• 画像: AIのプログラムの編集、AIが学習するための学習パラメータの設定や、学習後の性能結果を分析し、AIの学習状況や性能の把握を行い、部隊にAI(学習済モデル)を提供する

    AIのプログラムの編集、AIが学習するための学習パラメータの設定や、学習後の性能結果を分析し、AIの学習状況や性能の把握を行い、部隊にAI(学習済モデル)を提供する

     海上自衛隊には、航空機に搭載する各種装置のプログラムを更新して、より速く、正確に任務を遂行できるよう、日々開発や改善を行う部隊がある。

     それが航空プログラム開発隊(以下、航プロ隊)で、近年は、AIの導入に関する研究にも力を入れている。日本の海と空の平和をプログラムする航プロ隊を紹介しよう。

    航空プログラム開発隊が行うAI研究とは?

     AIの研究・開発を行っている航プロ隊は、自衛隊の中でもっともAIの技術、ノウハウが進んでいるといわれている部隊だ。

     そもそもAIにはどのような特徴があるのか、また、AIを導入することで、現場の任務にどのように反映されるのか、さらに、AIの導入が国防にどのように関わるのか、分かりやすく説明しよう。

    8人の精鋭がAI研究を行う自衛隊の最先端部隊に迫る

     航プロ隊にある先進技術調査研究プロジェクト室(以下、先研室)は、AIをはじめとする先進技術の研究、装備品への導入のための実証調査などを行っている隊司令(部隊を統括する指揮官)直轄の部署である。

     室長である佐藤潤一3等海佐を筆頭に、AI・プログラム技術に対して高い志を持つ8人の精鋭によって、最先端技術の装備品への応用を目指す実務的な部署として立ち上げられた。

    【佐藤潤一3等海佐】
    先進技術調査研究プロジェクト室長として、世界のAI技術の動向調査や技術検証、将来を見据えた技術的・戦略的な研究を統括

     AIの特徴は、データから学習し、精度を向上させることにある。例えば従来のプログラムでは、障害物があった場合は右側に回避するとプログラミングすれば右側にしか動かない。

     一方AIは、左右上下どちらに動くのが最適解かを状況や状態によって判断する。AIは、大量のデータをコンピュータが人の手を借りることなく自ら分析してパターン認識し学習していく「ディープラーニング(深層学習)」の技術が開発された2012年ごろから劇的に進化していった。

     同時期に海上自衛隊でも保有している膨大なデータを活用して、AIの装備品や各種システムへの応用が図れないか研究が始まり、20年に先研室が正式に設立された。

     AIを導入することによって、どのようなメリットがあるのか。メンバーの栗本裕貴1等海尉は、人、物、金など限られたリソースの中で、任務の質を維持・向上するためには、AIをはじめとする先進技術の導入が必須であると強調する。

    「高速、高精度で疲れずに思考し続けられ、それが省力化やコストカットにつながる。これがAIを導入する大きなメリットです。しかし、だからといって人がいらなくなることはありません。情報の処理・整理などの単純作業はAIが行っても、高度な意思決定は人間の担当です。AIは目的を達成するためのあくまで手段なのですから」

    AIの情報・技術で優越を図ることが国防力アップの鍵

    AIのディープラーニング中のコンピュータ。膨大なデータを休むことなく高速で学習を繰り返し、AIは賢くなる

     佐藤3佐によると、軍事的にはAIはすでに研究のレベルを超え、試験運用による検証、さらに実用の段階に入っているという。そのため先研室は、単なる研究室だけではなく、AI導入を検討している関係他部署との折衝や将来の技術戦略の立案や提案、研究成果の共有なども行い、日夜AIの研究に励んでいる。

    「人間だと長時間にわたる任務の遂行には肉体的な限界がありますが、AIは制約がありません。また、人が立ち入ることが危険な領域においては、AI搭載の無人機を使うことで、人への負担を大幅に減らすことができます」

    画像: 実機と同じディスプレーや通信環境を用意し、改修したプログラムが正しく動くか、不具合はないか検査する隊員たち

    実機と同じディスプレーや通信環境を用意し、改修したプログラムが正しく動くか、不具合はないか検査する隊員たち

     これまで熟練者によって行われていた艦艇や航空機の各種センサーによる目標の類識別は、AIが瞬時に判断することが可能になる。こうした熟練者、経験者や高度な技術や専門的な知識が必要で、そのために何年もかけて人を養成していかなければならなかった作業を、誰がやっても同じ判断、同じ成果が出るようにするためにAIは大きな力を発揮する。

     栗本1尉は、世界的に見ると無人機などにはAIの技術がかなり転用されているようだと語る。一方日本全体では、まだまだ関連部門での研究が少なく、この状況を打破するためには官民が連携してオールジャパンで研究・情報共有し、先進技術の獲得・ノウハウの共有・実用化を推進していく必要があるという。

     佐藤3佐は、これからの日本の国防力、抑止力の向上のためには、情報・技術分野でのリードが必要不可欠だと語る。将来的には航空機や艦艇、地上システムなど、幅広い対象へのAI搭載を検討中だ。そのためメンバーには、専門分野にとらわれない柔軟な発想を持つ、若い人材の力が必要なのだという。

    【栗本裕貴1等海尉】
    先進技術調査研究プロジェクト室員として、試作したAIを活用し、その機能・性能が部隊でどのように利用できるかなどを検証している

    (MAMOR2022年8月号)

    <文/古里学 写真/荒井健>

    **ー自衛隊AI部隊、出動せよ!

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