わが国が他国などから侵略を受けた際に、地上で敵を迎え撃つ陸上自衛隊は、弾薬や燃料は当然のこととして、食糧から医療まで必要なあらゆるモノ、コトを全て自前で用意し、最前線の部隊を支えている。攻撃を受けたり故障などで飛べなくなった航空機を、最前線で修理・整備、回収をする整備部隊まで用意されているのだ。それが「航空野整備隊」だ。
マルチな整備員を育てる訓練と教育
航空野整備隊では、設備の整った格納庫だけでなく、クレーンも機材もない野外での修理・整備を行わなければならないこともある。そのために、整備の技術はもちろんのこと、野整備隊として必要なさまざまな能力を隊員に身につけさせるために多種多様な訓練・教育を実施している。
彼らが普段どのような訓練を行っているのか、具体例を紹介しよう。
最小限の明かりで行う「夜間整備訓練」
いつでもどこでも整備ができるよう備えるための訓練、そのひとつに「夜間整備訓練」がある。暗闇の中でもヘルメットに装着したヘッドライトや懐中電灯のわずかな明かりだけを頼りに整備が進められるよう訓練するのだ。
「暗い中での作業は、手元が見えにくく敵を意識した行動も必要です。明かりは最低限しか使いませんし、あまり大きい声も出せないので、指示は手信号やライトで照らすことで行います。さらに、工具や部品は暗くてもすぐ手に取れるよう、分かりやすく工夫しています」
このように夜間整備訓練の難しさを語る、整備隊所属の山井祥太3等陸曹。全ての整備員が夜間でもキビキビと動けるようにするため繰り返し訓練するという。
整備員でも「射撃訓練」は必須
航空野整備隊だけに限らず、陸上自衛隊の隊員は、全員一定のレベルまで射撃の腕を磨かねばならない。航空機の整備が主任務の航空野整備隊だが、有事には整備しているところを敵に攻撃される可能性もあるため、より高い練度を目指して訓練を積み重ねている。
年に数回実施される射撃訓練に向けては、まず隊内で練度が高い隊員を選抜し、ほかの隊員への教育者として鍛える。この基幹となる隊員を中心に、射撃訓練前には射撃姿勢の予習を行うなどして、全員がより高い練度で射撃が行えるように訓練しているのだ。
野整備隊の本領発揮、「野外整備訓練」で整備力を培う
航空野整備隊では、立川駐屯地内にある野外訓練場や、そのほかの訓練場などを使った「屋外整備訓練」を実施している。駐屯地から持ち出した器材や工具、部品を使い、野外でもエンジンの脱着など高度な整備を行えるように訓練する。
整備隊長の木村祐治3等陸佐は、野外での注意点について次のように語った。
「野外では部品や工具を落とすと紛失する危険性が高いんです。毛布やシートを使い落としてもカバーできるよう対策をします。また、エンジンや電子機器などに悪影響を与えるホコリや砂をはじめとする異物の侵入に注意しなくてはなりません」
「特殊武器防護訓練」で見えない脅威にも備える
特殊武器とは、NBC、核(Nuclear)・生物(Biological)・化学(Chemical)兵器のこと。航空野整備隊では、敵の特殊武器による攻撃があっても被害を軽減し、ヘリコプターの修理・回収任務の達成を容易にするための防護訓練を行っている。実際には「化学剤などで部隊の活動地域が汚染された」という想定のもと、部隊が保有する装備を使って訓練する。
例えば防護服やマスクを着用した状態での行動、汚染地域の特定や化学剤の判定のほか、航空機整備を行う地域を除染して安全にするなどの訓練を実施している。
「野外補給訓練」で場所を選ばずに事務作業
航空野整備隊の傘下には整備隊のほかに航空機用部品の補給・保管などを担当する「補給隊」がある。野外での整備で必要になる部品も、工具・整備器材同様、駐屯地から持っていかねばならない。野外で飛行部隊からの求めに応じ部品を搬出する訓練が「野外補給訓練」である。
補給隊長の本倉哲也1等陸尉は、まず補給隊の任務について説明してくれた。
「飛行部隊からの要求を受けて、補給統制本部や実際の部品を持つ補給処と連携し、部品の出庫や使用後の回収までを受け持つのが私たち補給隊です。年間で5315品目、約7000点の部品を扱います」
さらに、補給隊保管班長として部品の保管を担う岩谷法明2等陸曹は任務のポイントをこう語る。
「保管班の仕事は、普段倉庫内にある部品類の管理です。品質管理が大事なので、日々の清掃、整理整頓、地震対策などに重点を置いています」
(MAMOR2023年3月号)
<文/臼井総理 写真/荒井健>
―戦場のメカニック―
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです