かつて「陸戦の王者」と呼ばれた戦車。第1次世界大戦時に誕生したこの兵器は、「時代遅れで21世紀の戦争で使われることはないだろう」と、近年は軍事アナリストらの間で言われてきた。ところがロシアがウクライナに侵攻する際、主力となっているのが戦車だ。対するウクライナも、最新型の戦車の供与を主要各国に要請している。
そこで、戦車に関するあれやこれやの雑学を仕入れて、より世の中の紛争を理解し、わが国の安全保障について思いを寄せるよすがにしよう。
1:戦車はいつ誕生したの?
時は第1次世界大戦。イギリス軍とフランス軍は相対するドイツ軍によって戦場に張り巡らされた塹壕や鉄条網などに苦戦を強いられていた。そうした堅固な敵陣地を突破するために作られたのが戦車だ。
歴史上最初の実用戦車はイギリスが開発した「マークⅠ」。無限軌道(履帯)を採用した装軌式で、ボディは菱形をしている。2門の砲を搭載した8人乗りのマークⅠだがスピードは遅く、歩く速度と大差なかった。
ちなみに、なぜ戦車を英語で「タンク」と呼ぶのかというと、戦車を輸送する際に「水槽(tank)」と称して秘密を守っていたという説がある。
2:戦車はどんな構造?
硬い装甲に守られた車体、悪路に強い装軌式の履帯、全周360度射撃ができる砲塔に砲を搭載しているのが戦車の基本構造だ。多くの場合、乗員は車長、操縦手、砲手、装てん手の4人乗りで、砲手が装てん手を兼ねた3人乗りの戦車もある。
操縦手の座席は前方にあり、空間が狭いため操縦手は仰向けになるようなポジションで乗ることになる。残りの乗員は砲塔内に座席がある。
エンジンはたいていの戦車では後部に付いているが、イスラエルで作られたメルカバ戦車はあえて装甲の硬い前部に搭載し、被弾した際の「盾」となるような構造になっている。
3:戦車の装甲は硬さが違う?
戦車の装甲は、全部同じ厚さ・硬さではない。同じ厚さにすると重くなり、機動力が落ちるからだ。
装甲が堅固なのは、車体や砲塔の前面などの敵から撃たれやすい場所。そのため砲塔上面や車体後部など、装甲の薄い部分を狙うと撃破しやすい。アメリカ軍の対戦車ミサイル「ジャベリン」などは戦車の装甲が薄い部分を狙うため、敵戦車の目の前で上昇し真上から着弾できる誘導装置が付いている。
4:戦車にも免許が必要?
戦車で一般道を走行する場合、日本では免許が必要。日本の道路交通法で戦車は「大型特殊車両」に該当し、隊員は自衛隊駐屯地などにある教習所で「カタピラ車限定」の大型特殊自動車免許を取得する。
ほかに、自衛隊内部のMOSと呼ばれる特技資格のなかで、戦車用の資格も取得しなければならない。
5:戦車からの脱出法は?
装備以上に大事なのが、乗員の命。被弾し火災が発生した際などには一刻も早く脱出しなければならない。脱出の際は戦車に乗り込む際に使われる上部のハッチから抜け出すが、操縦席の下にも脱出用ハッチがあり、ここから離脱する。
戦車が止まった場所の地形によっては開ききれず脱出できない可能性もあるため、開けると脱出用ハッチが外れる仕組みの戦車もある。
6:戦車の洗車はどうやるの?
泥だらけになりながら疾走する自衛隊戦車の洗車は、まず高圧洗浄機で水を吹きかけ、上から下に向かって汚れを落とす。その後ブラシなどを使って洗車。圧力でカチカチになった泥がこびりついた履帯は、部隊で溶接・自作した鉄製の「泥落とし」と呼ばれるへらでこそぎ落とす。
砲の手入れも、「洗桿」という専用ブラシを着けた掃除用の長い棒を使用。ブラシにナイロンたわしやスポンジなどを付け、砲の先端から入れて掃除をする。油を塗布する際はウエス(布)を巻き付け、同様に砲の先端から入れて手入れをする。
7:日本の公道を走れる?
戦車には日本の公道を走行するため、法律に準じて各種ライト、ウインカー、ミラーなどの保安装備が付いている。公道走行時には道路交通法の遵守はもちろん、金属の履帯が道路を傷つけて舗装が剥がれないよう、履帯にゴムパッドを装着。
戦車が多く配備されている北海道の千歳地方などでは、演習などの移動で公道を走る戦車が見られる機会も多い。
8:戦車をサポートする装備がある!
戦車を運用するためのサポート装備品もある。例えば、11式装軌車回収車。戦車などの装軌車両が故障した際などの回収や修理・整備のサポートを行う車両で、いわば戦車のレッカー車といえる存在。10式戦車の導入に伴って装備された。
このほか、91式戦車橋は、折り畳み式の橋を持つ車両。橋のない河川などを越えるための橋をかけることができる。戦車は重く、橋が架かっている所でも通れないことがあるため、戦車を運用するには必須の装備品だ。
<文/臼井総理 イラスト/ナーブエイト>
(MAMOR2023年7月号)