•  海上自衛隊と航空自衛隊で採用されているパイロット養成制度「航空学生」。そんな航空学生を支えるのは、直接学生たちを見守る教官や、さまざまな実任務に就く先輩パイロットたち。そんな若ワシのヒヨコたちを教え導く立場の人々は、航空学生出身者も多く、自身の経験も踏まえた上で、後輩たちに愛あるエールを送ってくれた。

    航空学生の合言葉「やる気、元気、負けん気」の真意

    画像: 額に飾られた「やる気、元気、負けん気」の「3気精神」。学生の宿舎などでも目にするこの言葉は、航空学生・航空学生出身者のモットーともいえる

    額に飾られた「やる気、元気、負けん気」の「3気精神」。学生の宿舎などでも目にするこの言葉は、航空学生・航空学生出身者のモットーともいえる

     航空学生にとっての校長先生、現在の航空学生教育群司令もまた、航空学生出身者だ。彼らの中に脈々と息づく「航空学生魂」とはどんなものなのか、彼らのモットーでもある標語の意味とともに聞いてみよう。

    空自パイロットの6割を輩出する航空学生

    航空学生の隊舎の入り口に掲げられている、通称「ヒヨコマーク」は、航空学生の先輩がデザインしたものだとか

     防府北基地に本拠を構える第12飛行教育団(以下12教団)の飛行教育群では、パイロットになるための適性検査を実施し、その中から自衛官としての基礎教育を修了したパイロット候補生を「飛行準備課程」に入れ、飛行訓練開始前の各種訓練や学科教育を行い、さらにT−7練習機を使った初級操縦課程の教育も受け持っている。つまり、空自のパイロットは全員、1度は12教団に所属するのだ。

     さらに12教団には「航空学生教育群」があり、今回紹介してきた航空学生教育を実施している。航空学生からは空自パイロットの6割を輩出しており、パイロット養成の要ともいえる。

    航空学生46期出身で、自身もF-1戦闘機F-2戦闘機を乗り継いだファイターパイロットである相澤1佐。「航空学生は学費や生活費の工面も不要ですし、若くして空を飛び始められます。自衛隊機のパイロットを目指すならお勧めの進路です」

     航空学生たちの教育を指揮するのは、自身も航空学生出身の、航空学生教育群司令・相澤直樹1等空佐だ。群司令いわく、航空学生の2年間は社会人、そして自衛官としての基礎を身に付ける上で重要な期間だという。

    「航空学生は『自衛官であるパイロット』の養成機関ですから、人間として、自衛官として正しく生きることについて学ぶいい機会だと考えています」

     航空学生には、長い間受け継がれている合言葉があるという。それが「やる気、元気、負けん気」の「3気精神」だ。

    「航空学生出身者は、空自における飛行運用の実務者として、組織の屋台骨を背負ってきたと自負しています。それを端的に表すのがこの言葉です。高校を出たばかりの若者にとって、困難を乗り越える心の支え、『お守り』のような言葉でもあります」

     相澤1佐は、学生たちを「国の宝」だと強調する。彼らは10年後には航空要員として国防の第一線に立ち、10年間活躍した後、次の10年で後輩を育てることになる貴重な人材なのだ。

    「一方で、まだ若者ですから、きちんと導いてあげないと道を踏み外すかもしれません。反発されても言うべきことは言います」

     最後に、今の学生たち、そして将来航空学生となる若者たちにこんなメッセージを残してくれた。

    「同じ空を飛ぶのでも、自衛隊のパイロットにしか見えない光景、世界があります。幅広い可能性を持ち、今後の活躍が期待される航空学生の一員として、ここでしかできない経験をしてください。ここで得た経験は、その後の人生の『根っこ』になるはずですから

    【学生へのエール】「学生たちは「国の宝」。長く活躍してもらいたい!」

    教官に聞いた!イマドキ航空学生の指導の工夫とやりがい

     航空学生の若者たちと直接向き合う教官たち。それぞれに航空自衛隊で経験を積んできた教官たちは、学生たちとどのように相対しているのか。そこにある苦労とやりがいを聞いた。

    航空学生の先輩として、根本の考え方を伝えたい

    画像: 航空学生教育群教官(3区隊長)の 井上1尉。航空学生出身、F-2戦闘機のパイロット。2学年の学生に対して主に運動科目や戦闘訓練などの教育を担当する

    航空学生教育群教官(3区隊長)の 井上1尉。航空学生出身、F-2戦闘機のパイロット。2学年の学生に対して主に運動科目や戦闘訓練などの教育を担当する

     自身も航空学生出身であり、戦闘機乗りとして部隊勤務経験もある井上道1等空尉。学生たちにとって、ロールモデルとなる先輩だ。

    「私は、1度航空学生の試験に落ちて、21歳になる前、最後のチャンスで合格しました」と、経験を語る井上1尉。自身が経験した十数年前との違いについてはこう語る。

    「昔は学生に考えさせるよりも、教官から指導されることを受け入れるという教育でしたが、今の若者は納得しないと動きません。失敗したときにも『なぜ失敗したのか』という理由が必要なんです。時代も違いますから、彼らの考えていることや感じたことをきちんと聞いた上で、一方的な指導にならないように気を付けています」

     パイロットとして操縦かんを握るのとは大きく異なる仕事だが、後輩を育てることにやりがいを感じていると語る井上1尉。

    「10代中心の、まっさらな若者が集まっています。彼らに根本的なところから教え、世代や価値観の相違を超えたところで共感し、学生たちの行動や考え方に成長が見られたときには、大きな喜びを感じます」

     航空学生の先輩として、そして現役パイロットとして、井上1尉が学生たちに伝えたいことは何だろうか。同氏が語るには、この2年間は今後の人生を左右する、どんな職に行っても通じる「基礎」を固める期間だという。

    「仕事に臨む考え方であるとか、そうしたコアな部分を知ってもらう期間だと考えています。私も先輩として、彼らに考え方を伝えたい。直接操縦かんを握らない2年間ですが、彼らが今後パイロットを目指す上で必要な、操縦に通じる部分も、伝えていけたらと考えています」

    【学生へのエール】「諦めずに初志貫徹!」

    私は「口うるさい係」に。教官同士で役割を分担

    航空学生教育群教官の迫田2曹。自身は航空教育隊出身で航空学生は未経験。「航空学生出身の隊員には、熱い人が多いですね」と、その印象を語る

     航空学生の教官として、服務指導、教練、そして体育を担当している迫田博美2等空曹。熱意を持って誠実に学生たちと向き合う日々を送る。「普段から、学生の表情をよく見るようにしています。体調不良であったり、悩みを持っていたりということは顔に表れるので、見逃さないようにしています。私はたまたま教官という立場なだけで、偉いわけでも立場だけで信頼されるわけでもないので、学生たちへの接し方には気を付け、対応をおろそかにしないようにしています」と語る。

     具体的には、学生の姿を見かけたら先にあいさつをする、質問には逃げずにしっかりと答えることを心がけているという。迫田2曹によると、指導法や性格の違いから各教官には自然と「キャラクター」が出来上がるそうだ。

    「私は『小言ババア』を自認しています。学生にはうるさい存在だと思われているでしょう」と笑う。難しいのは、自分の常識と学生たちの常識が違うこと。そして、指導内容の伝わり方が学生によって個々に異なることから、伝えたいことの本質を変えることなく、言葉や伝え方を工夫しなくてはならないのだという。

    「口で説明して分かる子もいれば、見せることで伝わる子もいますよね。言葉にしても強いほうがいい、弱めのほうがいい、といろいろです。でも、同じゴールへ導かなくてはならない。甘やかすのではなく、彼らに伝わりやすいやり方で教え導くというのはとても難しいです」

     それでも、学生の成長を見届けられるのは教官という仕事の大きなやりがいだとも語る迫田2曹。

    「ただ、学生はここを卒業してからが本当のスタート。部隊で活躍している姿を見られたときが一番うれしいです」。

    【学生へのエール】「今を大切に!夢に向かっていこう!」

    (MAMOR2022年1月号)

    <文/臼井総理 撮影/伊藤悠平>

    国防に舞い上がれ!自衛隊航空学生

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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