•  どうして自衛隊は、陸・海・空と3つに分かれているのか? そして、どう違うのか? それを知るために、今回は陸上自衛隊の成り立ちや特徴、任務などを簡単に説明しよう。自然災害時における救助・救援活動のみならず、昨今の世界情勢を見るにつけ、日本が有事に巻き込まれる心配も現実味を帯びてきた今、国と国民を守る各自衛隊への理解を深めるのは重要なことなのだ。

    陸上自衛隊:いかなる任務でもきちんと役割を果たす用意周到さが誇り

    画像: 導入が進んでいる陸自最新装備の16式機動戦闘車

    導入が進んでいる陸自最新装備の16式機動戦闘車

    <陸自DATA>(数字は2022年3月現在)

    人員(うち女性):約14万人(約1万1000人)
    駐屯地・分屯地の数:約160
    舞台となったエンタメ作品:映画『戦国自衛隊1549』、『ミッドナイトイーグル』、漫画『ライジングサン』(藤原さとし)、テレビドラマ『テッパチ!』など
    出身の有名人:やす子(お笑い芸人)トッカグン小野寺(お笑い芸人)福島和可菜(タレント)浅田次郎、砂川文次(ともに作家)など

     陸上自衛隊は、敵勢力の侵略から日本の「陸上」を防衛する組織で、人員は約14万人と、3自衛隊で最大数を有する。主な役割は、国土を守る防衛活動、災害発生時の救助・復旧活動、さらには近年重視されている国際平和協力活動の3つ。日本最大の防衛組織であり、全国津々浦々に約160カ所の駐屯地・分屯地を持つ、国民にとって「一番身近な自衛隊」だ。

     近年では、サイバー、電磁波など新たな領域における防衛力の強化や、離島の防衛・奪還など水陸両用作戦能力の強化、南西諸島をはじめとする離島防衛態勢の強化など、安全保障環境の変化に対応した改革が進んでいる。

    占領下に発足した警察予備隊が前身

     第2次世界大戦後、まだ連合国軍による占領下の1950年に発足した「警察予備隊」が陸自の前身だ。同年発生した朝鮮戦争によって、日本駐留のアメリカ軍部隊が朝鮮半島での戦いに向かったため、治安上の空白が生まれることを憂慮したGHQ(連合国軍総司令部)が日本政府に設立を命じたものだった。

     52年には保安庁発足に伴って「保安隊」と改称。さらに54年の防衛庁発足とともに「陸上自衛隊」と改称。現在に至っている。

    中心は普通科部隊。精鋭部隊もある

    第1空挺団の隊員による落下傘降下。敵の脅威を受けている地に航空機で急行し、落下傘で素早く降下してほかの陸上部隊と連携する

     陸自を代表するのは「普通科部隊」で、陸上戦闘力の骨幹とされている。ほかには大砲などで射撃する「特科部隊」や、戦車や偵察部隊を有する「機甲科部隊」などがある。

     陸自部隊の中でもぜひ知ってほしいのが、第1空挺団だ。「精鋭無比」を標語として掲げる部隊で、特殊作戦群(主要任務が対テロ、対ゲリラ作戦の特殊部隊)が創設されるまで、日本唯一の落下傘部隊だった。そのほか、2018年に新編された水陸機動団も覚えておきたい。

     水陸両用車AAV7戦闘強襲偵察用舟艇CRRCといった特殊な装備を持ち、離島の防衛・奪還に特化した「水陸両用作戦」を担う。“自衛隊版海兵隊”ともいわれる。

    富士総合火力演習は有名。災害派遣でも活躍が目立つ

    画像: 富士山を背景に火花が飛び散る迫力の「富士総合火力演習」。戦闘車両や火砲などによる実弾射撃などの訓練が主目的だが、国民への広報の側面も

    富士山を背景に火花が飛び散る迫力の「富士総合火力演習」。戦闘車両や火砲などによる実弾射撃などの訓練が主目的だが、国民への広報の側面も

     陸自の活動は、有事に備えた教育・訓練に加え、災害派遣などの対応が中心。訓練は、個人のものでは射撃訓練や格闘訓練、車両などの操縦訓練などがあり、部隊に対するものでは、各種の戦闘訓練やアメリカ軍との実動訓練などがある。

     こうした訓練の集大成となる、陸自で最も有名な演習が「富士総合火力演習」だ。東富士演習場を舞台に、戦車をはじめ多数の車両・装備・人員が集まって実弾演習を行い、オンライン中継でその迫力に触れることができる。

    最新装備は16式機動戦闘車やV-22オスプレイ

    アメリカの海兵隊航空基地で教育訓練を受け、現在、木更津駐屯地に暫定配備されているV-22オスプレイ

     陸自の主要装備といえば「戦車」。10式戦車は高い攻撃力と防御力をあわせ持つ車両で、現代の戦い方に対応したデータ処理能力や通信能力を持つ。

     最近急ピッチで導入が進んでいるのは16式機動戦闘車。無限軌道ではなくタイヤで走る戦闘車で、舗装路を高速で走れるため、ゲリラや特殊部隊による攻撃への対処、市街地戦にも向く車両。旧型の74式戦車が退役するのに伴って増加中の装備だ。

     陸自にもヘリコプターを中心に航空部隊があるが、この最新装備といえばV−22オスプレイ。国土が南北に長く離島の多い日本にとって非常に使い勝手のよい航空機だ。

    「紫紺色」がベースの制服。正帽には陸自モチーフの桜が

    紫紺色をベースに、ボタンや袖章のゴールドが映えるスタイリッシュな制服

     陸自の制服は2018年、約30年ぶりに更新され、デザインは現代的でスマートに、色もそれまでのグリーンから日本の伝統色である紫紺色に変更された。正帽には桜星を中心に桜の葉と桜のつぼみを配している。

    画像: 日本の風土、植生に合わせた柄の陸自の迷彩服

    日本の風土、植生に合わせた柄の陸自の迷彩服

     また、陸自といえば迷彩服というイメージを持つ方も多いことだろう。海自・空自にも迷彩服はあるが、陸自のものは日本の国土にマッチして目立ちにくい迷彩パターンを採用しており、教育訓練の場などで着用する。

    陸自隊員同士で使われる“業界用語”解説

    ●おりしけ
    漢字で書くと「折り敷け」。陸自でその場に座る(あぐら、体育座り)姿勢のこと。一部では片膝をつく姿勢をいうこともある。

    ●ジャー戦(ジャーせん)

    上が迷彩の戦闘服、下が体操着のジャージーという陸自限定の服装。主に駐屯地内に居住する隊員が、課業外の時間を過ごすときの装い。

    ●真面目(しんめんぼく)
    本腰を入れて何かを行うさま。訓読みの「まじめ」ではなく音読みするのがミソ。

    ●B(ビー)
    防衛大学校を卒業した幹部自衛官のこと。Bは「Boudai」のB。ちなみに一般大学卒の幹部自衛官のことは、「University」からU(ユー)という。空自でも使う。

    ●物干場(ぶっかんば)
    営内隊舎などに備え付けられた乾燥室のこと。「真面目」と同じく、こちらも訓読みの「ものほしば」ではなく音読みする。

    ●風呂飯(ふろめし)
    駐屯地内に居住する隊員が、入浴の前後に隊舎(居住部屋)に戻ることなく食事を済ませる一連の行動のこと。時間のロスをなくすため、同時に済ませる隊員が多い。

    ●ミリミリ
    ミリ単位まで合わせる気持ちで、細部に至るまできちんと行うこと。

    ●ヤマ

    画像: 陸自隊員同士で使われる“業界用語”解説

    陸自の演習場のこと。長期間にわたる訓練などは「ヤマゴモリ」ともいう。

    (MAMOR2022年1月号)

    <文/臼井総理 写真提供/防衛省>

    自衛隊には陸海空があるの知ってた?

    This article is a sponsored article by
    ''.