•  海に囲まれた日本が他国からの侵略を阻止するために必要不可欠となるのが海上自衛隊の掃海部隊だ。海の爆弾である機雷を、海中や洋上から除去する掃海。また、逆に敵の侵入を防ぐ機雷を敷設するのも掃海部隊の任務となる。

     毎年7月に海自の機雷戦能力の向上のために実施される「陸奥湾機雷戦訓練」では機雷敷設訓練、機雷掃海、機雷掃討および水中処分員(EOD員)による機雷処分訓練「ヘローキャスティング訓練」が行われた。ここでは、併せて実施された「機雷掃討訓練」についてリポートしよう。

    機雷処分具(水中航走体)を使った機雷掃討訓練とは?

     ヘローキャスティング訓練前に、同じ海域で、機雷掃討訓練が行われた。取材班を乗せた『ちちじま』では、事前ブリーフィングが行われ、訓練で使用する装備品、S−10を用いての機雷掃討訓練について解説が実施された。

    『ちちじま』の艇内では、乗員がキビキビと動き、活気がある。後部甲板には大きなクレーン、掃海具などがビッシリと並ぶ。ひときわ目を引くのが、長さ3メートル、幅2メートルほどの大きくて光沢のある黄色い物体、S−10機雷処分具だ。

    画像1: 機雷処分具(水中航走体)を使った機雷掃討訓練とは?

    『ちちじま』
    海上自衛隊の掃海艇。2013年に就役して以来、硫黄島の実機雷訓練などさまざまな訓練に参加している。22年4月に発生した知床遊覧船沈没事故の際は災害派遣で沈没船の捜索活動を行った。
    <SPEC>基準排水量:570t/全幅:10.1m/全長:60m/速力:約26㎞/h/乗員:約45人

    画像2: 機雷処分具(水中航走体)を使った機雷掃討訓練とは?

    S-10
    機雷掃討用の機雷処分具。機雷を遠距離から探知し、近距離から識別する可変深度ソナー、カメラ、機雷処分具の機能を装備している
    <SPEC>重量:995キログラム/全長:3.4メートル/幅:1.8メートル

    無人潜水機で機雷を除去

    画像: 艦橋は乗員が行き交い、号令が飛び交い、活気に満ちている。高らかに出航ラッパを吹く乗員。掃海艇の乗員は少人数のため、任務を兼任している乗員も多い

    艦橋は乗員が行き交い、号令が飛び交い、活気に満ちている。高らかに出航ラッパを吹く乗員。掃海艇の乗員は少人数のため、任務を兼任している乗員も多い

     S−10とは、遠隔操作できる無人の潜水機のこと。海中深く潜む機雷を探知、カメラで撮影する。本体にはソナーと機雷処分用の爆薬を装備している。画像は掃海艇のCIC(指揮所)のモニターに送られ識別される。S−10は最終的に、機雷の近くに爆薬を落として退避し、掃海艇に戻り、その後、機雷を処分する、という流れになる。

     このような無人機は、生身のEOD員の危険を減らすため開発された。今回の訓練では、あらかじめ掃海艇の探知機で機雷を発見し、そのあと改めてS−10を投入しさらに機雷の正確な位置を特定するという想定で行われた。

     乗員はヘルメットと救命胴衣をつけ、チームワークよく無駄のない動きで、掃海長の指示のもとS−10をクレーンでつり上げ、ゆっくりと海上に運び出す。「S−10処分用意!」、「航走体投入用意!」と号令。S−10はクレーンから離れ、海に入る。

    画像: 掃海長の指示をうけ、S-10は静かに海中に潜っていく。CICのモニター画面に機雷が映るよう、S-10本体の位置を海中で動かす。機雷は埋まっているか、どんな形状かなどを確認する

    掃海長の指示をうけ、S-10は静かに海中に潜っていく。CICのモニター画面に機雷が映るよう、S-10本体の位置を海中で動かす。機雷は埋まっているか、どんな形状かなどを確認する

    「処分はじめ!航走体発進!」

     S−10が海中に潜り、黄色い本体がどんどん見えなくなる。しばらく時間が経ち、『ちちじま』の水測員は「深度何メートルの位置に向かえ」と掃海長から指示をうけ、コントローラーを操作。海中の機雷をとらえるためにどう潜航し、どう近づくか、向き、角度などを調整する。

     S−10のカメラに映る範囲は狭いため、繊細な操作が求められるという。そして、しばらくしてS−10は海面に姿を見せ、クレーンで揚収された。

     実際の処分ではS−10は、誘爆させる距離まで機雷に近づき、腹部から爆雷を落として退避したのち、タイマーで爆発させる。そのため、もっと時間がかかるそうだが今回は訓練なので実際に爆発はさせず機雷を無力化することに成功したとして、訓練は無事に終了した。

     このように海中での機雷捜索および処分は、一般人の目にはあまり触れない。伝えられることも少ない。これほど危険な任務であるのに……。しかし誰かがこの任務を引き受けなければ、地道に根気強く1つひとつの機雷を処分しなければ、日本の平和は確保されないのだ。

     目立たぬ場所で、掃海部隊が日本を根底から支えてくれている。掃海部隊に感謝あるのみ。『ちちじま』の乗員がまぶしく見えた。

    一丸となって機雷と戦う 掃海艇『ちちじま』乗員たち

    【新井浩司 3等海尉 掃海長】

     この道23年という掃海長の新井3尉。ペルシャ湾派遣の報道で掃海部隊の存在を知り、海外でも活躍する実戦に近い部隊だと感じ志望したという。「安全に作業を指揮するのが任務です」と話した。

    【佐々木一馬 3等海曹 水測員】

     佐々木3曹は21歳で海自に入隊。新井掃海長の指示のもと、S-10をコントローラーで操作している。

    「海中に潜む機雷を見つけるのが任務。絶対見つけてやるぞ! という気持ちで取り組んでいます」

    大きな転換期を迎えた掃海部隊

     いざ有事となった場合、ウクライナのように機雷を仕掛けられ航路が封鎖されることがある。海に囲まれた島国日本を守るには、機雷を除去しなければ、護衛艦も一般の船も海に出ることができない。

     機雷除去の重要性について元掃海隊群司令の福本出氏に伺った。併せて掃海部隊の新しい任務についても話を聞いた。

    掃海隊は離島防衛の要として機能

    画像: 2022年4月に就役した護衛艦『もがみ』。護衛艦の機能だけでなく機雷の敷設や掃海機能も併せ持つ多機能な艦船だ

    2022年4月に就役した護衛艦『もがみ』。護衛艦の機能だけでなく機雷の敷設や掃海機能も併せ持つ多機能な艦船だ

    「掃海部隊は、機雷戦に加えて水陸両用戦も主任務となりました。水陸両用戦とは、海上から敵勢力がいる陸上に対する攻撃を行う作戦で、陸・海・空各自衛隊による統合作戦になります。

     離島防衛が喫緊の課題となった今、海自に欠落していた作戦能力を担う部隊に変化しつつあります。最新鋭のFFM『もがみ』型が掃海隊群の直轄艦となりました。この艦はステルス性も高く、敵の脅威があっても活躍できる画期的な艦です」と福本氏は説明する。

    「FFMとは、護衛艦(frigate)の艦種記号のFFと、機雷(mine)と多用途(multi)のMを表します。乗員が約90人と省人化されコンパクト。主として沿岸部での役割のほか、機雷を発見し除去する能力もあります」

     航路に機雷を発見した場合、今までは掃海艇しか対処できなかったが、FFMは機雷を発見・回避できるソナーのほか、人が操作しなくても自動で機雷を探すOZZ−5(注:自律型水中航走式機雷探知機。探知困難な沈底機雷などを無人で捜索する)と処分用自走爆雷を装備する。

     機雷の除去は海上自衛隊にしかできないこと。世界に冠たる掃海技術を維持しながら、新しい任務にも対応するなど、大きな転換期を迎えた掃海部隊。世界の安全保障環境を見るに日本の平和を守るため、その重要性はますます増大している。

    【福本 出氏】
    石川製作所東京研究所所長・常務取締役。元海将。海上自衛隊では掃海隊群司令など、主として掃海分野において部隊指揮官などを歴任。東日本大震災では掃海部隊を率いて沿岸部の捜索救難に従事した

    (MAMOR2022年11月号)

    <文/鈴木千春(株式会社ぷれす) 撮影/村上淳>

    今、日本の防衛に必要なのは機雷戦訓練だ!

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