないとか。

     そこで、元・陸上自衛隊中央音楽隊隊長で、音楽大学の講師も務める武田晃氏に、音楽隊のリクルーティング事情を話していただいた。そして、入隊方法も調べてみた。

    【武田晃氏】
    山形県新庄市生まれ。武蔵野音楽大学講師。同大学器楽学科(トランペット専攻)卒業後、各地の音楽隊長を歴任後、第13代陸上自衛隊中央音楽隊隊長。2017年退職

    音楽家の進路として人気。音大から音楽隊への道

    「近年、音楽隊の新入隊員はほとんどが音大卒です」と語る武田氏。音楽を学ぶ学生たちにとって自衛隊の音楽隊は、入学当初から将来の夢や目標とする進路になっていると言っても過言ではないのだとか。

    「音大を卒業しても、なかなかプロの演奏家になるのは難しい。例えばオーケストラやオペラの楽団などが進路として考えられますが、これらの募集枠はものすごく少ないのです。フリーランスの演奏家になる道もありますが、演奏だけで食べていくのは大変です」と武田氏。

     音大卒業後の進路は、教職、音楽教室などの教育関連や、一般企業・団体への就職などさまざまで、大学院進学や留学でさらに研鑽を積む者も多いが、演奏家として楽団などに入り、プロの演奏家として活動できるのは極めて少ないという厳しい業界だ。

    「自衛隊や警察・消防の音楽隊は、公務員としての安定した立場が得られることに加え、演奏をメインとした仕事に就けることもあり、進路として人気です」

    演奏以外の仕事を経験することで、一社会人としてプラスになる

     武田氏によると、特に2011年の東日本大震災以降、音楽で人の役に立ちたいと考えて自衛隊音楽隊を志望する学生が増えたという。音楽を仕事にでき、なおかつ人の役に立てる仕事としての人気が、自衛隊音楽隊を狭き門にした理由の1つだ。

     さらに自衛隊音楽隊が狭き門といわれる理由として、全ての楽器奏者の募集が毎年あるわけではないことが挙げられる。基本的に、退職などのため空きができたパートを補充する形でしか募集をしないからだ。

    「中でも応募が多いのが、サクソフォンですね。楽器として人気があるにもかかわらず、昔ならビッグバンドと呼ばれるジャズバンドがありましたが、今の日本では2、3のプロ吹奏楽団と自衛隊くらいしか演奏家の枠がないのです」

     最後に武田氏から、自衛隊の音楽隊に入るメリットについて語ってもらった。

    「自衛隊の音楽隊では、演奏以外にもさまざまな業務があります。後になって振り返ってみると、『演奏以外の仕事を経験したからこそ今の自分がある』と思えるはずです。演奏だけをやっているよりも、一社会人としてプラスになるでしょう」

     さらに武田氏は自衛隊の音楽隊に入ることで得られる真の魅力についても語る。

    「自衛官になるとさまざまな職種の仲間と一緒に教育を受け、仕事をする機会が生まれます。音楽を含む全ての職種がそれぞれの役割を発揮してつながっているのです。音楽だけの世界からは得られない経験と学びがあります。これが自衛官を職業とすることの大きな魅力ではないでしょうか。そして自衛隊音楽隊の聴衆層は全ての国民といえるほど広い。誰にでも楽しんでもらえ、よろこばれる。まさに自衛隊音楽隊は音楽で人の役に立てるのです」

    フローチャートで見る入隊までの道

    画像: 新隊員教育で笑顔を見せる音楽隊員たち

    新隊員教育で笑顔を見せる音楽隊員たち

     音楽隊に入りたいと思った方のために、夢を達成するまでの、大まかな流れを紹介しよう。

     演奏者と指揮者では道が違うので分けた。また、陸・海・空各自衛隊で違いもあるので、注意してほしい。指揮者の入隊までのフローは後ほど説明し、まずは演奏者になるための入隊方法を紹介する。

    演奏者になりたい人は…

    STEP1:まずは自衛隊地方協力本部へ問い合わせることから始める

     音楽隊への入隊を志したら、まずは最寄りの自衛隊地方協力本部(注)へ問い合わせること。音楽隊を目指すのは自衛隊の中でも特別なルートのため、入隊試験を受ける前に「音楽隊志望であること」を伝えておく必要がある。

    (注)最寄りの自衛隊地方協力本部はこちらのホームページから調べられます https://www.mod.go.jp/gsdf/jieikanbosyu/

    STEP2:自衛官採用試験を受験し自衛官になる

    演奏者として音楽隊員になるには、自衛隊の採用試験に合格し、なおかつ音楽隊の職種説明会に参加した上で音楽適性をチェックされ、音楽隊員としての素養があると認められることが必要。

    一般曹候補生」または「自衛官候補生」の試験を受験する。毎年すべての楽器で募集があるわけではないため、事前に自分が担当したいパートで人員募集があるかを募集要項などで確認しておくこと。

    STEP3:「音楽職種説明会」への参加が必須となる(9月~10月ごろ)

     自衛官採用試験の合否発表の前に、陸・海・空それぞれに「音楽職種説明会」が行われる。ここに参加しないと、自衛官に採用されたとしても音楽隊員になることはできないので要注意だ。

     職種説明会では、各自衛隊音楽隊の概要が説明されるほか、実技のチェックも行われる。具体的には聴音と、課題曲演奏、初見楽譜の演奏(海自のみ)が行われる。

    STEP4:新隊員教育で自衛官としての基礎を身に付ける(4月から約4カ月)

     入隊後、最初の約3~4カ月間では、自衛官としての基礎教育を行う。敬礼などの所作、団体生活、射撃、体育、そのほか座学など、音楽隊員の前に「自衛官」になるべく教育に臨む。

     陸自の場合は、このあと約3カ月間、中央音楽隊での「後期教育」があり、演奏技術やマーチングなど、音楽隊員としての基礎的な技能を身に付ける。それぞれの教育がおわると、各音楽隊に配属される。

     海自・空自には陸自の後期教育にあたるものはなく、音楽隊に配属後に教育が行われる。

    指揮者になりたい人は…

    画像: 地方協力本部にはマスコットキャラクターなどもいて親しみやすい雰囲気だ

    地方協力本部にはマスコットキャラクターなどもいて親しみやすい雰囲気だ

     続いては、自衛隊の音楽隊の指揮者になるまでのフローを紹介しよう。

    STEP1:まずは自衛隊地方協力本部へ問い合わせることから始める

    STEP2:幹部候補生学校を受験し幹部自衛官を目指す

     音楽隊の指揮者は、幹部自衛官しかなれないので、「一般幹部候補生」試験を受験しなくてはならない。陸・海・空全てこれが音楽隊指揮者へのスタートとなる。音楽隊員志望の場合、特定の試験日程でしか受験できない場合があるので要注意だ。

    STEP3:ハイレベルな筆記試験、1次試験に挑む

     1次試験は、大卒程度の学力が求められる筆記試験があり、一般教養科目、音楽科目の各科目を受験する。ほかの公務員試験と比べてもレベルは高いとされ、最終的な倍率は毎年10倍以上である。

    STEP4:2次試験を受けて音楽の素養もチェックされる

     1次試験を合格後に、2次試験へと進み、小論文、口述試験、身体検査のほか、音楽適性検査を受ける。

     内容は、音感をみる聴音検査、その場で渡された楽譜を読んで歌う視唱検査、実際に楽器の演奏を行う楽器検査、そして吹奏楽の指揮を行う指揮検査の4項目がある。

    STEP5:幹部候補生学校に入校し自衛官の基礎を学ぶ

     毎年4月の入学から翌年1月の卒業まで約10カ月間、陸自は福岡県久留米市、海自は広島県江田島市、空自は奈良県奈良市にある幹部候補生学校で、幹部自衛官としての基礎的な知識や技能をみっちりと学ぶ。

     防衛基礎学、戦術、戦史、戦技訓練、体育、服務、防衛教養、実技などの課目があり、座学はもちろん、実践的な訓練も行われる。

    STEP6:いよいよ音楽隊に幹部として配属される

     音楽隊に初級幹部である「3等陸尉・海尉・空尉」として配属される。配属される部隊は、陸自は中央音楽隊、海自は東京音楽隊、空自の場合は航空中央音楽隊、または各方面音楽隊となる。

     配属後には1年間、音楽大学に派遣されて指揮や編曲などについての専門的な教育を受けることができる。派遣先は、武蔵野音楽大学または東京藝術大学だ。

    <文/臼井総理 写真提供/防衛省>

    (MAMOR2023年8月号)

    これが自衛隊音楽隊の力だ!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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