日本の海を守る海上自衛隊にも、外敵の脅威に対処するために陸上で戦う部隊がある。それが海自の港湾などの警備を担う陸警隊(りっけいたい)だ。
海上自衛隊の横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊各地方隊には、それぞれ警備隊が置かれ、地方総監の指揮監督を受ける警備隊司令が、各部隊を統括する。陸警隊は警備隊隷下の部隊となり、警備対処掛(注)警備犬運用掛、庶務掛、庶務掛で構成されている。
そんな陸警隊で運用されている警備犬の管理、育成、訓練のために、ハンドラー(犬を誘導する訓練士)で編成されているのが警備犬運用掛だ。
2年に1度開催される、各地の陸警隊の警備犬運用掛が集まる講習会の会場となる横須賀はハンドラーたちの“総本山”なのだ。
(注)掛とはその任務・業務にかかわる組織上の名称
訓練を繰り返して基地警備を担う犬を育成
「横須賀市内にある海自の基地などの施設は広大な敷地を有しているので、警備にあたってマンパワーでは補えない部分があります。そこで、人より優れるといわれる嗅覚と聴覚を持つ警備犬をセンサーとして活用しているのです」
そう語るハンドラーの菊池博幸1等海曹。警備犬とハンドラーの主な任務は、定期的な基地内の巡回や重要施設の定点監視、観艦式や基地の一般開放イベント時の開場前・閉幕後の巡回などだという。
そのためには日々の訓練が欠かせないと菊池1曹。その基本となるのが「服従訓練」。ハンドラーの左横につき、人と歩調を合わせて歩く「脚側行進(くきゃくそくこうしん)」や、「停座(ていざ)」(お座り)、「伏臥(ふくが)」(伏せ)、犬を立たせた状態でじっと待たせる「立止(りっし」、犬を呼んでハンドラーの側に来させる「招呼(しょうこ)」などを行う。
ハンドラーと警備犬の主従関係を構築
また、犬を遠隔操作するための訓練として、障害を飛び越えさせる「障害飛越(しょうがいひえつ)」や、木製のダンベルなどを投げて取ってこさせる「物品持来(ぶっぴんじらい)」などがある。そして、警備犬としてとりわけ重要なのが、不審者にほえて動けないようにする「禁足咆哮(きんそくほうこう)」と、不審者にかみつく「襲撃」の訓練だ。
「こうした訓練を通してハンドラーとの主従関係を確実なものにしていきます。ただし、犬の集中力が続くのは3~5分くらいだといわれているので、訓練は長くても1回に10~15分で終了します。
訓練のコツは、感情的に叱るのではなく課題が達成できたときには大げさに褒めてあげること。その最高の状態のときに終了し、訓練は楽しい遊びだという良い印象を犬に残すことです。こうして訓練を毎日繰り返し、3年ほどで基地警備の任務に就ける警備犬に育て上げます」
<文/魚本拓 写真/村上由美>
(MAMOR2023年6月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです