陸・海・空各自衛隊には、オリンピックなどの国家的な儀式や式典での演奏、訓練時や実任務中に隊員の士気を高揚させるための演奏をしたり、一般国民向けのコンサートや、各種イベントでの演奏などで自衛隊を広報する活動、そして国際親善などを目的とした演奏を行う「音楽隊」が、全国に合計32部隊ある。
音楽の力を信じて国を守る自衛隊の音楽隊はどんな人が入るのか? 音楽隊員とはいえ国防の任に就く自衛官。ほかの隊員と同じく試験を受け、入隊後は新隊員教育を受ける。音楽隊に配置後も日々の体力錬成はもちろん、自衛官として射撃訓練から戦闘訓練まで行っている。
最近は、音楽大学卒業生の入隊者が増えたという音楽隊だが、学生の就職先として考えた場合、「自衛隊」は簡単に入れる職場ではない。それぞれの夢や志を持って自衛隊の音楽隊員となった新隊員たち。
この記事では、7人の新・音楽隊員の素顔と、なぜ音楽隊員になったのか聞いてみた。
【海上自衛隊東京音楽隊】橋本晃作2等海曹「培ってきた音楽を通じて社会に貢献していきたい」
【質問項目】
(1)年齢・入隊歴 (2)出身 (3)音楽歴 (4)担当楽器 (5)なぜ自衛隊に入ったの? (6)初めての舞台の感想は? (7)意気込みを教えて!
(1)年齢・入隊歴:37歳。入隊歴1年3カ月
(2)出身:神奈川県
(3)音楽歴:武蔵野音楽大学卒、同大学院修了。中学校の吹奏楽部でクラリネットを始め、大学では声楽に取り組み、大学院修了後は声楽家として活動。
(4)担当楽器:テノール歌手
(5)なぜ自衛隊に入ったの?:声楽家として活動しながら、母校の音大に研修員として所属していたとき、お世話になっていた先生から海上自衛隊の技術海曹で男声ボーカル募集の話があると教えていただいたことが全ての始まりでした。そこから音楽隊の活動を知り、それをきっかけとして自衛隊そのものを詳しく知る中で歌手として自分自身が培ってきた「音楽」を通した社会や平和への貢献をしたいと強く思い、志願しました。自分の中で、音楽をする目的が明確になったような思いでした。
(6)初めの舞台の感想は?:入隊2カ月後に東京オペラシティで行われた海上自衛隊東京音楽隊の「第63回定例演奏会」です。その後、「自衛隊音楽まつり」でも歌わせていただきましたが、日本武道館に歌手として立っていることが、クラシックのテノール歌手として生きてきた自分には全く想像できなかったことだったので、夢かまことか、とても不思議な気分でした。
(7)意気込みを教えて!:いつか遠洋練習航海に乗艦し、世界各地で国際親善の任務に携わってみたいです。また、海自音楽隊員として伝統を大切にしていきたいです。
【陸上自衛隊中央音楽隊】牧優吾陸士長「人に勇気や感動を与える自衛隊音楽隊は自分に合う場所」
(1)年齢・入隊歴:25歳。入隊歴2年
(2)出身:山梨県
(3)音楽歴:東京音楽大学卒。中学校でテューバを始めた。
(4)担当楽器:テューバという楽器は、金管楽器の中でも一番大きく、一番低い音の出る楽器です。演奏する際は伴奏を担当することが多く、あまり目立たないながらも中央音楽隊のサウンドの土台を作っている大事な楽器だと思っています。
(5)なぜ自衛隊に入ったの?:自分の強みである「音楽」で何か人の役に立ちたいと考えていました。人に勇気や感動を与えるとともに、国のために働ける自衛隊音楽隊は自分にぴったりだと考え、志望しました。
(6)初めの舞台の感想は?:中央音楽隊に配属されて2週間後に東京都江戸川区で行われた「秋のスペシャルコンサート」です。1500席ある客席がいっぱいになるほどのお客さまに足を運んでいただき、うれしい気持ちと同時に身の引き締まる思いでした。あのときもらった拍手は、今でも私の原動力です。
(7)意気込みを教えて!:人のため、国のために、自分の武器である楽器を使って多くの人に感動と勇気を届け、人から愛される音楽隊員を目指して日々精進します。
【海上自衛隊呉音楽隊】江口倭世海士長「音楽隊員として歩むために気を引き締めていきたい」
(1)年齢・入隊歴:24歳。入隊歴3年
(2)出身:京都府
(3)音楽歴:京都市立芸術大学卒。中学の吹奏楽部でフレンチホルンを始めた。
(4)担当楽器:フレンチホルンは、世界一難しい金管楽器として、ギネスブックに載っています。音域が広く、金管楽器らしい華やかな音色から、木管楽器のような柔らかい音色まで出すことができるのが特徴です。
(5)なぜ自衛隊に入ったの?:高校生のときに海上自衛隊東京音楽隊の京都特別公演を聴いて、海上自衛隊の音楽隊に入りたい!と思いました。
(6)初めの舞台の感想は?:広島県の江田島で行われた観閲式での演奏が、音楽隊員として初の演奏業務でした。自衛隊らしい張りつめた緊張感と、10月とは思えない暑さの中で直立の姿勢で演奏する式典でしたが、「自衛隊っぽい!」と考えながら耐え抜きました。式の直後に行われる行進で一歩目を踏み出したときは「音楽隊員としてこれから歩み始めるのだ!」と、身が引き締まる思いがしました。
(7)意気込みを教えて!:国民を元気づけて笑顔にするためには、まず自分自身が前向きで明るい音楽隊員を目指します。
【陸上自衛隊中央音楽隊】小野村楓陸士長「演奏で人を元気にすることは自身にとっても幸せ」
(1)年齢・入隊歴:23歳。入隊歴1年
(2)出身:広島県
(3)音楽歴:広島文化学園大学卒。中学1年生よりトランペットを始めた。
(4)担当楽器:トランペット。豊かで輝かしい音色が魅力です。バンド全体をリードするパートを担当することが多く、とても目立つ楽器です。
(5)なぜ自衛隊に入ったの?:大学3年生のときに先生から音楽隊を勧められ、自分の演奏が、社会貢献や人を元気にすることにつながるのはとても幸せだなと思い、志望しました。大学の先輩も数人入隊していたので、心配はなかったです。
(6)初めの舞台の感想は?:私が初めて参加した演奏会は、東京都江戸川区での「秋のスペシャルコンサート」です。着隊3日後で緊張していたので、当時のことはあまり覚えていませんが、初めてヘラルドトランペット(注1)というベルが長く突き出たトランペットを吹いたことが印象に残っています。
(7)意気込みを教えて!:聴く人の心を動かす演奏のできる音楽隊員になりたいです。そのために、日々の楽器の練習はもちろん、いつも応援してくださっている方々への感謝の気持ちを忘れないようにしています。
(注1)ヘラルドトランペット……イベントのファンファーレなどに使われるトランペット。
長い管に垂れ幕をぶら下げられるようになっている。ヴェルディの歌劇『アイーダ』で使われたことから「アイーダトランペット」とも
【海上自衛隊佐世保音楽隊】青山紫瑞己海士長:自衛隊には音楽隊が必要と私たちの音で知ってほしい
(1)出身:広島県年齢・入隊歴:24歳。入隊歴3年
(2)出身:徳島県
(3)音楽歴:昭和音楽大学中退。高校の吹奏楽部でサクソフォンを始めた。
(4)担当楽器:サクソフォンには大きく分けてジャズの音色とクラシックの音色があります。カフェで耳にする音、『名探偵コナン』のオープニングテーマなどはジャズの音色です。一方のクラシカルな響きもとても魅力的です。また、主に4種類の異なる大きさのサクソフォンがあり、低い音から高い音まで出すことができるのも特徴です。
(5)なぜ自衛隊に入ったの?:高校生のときから自衛隊の音楽隊に憧れていました!
(6)初めの舞台の感想は?:鹿児島県で行った広報活動のコンサートが初めての演奏活動でした。コロナ禍での演奏で、客席は1席ずつ空け、声出しなしの演奏会でしたが、たくさんの拍手とマスク越しでも分かる笑顔に胸が熱くなりました。自衛隊をあまり知らない方に、私たちの音楽で知るきっかけになるのを感じ、自衛隊には音楽が必要だと実感しました。
(7)意気込みを教えて!:人々の心が豊かになる演奏を目指し、世界に誇れる音楽隊になれるよう精進します。
【航空自衛隊航空中央音楽隊】小和田芽愛空士長「尊敬する音楽隊員がたくさんいるので吸収していきたい」
(1)年齢・入隊歴:23歳。入隊歴3年
(2)出身:福岡県
(3)音楽歴:3歳からピアノとエレクトーン。中学校では吹奏楽、高校ではマーチングを経験。高校卒業後フリーランスとして活動。
(4)担当楽器:バスクラリネットは吹奏楽の中ではテューバなどと一緒に低音域を主に担当します。とても深みのある温かい音色が魅力だと思います。
(5)なぜ自衛隊に入ったの?:フリーランス時代の恩師から「自衛隊の音楽隊を受けてみないか」と勧められました。改めて自衛隊について調べてみると、今まで私が平和に過ごせていたのは自衛隊が国を守っていてくれたからと知り、微力ながらそこに携わりたいと思いました。
(6)初めの舞台の感想は?:配属約3カ月後に行われた、オオサカ・シオン・ウインドオーケストラさん(注2)の定期演奏会です。プロの方との共演とありとても緊張しました。「空自音楽隊の看板を背負っている」という今までに感じたことのない重みを感じながら演奏しました。
(7)意気込みを教えて!:尊敬する上司がたくさんいるため、周りを見て聴いて吸収して、自衛官としても音楽家としても自信をもてる音楽隊員になりたいです。
(注2)オオサカ・シオン・ウインドオーケストラ……市民の声で誕生した、日本で最も長い歴史を持つプロの交響吹奏楽団
【航空自衛隊航空中央音楽隊】内田爽太空士長「自衛隊音楽隊の圧倒的なサウンドに憧れて志望」
(1)年齢・入隊歴:23歳。入隊歴1年
(2)出身:岡山県
(3)音楽歴:武蔵野音楽大学卒。4歳からピアノ。中学の吹奏楽部ではクラリネット、高校の吹奏楽部からファゴット。
(4)担当楽器:ファゴットはダブルリード属(注3)で全長130センチメートルにもなる、低音域担当の大型木管楽器です。特色は「音色」と「音域」。艶やかで陽気で独特な音色と、3オクターブ半に及ぶ音域による多彩な表現力が魅力です。
(5)なぜ自衛隊に入ったの?:吹奏楽の授業で、元陸自中央音楽隊隊長の武田晃先生にご指導をいただいたご縁もあり、音楽隊には在学中から興味がありました。大学4年生のころ部隊見学に行った航空中央音楽隊の圧倒的なサウンドに憧れて志望しました。
(6)初めの舞台の感想は?:1週間ほどかけて北海道北部を巡る演奏会が初めての舞台でした。演奏服に袖を通したときの、音楽隊に入隊した実感と緊張したことを今でも覚えています。
(7)意気込みを教えて!:国民の皆さまに自衛隊のことや航空中央音楽隊のことをよく知ってもらい、自衛隊のイメージを連想できる活力あふれる音楽隊員になりたいです。
(注3)ダブルリード……乾燥させたアシを削ったものを2枚重ね合わせて作られたものを、楽器の吹き口に装着して吹いて振動させて音を出す形式。ファゴットのほか、オーボエなどに用いられる
音楽隊を志している音大生に聞いた!なぜ自衛隊を?
音楽に関われる就職先が少ないといわれているなか、さまざまな進路の中から自衛隊音楽隊を志す学生たちに志望動機を聞いてみた。
音楽で人々の力になりたい!
「音楽に携わりながら、社会貢献もできる音楽隊の魅力は、奏でる音楽が誰かの力になっていることを強く感じられるところです。私は特に、航空自衛隊の音楽隊を希望しています。演奏会や説明会に何度か行った中で、雰囲気が自分に合っていると思ったからです。
近い将来、音楽隊員として誰かの力になるような演奏をできるように、自分自身の音楽技術をさらに磨いていきたいと考えています」(21歳・女性・4年生/クラリネット専攻)
「誰かのために」演奏する喜びがある
「東日本大震災の際に活躍する自衛官の姿を見たことがきっかけで、自衛隊音楽隊の存在を知りました。その後、私自身もボランティアで演奏活動をすることで『誰かのために演奏する』喜びを知ったため、音楽を通して社会貢献できたらと考えています。
自分たちが奏でる音楽が、直接『誰かのため』になるような仕事は、自衛隊音楽隊だけがもつ魅力だと感じています」(21歳・女性・4年生/フルート専攻)
たくさんの方に演奏を聴いてもらえる
「自衛隊音楽隊の魅力は、さまざまな年齢層のお客さまに演奏を聴いていただける機会が多いというところです。動画配信サイトなどで音楽隊の演奏をいつも拝見していますが、演奏場所はコンサートホールに限らず、基地の滑走路や駐屯地のイベントなど、さまざまな場所で行われています。
そのことにより、より多くの方に演奏を聴いていただける機会があると思います。音楽を通して多くの方とコミュニケーションがとれるのが大きな魅力の1つかと思います」(21歳・男性・4年生/バス・トロンボーン専攻)
<文/臼井総理 写真提供/防衛省>
(MAMOR2023年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです