•  2020年5月に航空自衛隊宇宙作戦隊が発足。人員を増やし22年3月に宇宙作戦群として本格始動した日本の宇宙防衛部隊。

     自国だけでカバーできない宇宙を諸外国と連携し平和を守るためのキーワードが「多国間連携」だ。また、“宇宙作戦”という、これまでにない職種だけに、専門知識や技術を持つ隊員の育成も必要だ。さらに、新設部隊の一体感の醸成や、広報も重要となってくる。宇宙作戦群のさまざまな取り組みを紹介しよう。

    グローバル:各国宇宙部隊が協力し平和を守る

    画像: アメリカ軍主催の宇宙状況把握多国間机上演習「グローバル・センチネル22」。参加国ごとに分かれ宇宙空間の脅威からの対処を訓練する空自隊員(手前・左)(画像:U.S. Space Command)

    アメリカ軍主催の宇宙状況把握多国間机上演習「グローバル・センチネル22」。参加国ごとに分かれ宇宙空間の脅威からの対処を訓練する空自隊員(手前・左)(画像:U.S. Space Command)

     防衛省は2017年から航空幕僚監部より隊員を茨城県のJAXA筑波宇宙センターに常駐させ「宇宙状況把握」(Space Situational Awareness、SSA)に関する連携をしている。21年からはアメリカ宇宙軍の拠点、バンデンバーグ宇宙軍基地にも隊員を連絡官として派遣。

     またアメリカ宇宙軍主催の宇宙状況把握多国間机上演習「グローバル・センチネル」にも16年から参加し、22年のグローバル・センチネルは25カ国・10日間で実施。宇宙作戦群からも3人が参加した。

    グローバル・センチネルに参加した蝦名公紀2等空尉。「各国の宇宙に関する取り組み、人員養成など検討課題も見えました。本訓練で構築した各国との連携を、実際の運用へ反映する必要性を認識しました」

     演習では人工衛星同士の接近など宇宙で発生しうる各種事象に対し、各国が所有するセンサーなどでデータを集め、それを共有して多国間で対応する訓練を行った。

    隊員育成:宇宙全般に強い隊員を育成する

    「教育は業務をやりながら覚える内容にしています。部隊として新たな装備品、任務にも対応できる隊員を育て上げるのが急務です。アメリカ宇宙軍や民間企業などにも委託しながら、教育課程を構想中です」と話す神水優1等空尉

     宇宙作戦群は、空自のさまざまな部署から隊員が集まり新編された。そのため隊員の元部署は兵器管制、レーダー整備、人事・総務などバラバラで、宇宙に関する興味の度合いや任務に対する知識も個人差がある。部隊としていかに有用な人材を育成するか、その教育課程の整備が急ピッチで進められている。

    画像: 自国の裏側など、カバーできない領域は他国からの情報提供で補う。お互いに情報を共有し、宇宙空間を安全に利用できる環境構築に地球全体で取り組む(画像:ESA)

    自国の裏側など、カバーできない領域は他国からの情報提供で補う。お互いに情報を共有し、宇宙空間を安全に利用できる環境構築に地球全体で取り組む(画像:ESA)

     宇宙作戦群では、任務に対応するため、人工衛星の観測や飛行方法、宇宙天気(太陽の活動で起こる地球への影響などを予測する)など、宇宙に関する広範な知識を教育している。また、今後導入される装備品の運用などに向けて、新たな教育訓練プログラムの検討なども進めている。

    部隊醸成:部隊の雰囲気づくりも運営には重要

    これまでもゼロから人間関係を構築する機会が多かった上治忠善准空尉は「宇宙作戦群の隊員たちは、新しい職種に挑戦する意欲や気概にあふれています。そうした隊員が前向きに業務に取り組める雰囲気を作りたいです」と話す

     新編された部隊は、雰囲気づくりも重要になる。各隊員の仕事の取り組み方は元の部隊の影響があるため、業務内容の判断基準もバラバラだ。そのため宇宙作戦群として最良の進め方を考え、隊員同士で話し合って決める必要がある。そんな部隊醸成の中心となっているのが、指揮官を補佐し、同部隊の曹・士と幹部自衛官をつなげる役割である准曹士先任だ。

     業務に必要なことだけでなく、部隊内での決め事などを定め、円滑な運用を目指す。また、隊員の帰属意識を高めるため福利厚生やキャリアデザインにも気を配り、発足したばかりの宇宙作戦群の文化を築いている。

    広報:世界から注目を集める部隊を広報する

    世界各国からの要人来訪を受け、信頼関係を強化している宇宙作戦群。写真は部隊を訪問したオランダ空軍司令官 デニス・ラウト中将(右)

     宇宙作戦群は世界的に注目を集め、各国の軍関係者からの視察が多いという。コロナ禍の制限下だが、多いときは週2、3回の来訪に対応する。

    「各国の空軍関係者は、トップかそれに近い人が訪れます。また空自の各部隊や一般の方など宇宙作戦群への関心が集まっていることから、理解の一助になるよう努力したいです」と話す青木優弥防衛事務官

     また諸外国だけでなく、国内の民間企業やマスコミの問い合わせも多い。部隊には非公開の場所や制限区域もあるため、何が見せられるかなど気を使いながら対応している。

    (MAMOR2023年2月号)

    <文/古里学 写真/村上淳>

    宇宙戦争は起こるのか?

    This article is a sponsored article by
    ''.