• 画像: P-3Cの後継機として開発され、2013年に運用が開始された国産の固定翼哨戒機「P-1」。ターボファンエンジンを搭載し、巡航速度や航続距離などの飛行性能はP-3Cから向上している <SPEC>全幅:35.4m 全長:38.0m 全高:12.1m 全備重量:約80t

    P-3Cの後継機として開発され、2013年に運用が開始された国産の固定翼哨戒機「P-1」。ターボファンエンジンを搭載し、巡航速度や航続距離などの飛行性能はP-3Cから向上している
    <SPEC>全幅:35.4m 全長:38.0m 全高:12.1m 全備重量:約80t

     2023年4月、対潜部隊を持つ世界の主要5カ国で競った対潜戦訓練で、見事日本が優勝したというニュースが入ってきた。

     なぜ、海自の対潜能力は高いのだろう。その秘密について、元海将・自衛艦隊司令官の倉本憲一氏に話を聞いた。

    海上の輸送路が生命線の国だから、対潜能力が向上した

    画像: 海自が運用する潜水艦『たいげい』。海自の潜水艦は、艦体外壁に音波吸収材を使用し、艦内部の音が艦外に響きにくい構造にするなど、従来の潜水艦よりも静粛性の向上が図られている

    海自が運用する潜水艦『たいげい』。海自の潜水艦は、艦体外壁に音波吸収材を使用し、艦内部の音が艦外に響きにくい構造にするなど、従来の潜水艦よりも静粛性の向上が図られている

     倉本氏は、日本における対潜戦の重要性について次のように説明する。

    「潜水艦が敵を攻撃する際、反撃される可能性のある軍艦より、輸送艦や商船を狙ったほうが相手に効率的に、より大きな損害を与えます。食糧や燃料の交通路を断つ“兵糧攻め”ですね。

     とくにエネルギー自給率が低い日本では、貿易される資源や食糧などの約99パーセントがシーレーン(海上交通路)を通じて行われています(注)。つまり、日本にとって対潜戦を実施する部隊の強化・充実は、国を守る上で重要な使命となっているのです」

     世界に目を転じると、日本と同じ島国であるイギリスも対潜戦を重視していると倉本氏は言う。

    「ですが、そのほかのヨーロッパの国々では、国家間が地続きなので、輸送は主に鉄道やトラックなど陸路に頼っています。ですから、ドイツなどのヨーロッパ各国の海軍は、哨戒機で敵の潜水艦を探知し攻撃するより、敵国のシーレーンを断絶するため潜水艦の運用を重視する傾向にあります」

    (注)出典/国土交通省東北地方整備局 八戸港湾・空港整備事務所ホームページ

    アメリカの対潜戦能力の源泉はP-3Cにある?

     では、世界で対潜戦の能力が高い国はどこだろう。それはアメリカだと倉本氏。その背景には、アメリカが開発した哨戒機の存在が大きいという。

    「アメリカのP−3Cは単体で完結した装備品ではなく、そのシステムを含め、高い潜水艦探知能力を発揮します。P−3Cで1次解析した音のデータはその後、潜水艦情報の収集・分析をする施設で解析され、さらに音響分析を専門とする部隊によっても解析されます。こうして3段階で厳密に解析し、蓄積された他国の潜水艦の音響データが識別に利用されます。

     このようなシステムを開発・保有する技術力があるので、アメリカは対潜戦の能力が高いのです。一方、P−3Cは半世紀以上も前に開発された機体なので、その後継機として、アメリカ海軍はP−8、自衛隊は国産のP−1を導入しています」

     では、東側諸国の対潜戦能力は?

    「東側諸国に関して言えば、哨戒部隊がある国は数カ国ほどですね。日本周辺国ではロシアが哨戒機IL−38を、中国がSH−5や、Y−9などを運用していますが、配備数は日本よりも少なく、哨戒能力は限定的と思われます。

     ただし、中国は潜水艦や艦艇の数を増やし続け、無人潜航艇なども開発して強化しているので、けっして油断はできません」

    WBCに続き対潜戦で優勝。海自対潜部隊の能力

    画像: シードラゴン2023に参加した海上自衛隊の隊員ら。潜水艦を模した標的の捕捉から魚雷発射までの速さ、命中精度が評価された

    シードラゴン2023に参加した海上自衛隊の隊員ら。潜水艦を模した標的の捕捉から魚雷発射までの速さ、命中精度が評価された

     2023年4月7日、鹿屋航空基地(鹿児島県)に所在する第1航空隊のP−1哨戒機部隊が、アメリカ海軍主催の多国間共同訓練「シードラゴン2023」において実施された、カナダ、インド、韓国を含めた5カ国による対潜水艦戦競技で見事優勝した。

    「海自の哨戒能力の高さは、同時に日本の潜水艦の静粛性を高めています。哨戒部隊の潜水艦を探知する能力が高いから、対潜戦訓練の敵役を務める潜水艦部隊は対抗して静粛性を向上させたのです。

     そして、互いに対潜戦に関する情報を共有して切磋琢磨した結果、双方の技量が向上し、それを現在まで継続しているのです。WBCで見せたチームワーク力が、日本の国防においても発揮されているのでしょう」

    【倉本憲一】

    1952年生まれ、奈良県出身。元海将、自衛艦隊司令官。防衛大学校卒業後、海上自衛隊に入隊。海上幕僚監部などに勤務後、第2航空群司令などを経て、現在は軍事解説者。

    (MAMOR2023年7月号)

    <文/魚本拓>

    海自のVR対潜水艦戦を実況中継!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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