•  2020年5月に航空自衛隊宇宙作戦隊が発足。人員を増やし22年3月に宇宙作戦群として本格始動した日本の宇宙防衛部隊。群司令と運用面・教育面で部隊を支える2人の隊長に、宇宙作戦群が担う任務など部隊の概要を聞いた。

    群司令「万全の態勢で、任務に取り組みます」

    さまざまな部署の隊員で編成された宇宙作戦群。「限られた人員で新しいことに取り組むため、マルチロールを方針に掲げ挑戦します」と玉井1佐

    【宇宙作戦群司令 玉井一樹1等空佐】

     宇宙作戦群の役割は「日本にとって望ましい宇宙環境の維持・獲得です」と群司令の玉井1佐は語る。

    「宇宙空間における安全保障環境の形成や、宇宙空間や地球上における武力攻撃の抑止、宇宙空間の安定のための対処などが任務です」

     玉井1佐が具体的にあげる脅威の1つは、宇宙物体だ。人工衛星などに宇宙物体が衝突すると甚大な被害を引き起こすため、状況の監視が求められる。また一部の国では、軍事的な優位性の獲得を目指して人工衛星を攻撃する能力を持つキラー衛星や、衛星通信の妨害装置などを開発しているとの指摘もある。

    航空自衛隊の宇宙部隊の始まりは2020年5月に発足した宇宙作戦隊。22年3月に隷下に指揮統制を担う宇宙作戦指揮所運用隊と宇宙作戦隊を置いた宇宙作戦群が新編された。23年には装備品を維持管理する宇宙システム管理隊(仮称)と山口県に第2宇宙作戦隊(仮称)が開設予定だ

     宇宙作戦群は、こうした人工衛星の動きや宇宙物体など宇宙物体の動きを認識、観測する「宇宙状況把握(Space Situational Awareness、SSA)」を行っている。「宇宙空間の状況を常時継続的に把握し、そのための装備品運用や人材の育成、各種研究を行うのが宇宙作戦群です」と玉井1佐。

    運用教育「従来の考えにこだわらず、人材育成を進めたい」

    「新しい試みや検討は苦労を伴いますが、自分たちの取り組みが将来につながる重要性を感じる部分でもあります」と佐藤2佐

    【宇宙作戦群 宇宙作戦指揮所運用隊長 佐藤則広2等空佐】

     宇宙作戦指揮所運用隊は、宇宙作戦隊のSSA情報や各方面からの情報をもとに、宇宙作戦の指揮統制を担当。この指揮統制や運用隊員の教育に関わる隊長の佐藤2佐はこう話す。

    「宇宙での作戦を実施するにあたり、必要な知識や技能を持つ隊員を養成できるよう検討しています。指揮統制も国内外の関係機関などとの意見交換を通じ教育内容を更新しています」

    画像: 部隊発足に伴い、宇宙に関する高度な知識や技術を持つ隊員の証明である「宇宙作戦き章」も新設された

    部隊発足に伴い、宇宙に関する高度な知識や技術を持つ隊員の証明である「宇宙作戦き章」も新設された

     隊員教育は宇宙で起こる事象に対し総合力を身に付けるプログラムなどで養成中だ。指揮統制も本質的には他領域の作戦と基本的には変わらないと言いつつも「宇宙は領海や領空といった概念がなく、日本上空以外の、人工衛星などが利用するエリアをどう守るのかが課題。また軍事、公共、ビジネスなど利用目的もさまざまなので、これを意識して演習などを行います。今後、部隊が大きくなると指揮統制の役割が増します。部隊運用の中核となる人材の育成が重要です」。

    運用「宇宙作戦群の中心部隊としてチーム力を高めます」

    「宇宙状況把握という新たな任務を担うのは自分たちしかいません。プロとしての矜持を持って取り組みます」と恩田2佐

    【宇宙作戦群 宇宙作戦隊長 恩田雄太2等空佐】

     宇宙作戦隊は、宇宙作戦群の心臓部ともいえるSSAシステムを運用する部隊だ。

     JAXAや民間衛星事業者などが所有するレーダーや光学望遠鏡といった各種センサーによる観測データ、アメリカ軍をはじめ各国からの情報がここに集められ、全宇宙領域の宇宙物体や人工衛星などの動きを把握。衝突や大気圏突入などのリスク情報を発信することで、宇宙空間の平和的かつ安定的な利用の確保に寄与する。この大規模なSSA運用システムは、国内では宇宙作戦隊にしかない。

    「宇宙空間には国境がない上に、国際宇宙ステーションのような人工衛星は90分ほどで地球を1周します。広大なスペースエリアの状況を常に把握するには、官民問わず関係機関や諸外国との連携、隊員のチームワークが不可欠です」と任務の重要性を語る隊長の恩田2佐。

     部隊は2023年度から24時間365日態勢でSSAシステムを本格運用する予定。日本の人工衛星に対するほかの人工衛星または宇宙物体の接近、衛星の大気圏再突入など、現在想定できる事象への対応と連携方法を、要員の練度に合わせて定期的に訓練し、本格運用の開始に備えている。

    宇宙作戦群が目指す少し先の未来は?

    防府北基地で第2宇宙作戦隊(仮称)の準備を行う甲斐1曹。「常にスマイルでの応対を心掛け、工事を依頼する業者とも密に連携しています」 

     2023年度から宇宙作戦群は、SSAを運用する府中基地(東京都)の宇宙作戦隊を第1宇宙作戦隊(仮称)に改編し、防府北基地(山口県)に日本の人工衛星への妨害行為を監視する第2宇宙作戦隊(仮称)を新設する。

     組織改編に合わせ、装備品も強化が進む。現在、山口県山陽小野田市にあるレーダー地区に建設中のディープスペースレーダー(SSAレーダー)は、高度3万6000キロメートルの静止軌道にまで電波が届く。国内では初、海外でも数少ない大型レーダーで、このレーダーの運用が始まると宇宙作戦群の監視体制は一段と強化され、第1宇宙作戦隊が観測したデータを第2宇宙作戦隊と共有し、運用する予定だ。

     宇宙作戦隊でSSAシステムの運用が開始されると、監視を行う領域はJAXAと分担して行われる予定だ。宇宙作戦隊では、高度5800キロメートル以遠の宇宙空間をディープスペースレーダーで監視する。それよりも近いニアアースと呼ばれる宇宙空間をJAXAが監視し、データを共有して観測する。

     この地区でSSAセンサーなどの設置業務の調整や工程管理を担当している甲斐正巳1等空曹は「23年6月中に設置し、スムーズに運用できるよう整備中です。これからの部隊運用の基礎になる部分なので、計画的に作業しています」とその責任の重さを強調する。同じく23年度には人工衛星に対する電波妨害状況を把握するための装置も運用される。

     また近い将来、レーダーよりも精度の高いレーザーで宇宙物体との距離を測定する測距装置を導入。さらに、自衛隊初となる監視衛星を26年度に打ち上げる計画も進められている。

    (MAMOR2023年2月号)

    <文/古里学 写真/村上淳>

    宇宙戦争は起こるのか?

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