気象観測やGPSなど、人類の重要なインフラに利用されている宇宙領域は、情報収集など安全保障面でも依存度を増している。この宇宙の状況を監視し、安定的に利用するため航空自衛隊に宇宙作戦群が新編された。訓練や隊員の思い、世界各国との連携など宇宙作戦群の今をお伝えしよう。
宇宙作戦群の訓練に密着してみた
宇宙作戦群では、実際に起こりうるシナリオに沿った実践的な訓練をしている。どのような訓練を行っているのか。隊員のセリフを再現して、その訓練の流れを説明しよう。
宇宙作戦群は、クルー長の指揮下に解析係、観測係、衛星やデブリなどの宇宙物体情報が記載された国際データベース『宇宙物体カタログ』を確認するカタログ係に分かれ宇宙状況を監視している。訓練は、軌道が変化した宇宙物体が人工衛星に衝突する可能性を想定して実施された。
――衛星監視レーダーが宇宙物体の軌道の変化をキャッチ。
解析係「宇宙物体の軌道変化を検知しました!わが国の人工衛星への影響を確認します」
クルー長「宇宙物体の観測データを収集せよ。宇宙物体についてデータベースとの照合開始」
カタログ係「『宇宙物体カタログ』から最新の軌道情報を入手します」
――クルー長の指示に従い、カタログ係は高度や軌道などが記録された『宇宙物体カタログ』を参照し、宇宙物体情報を特定。観測係は地球を周回する人工衛星や、宇宙物体の軌道などの観測データを収集
観測係「JAXA(注1)と民間企業の観測データも入手しました」
(注1)JAXA(ジャクサ) 正式名称は「国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構」。日本の航空宇宙開発政策を担い、人工衛星の開発や、それを打ち上げるためのロケット開発、宇宙飛行士の育成、レーダー観測などでの宇宙状況監視などを行っている
クルー長「アメリカ軍の観測データはどうか」
――宇宙コマンド連合宇宙作戦センター(注2)(CSpOC)が宇宙物体を24時間365日監視しておりCSpOCは宇宙物体の情報提供などを行なっている。カタログ係がアクセスし、情報を入手
(注2)宇宙コマンド連合宇宙作戦センター (Combined Space Operations Center)。アメリカ軍の宇宙機関の1つ。観測機器によって得た宇宙物体の情報をデータ化し、公開している
カタログ係「宇宙物体の照合完了。データ送ります」
解析係「細部解析完了。軌道の変化した宇宙物体はわが国の人工衛星と接近の可能性があります」
クルー長「了解。細部を報告する」
クルー長「衝突可能性地点はオーストラリア上の宇宙空間。25日10:05ころと予測される。確率は0.2パーセント。現在の状態は『特別警報』レベル。防衛省および関係部門に報告をする」
――衛星の所有者に接近する宇宙物体の軌道情報を提供し、訓練は終了。日本の衛星に危害が及ばぬよう、宇宙作戦群は日夜、宇宙状況を監視している。
解析係「解析は高度な知識と技能が重要」
【宇宙作戦群宇宙作戦隊 玉井千裕3等空曹】
訓練に参加した、宇宙作戦隊の玉井3曹はこう話す。
「訓練では検知した宇宙物体の軌道変化、衛星との衝突などリスク分析を行いました。分析によって計算された衝突の確率は0.2パーセントと一見低いように感じます。ですが万が一の衝突によって宇宙物体が増えてしまうため、増えた宇宙物体がほかの衛星に衝突するかもしれません。0.2パーセントは宇宙空間では大きな確率で、大事故につながるかもしれないという状況の訓練でした」
宇宙で起こりうる状況に対応するため、シミュレーター訓練や軌道力学などの教育も受講し、基礎力を付けている玉井3曹。「今まで誰もやったことのない任務だと感じています」。
クルー長「チーム力が1番大切」
【宇宙作戦群宇宙作戦隊 山本隆旦3等空尉】
クルー長の山本3尉は訓練について、「宇宙状況把握はチームワークが重要です。状況を正確に把握して対処するために、全ての部署が連携できなければ任務達成できません」と話す。そして広大な宇宙空間は単独で任務遂行できないと話を続けた。
「宇宙状況把握は各機関や企業などの観測データなどの収集が不可欠です。JAXAやアメリカ軍をはじめ国内外の関係機関との信頼関係構築も任務達成の鍵となります」
カタログ係「情報入手先の判断を適切に」
【宇宙作戦群宇宙作戦隊 沼田健二2等空曹】
沼田2曹は訓練についてこう話す。
「宇宙状況把握では、宇宙物体の名前、軌道情報などがデータベース化された『宇宙物体カタログ』を最新の状態に維持することが重要です。情報元は国内外に多様にあるため、どこから何の情報を入手するのか、適切な判断力を身に付けるためにも訓練は不可欠です」
観測係「効率性を上げて任務に臨む」
【宇宙作戦群宇宙作戦隊 浦崎大勇2等空曹】
観測係として訓練に参加した浦崎2曹はセンサーを効率的に活用する重要性を話す。
「宇宙物体の数は膨大なため、効率的に観測することが求められます。また宇宙物体は地球を周回しているので全てを常時監視することができません。諸外国との情報共有を想定して訓練を実施しています」
(MAMOR2023年2月号)
<文/古里学 写真/村上淳>