かつて「陸戦の王者」と呼ばれた戦車。第1次世界大戦時に誕生したこの兵器は、「時代遅れで21世紀の戦争で使われることはないだろう」と、近年は軍事アナリストらの間で言われてきた。ところがロシアがウクライナに侵攻する際、主力となっているのが戦車だ。対するウクライナも、最新型の戦車の供与を主要各国に要請している。
近代戦においても、その有用性があらためて認識された戦車だが、わが国ではどのように配置され、部隊ではどんな訓練をしているのか?
陸上自衛隊で戦車を扱う「機甲科」隊員の教育や装備の活用について研究を行っている富士学校機甲科部に話を聞いた。
日本で戦車を運用する陸上自衛隊機甲科
陸上自衛隊では74式、90式、10式(小型・軽量な純国産戦車)と3種類の戦車を運用中だ。
これら戦車は、わが国のどこに配置されているのだろう。「安全保障環境の変化や南北に細長く離島も多い国情に合わせ、戦車部隊は訓練環境が良好な北海道や大陸に面した九州に配置しています」と富士学校機甲科部研究課長の井上義宏1等陸佐。
戦車部隊は改編が進んでおり、23年度末までに本州からほとんどの戦車部隊が消える計画になっている。その本州には、装甲防御力と火力を持ちタイヤで走る戦闘車、16式機動戦闘車(MCV)を戦車に代わって配備し、機動力の高さを生かした部隊が展開される予定だ。MCVは装軌式ではないため厳密には戦車と呼べないが(注)、機甲科で運用。また、島しょ防衛にあたる専門部隊である水陸機動団の水陸両用車AAV7も装軌式の装備であることから、機甲科が操縦などの運用面でサポートしている。
(注)戦車は、大口径の主砲を装備し、装軌式で全体を強固な装甲で覆った車両と定義されている。
日々の訓練に加えて競技会でも練度を上げる
教務班長の矢野和徳2等陸佐に戦車部隊の教育と訓練について聞いた。
「富士学校機甲科部では戦車乗員に必要な知識と技術の基本を教えます。加えて幹部自衛官には部隊指揮官に必要な戦術や運用に関する教育も行います。例えば戦車の操縦だと1両での訓練、複数の戦車が連携する小部隊の訓練など。そして普通科や施設科などほかの職種と連携をした訓練も行い各職種が互いの短所を補い総合的な戦闘力が発揮できるよう訓練します」
部隊では通常の訓練のほか、さらなる練度向上や部隊の団結強化を図るため部隊対抗で射撃精度などを競う「競技会」も定期的に実施されるという。
「例えば、北部方面隊では同隊に属する戦車部隊が一堂に会し、長距離射撃や不意に現出する目標への行進射撃など、戦車の性能を発揮する競技会を行っています」と矢野2佐。
富士学校機甲科部は、新装備に合わせて教育内容も更新していると矢野2佐は続ける。
「新しいことだけでなく、国土防衛を担う戦車乗りの責任感や使命感などもきちんと伝えています。最新のMCVや10式戦車はもちろんですが、90式、74式についても教育のサポートを行っています」
将来を見据えて最新の戦訓も取り入れる
富士学校機甲科部では、過去の戦いから戦訓を取り入れるのはもちろん、現在進行形で起きている戦い、特にウクライナでの出来事についての情報収集、研究を進めていると井上1佐は語る。
「最新の世界情勢や戦訓は、随時部隊にも伝えています。ウクライナではドローンや対戦車ミサイル(ATM)に注目が集まりました。今後の課題として対ドローン、対ATMの研究はもちろん、われわれ自身がドローンを活用する方法なども探っていきます」
最後に、富士学校機甲科部長の堀田秀成陸将補が日本における戦車、機甲戦力の重要性について話してくれた。
「国土防衛とは、侵攻する敵戦力を未然に排除し、たとえ一時的に侵攻されても、最終的には奪われた国土を回復すること。私たち機甲科は戦車をはじめとする装備を駆使し、抑止においてはその要に、抑止が破たんした場合でもほかの職種とも協力しながら、自衛隊としての国土防衛に最大限貢献してまいります。
今、諸外国の最新鋭の戦車は、どれも20世紀に開発され改良を繰り返して現在まで活用されています。10式戦車はその中で、唯一21世紀に開発された戦車です。私たち機甲科はつねに未来を見据え、変化に備え、さまざまなことに取り組みます」
<文/臼井総理>
(MAMOR2023年7月号)