わが国が他国などから侵略を受けた際に、地上で敵を迎え撃つ陸上自衛隊は、弾薬や燃料は当然のこととして、食糧から医療まで必要なあらゆるモノ、コトを全て自前で用意し、最前線の部隊を支えている。攻撃を受けたり故障などで飛べなくなった航空機を、最前線で修理・整備、回収をする整備部隊まで用意されているのだ。それが「航空野整備隊」だ。
主にヘリコプターの整備を行う「東部方面航空野整備隊」にスポットを当てて、彼らの特別な能力を明らかにしていこう。
航空野整備隊とはどんな部隊?
陸・海・空各自衛隊は、それぞれ戦闘ヘリコプターや哨戒機、戦闘機などの航空機を運用しているが、その整備に関しては、陸自だけが特殊な部隊を持っている。陸自の任務を行うヘリコプターを支える航空野整備隊とはどんな部隊なのだろう。
山中にヘリが緊急着陸……すぐに駆け付けて現地で修理
海・空自衛隊の拠点は基地だ。運用する艦艇や航空機の整備も基本的には基地で行う。これに対して陸自は「基地」を持たない。「駐屯地」はあくまで仮に駐屯する地点であり、有事には駐屯地を出て野外で活動するのが基本。これは、運用する航空機の整備に関しても同じだ。
例えば作戦行動中のヘリコプターが攻撃を受けて故障し、戦地に緊急着陸した場合など、現地に駆け付けて整備や修理、補給をする。そのための訓練を積み、装備も調えているのが航空野整備隊なのだ。
陸上自衛隊の航空野整備隊は、全国に7部隊ある。北部・東北・東部・中部・西部の5つの方面隊に1隊ずつ、そして木更津駐屯地(千葉県)の第1ヘリコプター団、および第1ヘリコプター団輸送航空隊に各1隊だ。立川駐屯地(東京都)に所在する東部方面航空野整備隊は、東部方面隊が持つ、UH−1J、AH−1S、OH−1、UH−60JA、CH−47Jのヘリコプター5機種。これらの航空野整備および航空補給を1部隊で全て担当している。
航空野整備隊が持つ装備品
野外でヘリコプターの修理・整備を行うためには、さまざまな機材が必要だ。航空野整備隊が持つ装備品を紹介しよう。
航空救難車
ヘリコプターをつり上げるためのクレーン車。最大約10トンまでつり上げることができ、トレーラに積載する。
<SPEC>全長:約9.5m 全幅:約2.5m 全高:約3.2m
航空野外高所作業台車
ヘリコプターのつり上げや高所作業を行うための車両。荷台のクレーンや作業台を延長することで高さ6メートルまでの高所作業が行える。
<SPEC>全長:約9.0m 全幅:約2.5m 全高:約3.8m(数値は作業台収納時)
機上通信統合システム試験装置
ヘリコプターの各種電子機器の修理・整備を行う装置(写真はトレーラー搭載時)。内部は個室になっており、電子整備用機材がそろう。
<SPEC>全長:約7.2m 全幅:約2.5m(収納時)、約4.0m(展開時) 全高:約3.6m
可搬式整備作業台
高所での修理・整備作業を行うための車両。作業台を延長することで最大約10メートルまでの高所作業を行うことができる。
<SPEC>全長:約3.4m 全幅:約1.7m 全高:約2.5m(数値は作業台収納時) 最大速度:約4.5km/h
航空野外整備車
野外整備を行うために、クレーンと専用の荷室が付いたトレーラー。荷室はコンテナを収納しやすいよう、仕切りが設けられている。
<SPEC>全長:約7.6m 全幅:約2.5m 全高:約3.4m 最大積載量:約5t クレーン荷重:約2.9t
航空野外部品庫
ヘリコプター修理に必要な細かな部品を収納する保管庫。空調を完備し、部品の劣化を防ぐことができる。大型トラックの荷台に載せて運搬することができる。
<SPEC>全長:約4.3m 全幅:約2.2m 全高:約2.1m
野外フォークリフト
部品や工具を入れたコンテナを運ぶためのフォークリフト。ぬかるんだ地面などでも移動できるようオフロード仕様になっている。
<SPEC>全長:約4.2m 全幅:約1.6m 全高:約1.8m 最大速度:約11km/h 最大荷重:約1.5t
(MAMOR2023年3月号)
<文/臼井総理 写真/荒井健>
―戦場のメカニック―
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです