• 画像: ともに過酷な訓練を乗り越え、命を預け合う以心伝心のバディ同士。艦内後部にあるEOD員の部屋は明るい雰囲気で活気に満ちていた

    ともに過酷な訓練を乗り越え、命を預け合う以心伝心のバディ同士。艦内後部にあるEOD員の部屋は明るい雰囲気で活気に満ちていた

     海に囲まれた日本が他国からの侵略を阻止するために必要不可欠となるのが海上自衛隊の掃海部隊だ。海の爆弾である機雷を、海中や洋上から除去する掃海。また、逆に敵の侵入を防ぐ機雷を敷設するのも掃海部隊の任務。

     そんな掃海部隊のなかでも、あるときは海面で、または海中で、さらには掃海ヘリから海へ飛び込んで、危険と隣り合わせの中、機雷を処分するプロフェッショナルであるのが「水中処分員」だ。Explosive Ordnance Disposalを略してEOD員と呼ばれている。

     海中では視界も悪く、会話もできない。そんな中、指先や手で合図する手先信号だけで、命がけの任務を完遂する。己の肉体1つで、海中の爆発物、機雷に立ち向かう強者たちだ。

    体1つで爆発物に向かう勇気と使命感を持つ

     毎年7月に青森県の陸奥湾で行われる「陸奥湾機雷戦訓練」には、全国の部隊から多くのEOD員が参加し、技術を向上させている。EOD員になりたての若者もベテランも一堂に会し、腕を磨き合う。中には女性の姿もあった。たくましい体格から分かるように、学生時代には水泳部員だった隊員も多く、体力、精神力ともに屈強なスーパーマン&スーパーウーマンたちである。

     EOD員になるには、いくつものハードルがある。「スクーバ課程」で基礎を学び、次に「潜水課程」で専門教育を受ける。さらに「水中処分課程」で爆発物処理について学ぶ。潜水と爆発物処理の両方の技能を持つスペシャリストだ。

     彼らが機雷と向き合う場所は海。自然相手なだけに、潜ってみなければ海中の環境(視界・海流・海底地形など)やその危険度は分からない。予期せぬトラブルが起きた場合、自分自身の判断で対処するため、自主性が強いことが特徴だ。

    画像: 青森県にある陸奥湾の訓練海域でヘローキャスティング訓練を行う掃海ヘリMCH-101と、ヘリの風圧で体が左右に揺れながらも確かな腕力でロープをつかみ、海中へ降下するEOD員。背後には掃海母艦『ぶんご』の雄大な姿が見える

    青森県にある陸奥湾の訓練海域でヘローキャスティング訓練を行う掃海ヘリMCH-101と、ヘリの風圧で体が左右に揺れながらも確かな腕力でロープをつかみ、海中へ降下するEOD員。背後には掃海母艦『ぶんご』の雄大な姿が見える

     今回のへローキャスティング訓練では、ヘリから降下し、海面に浮かぶ機雷を処分することがEOD員の役割。ヘリからつり下げた、ファストロープをつかみ、両手の握力を使ってスルスルと降下する。素手では摩擦熱で火傷をするため革製の手袋が必須。落下速度を調整しながら所定の海面に降下するオペレーションだ。3人1組となり、1人は指揮官として上空のヘリから指揮を執る。

     まず初めに爆薬を背負ったEOD員ワンがファストロープで降下し、続いてEOD員ツーが降下する。ダウンウオッシュによる激しい水しぶきの中をEOD員ワンが泳いで、浮かんでいる機雷に近づく。機雷に爆薬をセット。その後、再び泳いでヘリの下へ戻り、ホイストロープで上がる。

     次にEOD員ツーが、時間差で機雷に近づき、EOD員ワンがセットした爆薬に、導火線をつなぎ点火。セットされたタイマーの時間内に、ヘリの下まで泳ぎ、ホイストロープで上がるのだ。2人で行う理由は危険な機雷へ近づく時間を短くし、EOD員の身を守るためだ。また、万一1人に何かあったとき、もう1人がサポートする態勢を整えている。

     実際の処分ではEOD員全員を乗せてヘリが安全圏に退避し、上空から機雷の爆破を確認、という流れ。決められた時間内に、すばやく点火して迅速に退避する、という難易度の高い訓練なのだ。

    画像: EOD員がボートから海へ降りて、機雷を処分する方法をボートキャスティングという。機雷に爆薬をセットし、導火線に点火する作業はヘローキャスティングと同じだが、EOD員をどの手段で現場にキャスティングするか、ヘリか、ボートかは機雷の種類や位置により変わる 写真/尾㟢たまき(※写真は今回の訓練のものではありません)

    EOD員がボートから海へ降りて、機雷を処分する方法をボートキャスティングという。機雷に爆薬をセットし、導火線に点火する作業はヘローキャスティングと同じだが、EOD員をどの手段で現場にキャスティングするか、ヘリか、ボートかは機雷の種類や位置により変わる 写真/尾㟢たまき(※写真は今回の訓練のものではありません)

     EOD員にとって、掃海ヘリとともに行うへローキャスティングの訓練機会は多くはないため、一発勝負のような緊張感がある。それでも見事にやってのけるところが技量の高さ、度胸の強さの証しだ。ワンの役割もツーの役割もEOD員は全員できるという。1つ間違うと命の危険がある任務。厳しい訓練を繰り返してEOD員は練度を上げている。

    体ひとつで機雷に立ち向かうEOD員たち

    【鈴木政人3等海曹 掃海隊群司令部 水中処分員】

     EOD員歴6年目の鈴木3曹は、陸奥湾機雷戦訓練に4、5回参加しているベテランだ。

    「体力に自信があったためEOD員になりました。基本的に体力勝負の世界なので、己の体を鍛えることが、苦難を乗り越えることになり、それがメンタル維持にもつながります」

    【浦山雅弘海曹長 掃海隊群司令部 水中処分員】

     命がけの任務に「皆プライドを持ってやっています。目立つことはないが、最後にはわれわれしかいないという誇りを持っています。ペルシャ湾の先輩の顔に泥を塗らないように、技術やマインドを受け継ぎ、伝承していきつつ、新しいことにも挑戦したい」と話す。

    【西潟勇司3等海曹 舞鶴警備隊 水中処分員】

     以前は護衛艦で任務に就いていた西潟3曹「自分の体で潜って国を守りたい」とEOD員に。「自衛隊というと災害派遣などの活動が目立ちますが、私はEOD員として最前線で爆発物から国を守るような、本来任務に近い仕事がしたい」と熱く語る。

    【杉村幸次郎3等海曹 掃海隊群司令部 水中処分員】

    「大学まで水泳部だったので、得意な水泳を生かして人のためになる仕事がしたかったのと、掃海という爆発物処理の任務を知った際に憧れを持ちました」と語る杉村3曹。厳しい訓練を克服してEOD員に。

    「誰でもなれる職種ではないのでどんどん経験を重ねてがんばりたい」

    【中島万里花海士長 横須賀警備隊 水中処分員】

     中島士長は「水泳が得意なのでEOD員に。訓練種目の中には男性との力の違いを感じて焦ることもありましたが、何度も練習を重ねて前向きに乗り越えました」。

     今後の目標は「経験を積み、女性EOD員が増えるように働きかけたい」と自信に満ちていた。

    (MAMOR2022年11月号)

    <文/鈴木千春(株式会社ぷれす) 撮影/村上淳>

    今、日本の防衛に必要なのは機雷戦訓練だ!

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