2013年に策定された中期防衛力整備計画に基づき、南西地域の防衛態勢強化を進める防衛省は、18年3月27日、陸上自衛隊に「水陸機動団」を新編した。
島しょ防衛のために、海上自衛隊、航空自衛隊との協同の下、目標地点に迫り上陸、奪還などを行う水陸両用作戦を展開する部隊として、年々その存在感と重要性は高まっている。国防の最前線で領土を死守するために、水を馴らして陸を駆ける精鋭部隊・水陸機動団、その全貌に迫る!
いま、「水陸機動団」が必要なワケ
日本を取り巻く安全保障環境は年々大きく変化している。中国や周辺諸国との領海をめぐるあつれきや朝鮮半島の不安定な状況がいっこうに改善されない中、四方を海に囲まれたわが国の防衛の要としてクローズアップされていったのが島しょ部、特に南西諸島である。
本土から遠く離れ、鹿児島から台湾までの長さ1200キロメートル、幅1000キロメートルにも及ぶ広大な海洋地帯には、無人のものを含め200島ほどの島々が存在する。それをいかに防衛し、侵攻された場合にどのように奪還するかは大きな課題であり、従来の組織では速やかな上陸、奪回、確保が難しかった。
そこで浮上したのが、島しょ部での各種事態に対処できる、水陸両用作戦を行える専門機能を備えた機動運用部隊の創設である。2014年度から18年度までの中期防衛力整備計画では、陸・海・空各自衛隊による統合機動防衛力の構築と、より実効的な島しょ部防衛のための部隊の新編がうたわれた。これに基づき15年3月に佐世保の相浦駐屯地内に水陸機動準備隊が置かれ、水陸機動団の新編のため、さまざまな訓練や装備、施設などの準備が進められた。
西部方面隊隷下であった西部方面普通科連隊などをもとに18年3月27日、各方面隊から独立した形で、陸上総隊の直轄部隊として水陸機動団が新編されたのである。
水陸機動団の主力装備、AAV7を解説!
水陸機動団が誕生したとき、最も注目されたのが水陸両用車「AAV7」の存在である。洋上の輸送艦から自らの力で海を渡り、そのまま上陸して隊員を運ぶとともに攻撃もできるAAV7、その全てを紹介しよう。
【人員輸送型】
全幅:3.3m 全長:8.2m 全高:3.3m 重量:約24トン 乗員数:3人+上陸要員(最大)21人 最高速度:約72km/h(地上)、約13km/h(水上) 主要火器:12.7mm重機関銃、40mm自動てき弾銃
機種:AAV7は目的別に3種類がある
左から通常の人員輸送型、部隊を指揮・統制するために上部の火器の代わりに通信器材が装備された指揮通信型、クレーンとウインチが設置された回収型。
乗員用ハッチ:3人で操縦するために3つのハッチが車上に
車体上部に3つのハッチがある。車体前方左側に操縦士、その右側の銃塔にその車両を統制し火器の射手でもある車長、操縦士の後ろに分隊長が乗車する。
後部ハッチ:上陸要員の出入り口となるハッチ
防水仕様となっているこのハッチを通して、乗員以外に内部に21人の上陸要員を収容することができる。また天井部分も緊急脱出用に開閉することができる。
火器:上部の銃塔に2種類の火器
車載されている火器は、陸自車両の定番火器ともいえる12.7ミリ重機関銃(左)と、装甲車両も攻撃できる40ミリ自動てき弾銃(右)。
ウオータージェット吐出口:陸上では閉じ、水上では開く
履帯で陸上を走るときは、ウオータージェットの吐出口をカバーが覆い、泥や砂、石などが吐出口内に入るのを防いでいる。
水上では後部左右に設置されている吐出口から、後方に高圧のウオータージェットを噴出して時速約13キロメートルで航行する。
バウ・プレーン:水上航行するときに開く
波による車体の揺れを少なくして安定性を増すために車両前部に付いている「バウ・プレーン(波切り板)」。水上航行時に展開し、陸上では閉じている。
履帯:砂浜のような悪路でも上陸して走行可能
上陸する際に、足場の悪い波打ち際でも一気に進めるよう陸上では履帯で走行する。履帯にはアスファルトなどの路面を傷めないようゴムパッドが装てんされている。
点検:海上訓練前に入水点検槽でチェック
車内の気密性は保たれているか、水中でウオータージェットは正常に作動するか、海上訓練に入る前に安全点検用のプールで確認する。
洗車:特殊な洗車装置
海上訓練後は車体に塩分が付着したままだと腐食や故障の原因となるので、必ず洗車装置の中を低速で走行し表面の塩分を洗い流す。この装置は毎分200リットルの水を上下左右にある130個のノズルから噴射し、塩分や砂などを洗い落とす。
ウオータージェットで海を渡り輸送、火力支援を行う
AAV7は「水陸両用強襲輸送車7型Assault Amphibious Vehicle, personnel.model7」の略で、もともとはアメリカ海兵隊の上陸強襲用の輸送車として開発された。
AAV7の特徴は何といっても、水上を航行できる装甲車であることだ。同じく水陸両用の94式水際地雷敷設装置がプロペラ推進なのに対し、AAV7は水上での動力はウオータージェット推進で数十キロメートル以上の距離を航行できる上に、ウオータージェットが使えない場合でも履帯の回転で水をかいて航行することもできる。
約24トンの重量はほぼ同サイズの10式戦車の約44トンと比べて非常に軽く、気密性に優れ、内部には排水用に4つのポンプが備わっている。また重心が低いため、水上で横転しても自律回復する構造となっている。さらに輸送車でありながら火力・防護力にも優れているのだ。
AAV7を操縦するには大型特殊免許だけでなく小型船舶免許(1級)も必要である。さらに教育隊での着衣水泳などの「洋上活動」の特技の取得、緊急脱出訓練の履修、水陸両用車課程の修了が義務付けられている。
なお、整備を担当している後方支援大隊の藤田大樹2等陸曹によると、「AAV7は艦艇に積載するので、部品や工具の重量や数に制限があります。そのため携行する部品などの選定が重要です」と水陸両用車ならではの整備の難しさがあるそうだ。
<文/古里学 写真/村上淳、防衛省 イラスト/野林賢太郎>
(MAMOR2020年4月号)